VfBシュトゥットガルトでプレーした元サッカー日本代表DF酒井高徳と同クラブで指導者や通訳を歴任した河岸貴氏。両者の親交は10年以上も続き、現在でもフットボール談義を長時間交わす間柄だという。今回は、シーズン開幕前に行われた両者の対談の一部を抜粋してお届けする。(取材:Footballcoach、構成:編集部)
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●酒井高徳がドイツで受けた衝撃

 酒井高徳は20歳のときに海を渡り、アルビレックス新潟からVfBシュトゥットガルトに移籍し、以後7年半に渡ってブンデスリーガの舞台で世界有数の選手たちと鎬を削ってきた。

 そのうち、3年半を過ごしたシュトゥットガルトでは、河岸貴氏との出会いがあった。河岸氏は2004年にドイツに渡り、06年からシュトゥットガルトの指導者を務め、トップチームやアカデミーの指導者、酒井や岡崎慎司らの通訳、スカウトなどを務めている。ドイツで世界最高峰のフットボールを見続けてきた河岸氏は、昨年11月、自著『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』を上梓した。

「BoS理論」におけるボール非保持時の部分、「Ballgewinnspiel:ボールを奪うプレー」を記した同書の帯には、「ドイツでの革命。『守る守備から攻める守備』が自分を変えた」という酒井のコメントが載っている。両者の親交はシュトゥットガルトを離れた後も続き、今でも1時間以上にわたってフットボールの議論を深める間柄だという。

「(日本では)今は守備、今は攻撃なんだと思って物事を判断していたから、攻撃ありきの守備じゃなかったし、守備ありきの攻撃じゃなかった。それが連動することがいかに大事で、その連動があるがゆえにヨーロッパのサッカーのテンポが速いというのを現実として気づいた」

 20歳で海を渡った酒井は、日本とドイツで「守備」と「攻撃」における考え方の違いに衝撃を受けたという。そして、それが同書の帯にもあるように酒井を変え、「自分からしてみたら新鮮で、革命でしかなかった」と当時を振り返る。

 7年半にわたるドイツでの活躍を経て、2019年夏に酒井はJリーグに帰ってくる。ヴィッセル神戸に加入した酒井は、昨シーズンに明治安田生命J1リーグ優勝に貢献した。「自分たちが掲げているサッカーの予測だったり、反応だったりが大事だということは常々口で言っているし、自分で体現して教えている」と言う酒井は、昨季をこう振り返る。

●ヴィッセル神戸で「ずっと言い続けてきて、理解し始めた」

「ずっと神戸で言い続けてきて、(他の選手が)言ってきたことを理解し始めて、本当にやりたいサッカーを体現できたと思う。みんな今のところは同じ考え方で俺らのセオリー通りのサッカーができていることは、昨シーズンの優勝の大きなキーポイントだったと思う」

 酒井の言う「本当にやりたいサッカー」は、酒井自身がドイツで経験してきたものに重なる。神戸が実施したプレシーズンキャンプを視察した河岸氏は「ゴールを奪う守備は常に連続的で、攻守の境目がない」という『BoS理論』に重ねながらそれを表現する。

「高徳の立ち位置は素晴らしい。まさにボールにオリエンテーションしていて、ボールがどういうベクトルを向いているか、ボールを持っている人がどういう体勢にあるのかによるポジショニングだった」

 酒井をはじめとする経験のある選手たちが地道にチームに落とし込んでいった基準が、チームに浸透した結果が、昨季のリーグ優勝という快挙だった。酒井は「判断や判断基準は俺を見て(他の選手が)感じていると思う」と言う。

「横が連動して、前と後ろが連動して、どんどん圧縮してボールを取って、取った時には人数がいるので前に出ていける。それの繰り返しでサッカーのスピード感が出ているので、サッカーが楽しい、やりがいのあるサッカーに変わったというのはみんなが感じている。今となっては(それが)神戸で1番のバロメーター」

(取材:Footballcoach、構成:編集部) 

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