●FC町田ゼルビアの3バックがサンフレッチェ広島にとって「ありがたい」理由

明治安田J1リーグ第6節、FC町田ゼルビア対サンフレッチェ広島が3日に行われ、1-2で広島が勝利した。無敗同士の上位対決は、アウェイの広島が内容でも結果でも勝ることに。この試合までに4勝1分で首位を走る躍進を見せてきた町田のサッカーは、なぜ通用しなかったのだろうか。(取材・文:藤江直人)
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【動画】裏目に出た町田の采配… FC町田ゼルビア対サンフレッチェ広島

 いい意味での違和感、と表現すればいいだろうか。雨が降り続く敵地・町田GIONスタジアムで前半のキックオフを迎える直前。サンフレッチェ広島の選手たちは、無敗で首位を快走する昇格組のFC町田ゼルビアのフォーメーションが、開幕から前節までの5試合と大きく違っていると気がついた。

 これまでは4バックだった最終ラインに、右からチャン・ミンギュ、ドレシェヴィッチ、加入後初先発を果たしたキャプテンの昌子源の3人が並び、左サイドバックの林幸多郎が高い位置を取っている。町田は3バックに変えて、無敗で追走してくる広島との大一番に臨もうとしていた。

 最終ラインの枚数だけではない。町田はシステムそのものも、広島とまったく同じ[3−4−2−1]に変えていた。いわゆる「ミラーゲーム」で臨んできた町田を、最終ラインの真ん中を担う荒木隼人は「僕はすぐに負傷して代わっちゃったので、あれですけど……」と断りを入れた上でむしろ歓迎した。

「ミラーゲームできたのは意外でしたけど、僕としてはすごく噛み合うと思ったし、自信もありました。僕たちに対してミラーゲームでくるのは、普段から3バックで戦っているチームならばありうると思いますけど、あまりやっていないチームがぶつけてくるのは、ありがたい状況なのかな、と」

 まったく同じシステムのチームが対峙すれば、必然的に1対1で対面する場面が増える。そして、球際の攻防で発動される強度の高さこそが、ドイツ代表のヘッドコーチやギリシャ代表監督などを歴任した、ドイツ出身のミヒャエル・スキッベ監督のもと、広島が身にまとってきたストロングポイントだった。

●ストロングポイントが凝縮されたサンフレッチェ広島の先制点

「球際でのパワーやスピードといった面で、僕たちには強さといったものがチームとしてある。なので、基本的にミラーゲームになれば、僕たちとしてむしろありがたいと思っていました」

 ありがたいと感じた理由を荒木が説明すれば、1トップを務めてきたピエロス・ソティリウの負傷離脱に伴い、ポジションをボランチから本来のシャドーに上げて2試合目の満田誠も続いた。

「僕たちはミラーゲームで紅白戦などをしているので、そういった点では慣れているのかな、と」

 1対1の攻防で町田を上回り、セカンドボールの回収率を高め、相手選手の背後を突いて入れ替わるようにカウンターを仕掛ける。ストロングポイントを前面に押し出した広島の戦い方は、15分に荒木が負傷退場し、右ウイングバックの中野就斗が荒木の位置に入った後もほとんどぶれなかった。

 FW大橋祐紀が31分に決めた先制点には、広島のストロングポイントがすべて凝縮されていた。

 町田のDFドレシェヴィッチが放ったロングボールを、身長194cm体重93kgの巨躯を誇るFWオ・セフンが中野に競り勝って前線へとすらす。ここまでは町田の狙い通りだった。しかし、セカンドボールの攻防でFW藤尾翔太が広島のキャプテン、DF佐々木翔に後塵を拝してしまう。

 次に町田の柴戸海、広島の松本泰志と両ボランチが競り合うもボールは再びこぼれる。さらにオ・セフンに対して170cm63kgの満田が詰め寄ると、こぼれ球は激しいデュエルを介して左タッチライン際にいた広島の左ウイングバック、東俊希のもとへ。すかさず広島のショートカウンターが発動された。

 ペナルティーエリアが見えてきたあたりで、東は内側をフォローしてきた満田へボールを預けた。

●相手の動きが見えていた満田誠

「最初はドリブルで運んでシュートを打とうかなと思いましたけど、相手も足が止まっていて、ボールウォッチャーになっていたので。ゴールに近い位置にいた大橋くんへ、落ち着いてパスを通しました」

 自軍のゴール前とあって、無意識のうちに激しいプレーをためらったのか。満田の前方にいたチャン・ミンギュ、ボランチの仙頭啓矢が間合いを詰めてこない。満田はすかさず2人の間を通すパスを選択。大橋が半身の体勢から左足で受けたボールは右足、さらに左足に当たって自身の前方に弾んだ。

「マコ(満田)がシュートを打つかなと思っていたなかで、僕へのパスに切り替えてくれた。ゴールが近かったので、最初はファーに流そうかなと思っていたんですけど」

 自身の足の間で弾んだボールを、最後はニアへ突き刺した豪快な一撃。大橋が4試合ぶりに決めた今シーズン4点目は、未知の舞台であるJ1に挑む町田が、開幕から6試合目で初めて喫した先制弾だった。

 リードを2点差に広げた55分の満田のPKも、広島らしさが凝縮されたプレーでもぎ取った。

 敵陣でセカンドボールを回収したキャプテン、DF佐々木翔のプレーをきっかけに広島がペナルティーエリア内へ攻め込む。満田が突っかけたこぼれ球を拾い、波状攻撃を仕掛けた佐々木が途中出場のMF下田北斗に倒される。そのまま流された直後にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入した。

