●サイドバック起用に応えた上島拓巳

 明治安田生命J1リーグ第15節、横浜F・マリノス対アビスパ福岡が28日に行われ、2-0でマリノスが勝利した。3月12日以来のリーグ戦先発出場となった上島拓巳は、本職のセンターバックではない右サイドバックでプレー。マッチアップしたルキアンを封じつつ攻撃面でも高いクオリティを見せていた。

 2月11に行われたFUJI FILM SUPER CUP2023(富士フィルムスーパーカップ)。今季からマリノスでプレーする上島にとって公式戦デビューとなったこのヴァンフォーレ甲府戦で、上島は右サイドバックで起用された。「キャンプではまったくやっていなかった」というスクランブル起用だったが、「3センターバックの右のようなイメージでやってほしい」という指揮官のリクエストを自身の中で消化し、2人のセンターバックとともに後方から攻撃を組み立て、守備の部分では球際の強さを発揮していた。

 それから3ヶ月半が過ぎた。試合終盤にクローザーとして最終ラインに加わることは何度かあったが、右サイドバックで先発するのは福岡戦が3度目だったという。甲府戦と比較するまでもなく、上島は“マリノスの右サイドバックらしい”プレーを見せていた。

 先制点のシーンではアンデルソン・ロペスの落としを受けてインサイドを持ちあがり、サイドに開くヤン・マテウスにつないでいる。マテウスは鋭いドリブルで切り込み、浮き球のクロスをロペスが頭でゴールに押し込んだ。本職のサイドバックと見間違うようなプレーだった。

「頭の中が整理されていきていて、高い位置や中で受けるというオプション、引き出しが自分の中でできてきた」と上島は振り返る。「ルキアン選手が高い位置でふらふらっと守備に来ることが分かっていたので、その後ろは実際に狙っていました。ロペスに入った後のサポートも狙い通りだった」と明かした。

●上島拓巳が古巣戦にかけた思い

 右膝蓋骨骨折から復帰を目指す小池龍太の欠場が続く中、松原健の出場停止により上島に出場のチャンスが回ってきた。ここまでリーグ戦での先発出場がわずか1試合という状況の中、上島にはこの試合にかける思いがあったという。

「今まではオプションの1つとして緊急でサイドバックをやっていましたけど、スタメンを狙いにいくと意気込んでいました。小池龍太選手が長期離脱の中で自分がスタメン争いに絡むことがチームの底上げにつながると思う」

 サイドバックが手薄なチーム事情もあるが、上島はサイドバックでも出場機会を虎視眈々と狙う。ただ、決して本職のセンターバックを諦めたわけではない。目指すのはどちらのポジションもこなせる選手で、2歳年下の冨安健洋を参考にする部分もあるという。

「もちろんセンターバックが自分の本職だと思っていますし、そこでスタメンを勝ち取るのは大前提として、サイドバックとしても高いレベルでプレーができるようになりたい。去年の岩田(智輝)選手はどこでも出ていました。自分もそういう存在になりたいので、サイドバックでも松原選手を脅かす存在になれればいい」

 昨季のリーグMVPに輝いた岩田は、センターバックとボランチのどちらでも素晴らしいパフォーマンスを見せていた。サイドバックを経験することでプレーの引き出しを増やすことができれば、上島もさらに頼もしい選手へと成長するだろう。

(取材・文:加藤健一)