 OFR(オンフィールド・レビュー)をへて、小屋幸栄主審が判定を変更してPKを宣告した。倒された瞬間からPKを確信していた佐々木は、勝利をほぼ不動のもののしたPK獲得をこう振り返った。

●黒田剛監督の反省「その割にはなかなか…」

「ジャッジするのはレフェリーですし、VARがあるなかでしっかりと映像を見て決断されたと思うので、僕がとやかく言うところではないですけど、チームとしてああいったところ、こぼれ球を拾いながら前へプレーを進められたところが(PKに)繋がったのかなと思っています」

 一方で破竹の連勝を「4」で、開幕からの連続無敗試合を「5」で止められた町田は、なぜミラーゲームで挑んだのか。完全な3バックではない、と断りを入れながら黒田剛監督はこう語っている。

「相手をつかみやすくする、というところを含めて、できるだけいい景色で臨んだんですけど……その割にはなかなか前から激しくいけなかったところも含めて、多くの反省点を残した試合でした」

 左ウイングバックの林が左サイドバックの位置に下がるなど、町田は状況によって[4−4−2]で戦う時間帯もあった。ただ、一般的にミラーゲーム戦法のメリットとして、格上の相手と対戦する際に優劣がつきにくい展開があげられる。その意味で、黒田監督が必要以上に広島を意識していた点は否めない。

 サガン鳥栖との前節で、町田の全ゴールを導く3アシストをマークしたMF平河悠が言う。

「体感的にもプレッシャーが一番早かったし、相手を前から潰せなかったケースが多かった分、プレスバックする回数も多くなった。僕たちがやりたいサッカーがなかなかできず、(自分たちの)ファウルになるとかフラストレーションも溜ったなかで、難しいゲームになってしまった、という印象です」

 ボールを奪った広島はカウンターに加えて、スキッベ監督のもとで標榜してきたワンタッチを多用した素早いパスワークも駆使。球際の激しさとプレスで対応しようにも翻弄された町田が、4枚のイエローカードをもらったのは必然だった。平河とともにパリ五輪世代に名を連ねる藤尾も言う。

●なぜFC町田ゼルビアのロングボールは通用しなかったのか?

「一番感じたのは、僕らのボランチやセンターバックからロングボールを入れる際に早めにラインダウンして、弾く準備をされるとともに僕たちの背後のスペースを消されていた点。セカンドボールを拾わないと攻撃は始まらない。それを回収され続けたのは、僕たちの出足の方が遅かったからだと思っている」

 敵地で普段着のサッカーを貫き、スキッベ監督のもとで積み重ねてきたチーム戦術と個々の力をそれぞれ120%出し切った広島。対照的に町田は初めて対峙した骨のある相手である広島に対して、フォーメーションを含めて奇をてらいすぎ、結果として多くの時間帯で前節までの“らしさ”を失っていた。

 もっとも、試合は80分以降で違った様相を呈している。後半途中から[4−4−2]にスイッチしていた町田が、藤尾に代えて186cm84kgのオーストラリア代表FWミッチェル・デュークを投入。オ・セフンとのツインタワーをターゲットに、ロングボールを放り込んで圧倒する戦法に変えてきたからだ。

 67分まで0だった町田の十八番のロングスローは、最終的には6本を数えた。82分に右サイドからDF鈴木準弥が投じた4本目を大橋が頭でクリアを試みるも、自軍のゴールに吸い込まれてしまった。

 町田のロングスローに対して、鹿島アントラーズや鳥栖はスローワーの至近距離に長身選手を立たせて、コースを遮る対策を講じてきた。しかし、広島はここでも普段着で臨んでいる。

「ちょっとオウンゴールになってしまいましたけど、基本的に町田さんはロングスローがこぼれた後のセカンドボールを拾ってからの2次攻撃によるゴールが多い。なので、そこ(至近距離)でウチの選手を1枚使うよりは、中でセカンドを拾える枚数を増やそう、というのがチームの考え方でした」

 試合の大部分をベンチで見届けた荒木が“無手勝流”の町田対策を明かせば、満田は町田が実施的なパワープレーを仕掛けてきた時間帯の戦い方を反省点としてあげ、次節以降の課題として掲げた。

●上には上がいる。サンフレッチェ広島が目指すのは…

「失点してから相手が追いつけるようなムードを作ってしまったのは、まだまだ反省しないといけない。あの展開で自分たちが前線でボールを収めるようなプレーができていれば、もうちょっと楽な展開になっていたと思うので、あのような試合にならないように、次からは気をつけていきたい」

 試合後の公式会見で「サッカーの内容と戦術、走力の面でわれわれの方が上回っていた」と町田のシュートをわずか3本、枠内に至っては0本に封じた90分に胸を張ったスキッベ監督はメディアから、昨シーズンの第29節から7勝5分けと12戦連続無敗のクラブ新記録を樹立したという質問を受けた。

「誰も知らなかったが、過去の広島にもあったいいシーズンを上回れたのは非常に嬉しい。ただ、上には上がいる。バイヤー・レバークーゼンは38試合連続に伸びているので、もう少し頑張りたい」

 指揮官が悪戯っぽい笑顔を浮かべた。黒田監督もJ2を戦った昨シーズンに青森山田から転身したが、国内最高峰のJ1の舞台で3シーズン目を迎え、過去2シーズンはともに3位に入っているスキッベ体制の広島に一日の長があると物語る連続無敗記録。母国ドイツのブンデスリーガ1部の首位を独走中のレバークーゼンの大記録に迫るほど、広島も9シーズンぶり4度目の戴冠へと近づいていく。

(取材・文:藤江直人)

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