今年2月に公表された環境省の調査により、8週齢規制が全国のペットオークション運営業者や繁殖事業者で守られていなかった問題について、今回ヒアリングを受けたペット業界団体は、自浄努力を試みているようだ。

8週齢規制とは、2019年に可決し、翌年から施行された動物愛護管理法で、生後8週未満の仔犬と仔猫を販売してはいけないという規制である。現在も業界は、繁殖事業者に法律を遵守させようと取り組んでいるが、それでも現時点で悪質事業者の改善や排除ができていないことがこの調査により明らかになった。

今回、業界から今後のさらなる取り組みについても説明があったが、どう考えても抜け穴があることは容易に想像できる。事業者のモラル向上のための指導やルール化をしても、守る守らないは結局のところ事業者が決めること。真面目な事業者は守るだろうが、そうでないものは、なんとか抜け穴を探すだろう。今回の環境省の調査においても、追及されて日齢詐称を自白したものもいれば、明らかに疑わしくても認めないものもいたわけだ。

そもそも、モラルを疑う事業者が多い業界であることは、日々当協会に寄せられる通報件数や、事業者のネグレクトや虐待が昨今頻繁に事件化していることを見れば明らかだ。当協会が刑事告発した長野県松本市の繁殖業者による獣医師でないオーナーと従業員による犬の無麻酔帝王切開の動愛法違反や、また京都府でも同じく繁殖業者による帝王切開とマイクロチップの挿入という違法な医療行為があり獣医師法違反で有罪になった。これらは氷山の一角だろうし、業界内で常態化していると思われる。両者に共通しているのは罪の意識や真の反省がないこと。そこまでモラルなき事業者を何十年も許してきた業界なのだ。もちろん、このような悪質業者の問題を放置してきた行政の責任は重いが。

何度も法改正を重ね問題が顕在化したのはよいが、結局のところ解決には至っていない。法改正される度に抜け穴を見つけ、それがより巧みに一般からはわかりづらくなっている。そのため、この業界が説明しているようなちょっとしたテコ入れや中途半端な対策では、結局抜け穴を見つけ、それらを逆手にとって、より巧みに本質を隠しながら動物ビジネスを続けるはず。たとえ法改正しても、法令違反した事業者が適切な行政罰を受けたケースはほとんどないし、たとえ受けたとしても、痛みを伴うような罰則とは言えない。

今回、超党派動物愛護議連の会議で業界側から出てきたコメントで特に印象に残ったのが、「正直者が馬鹿を見ることになる」 というものだ。前回の議連でも、ペット損害保険のホールディングスの社長が同じことを言っている。当社だけが真面目に取り組むと、他の保険会社に利益が奪われて 「正直者が馬鹿を見る」ことになってしまう と。今回ペットオークションの会長もまったく同じことを言っていた。自分の所のオークションだけが努力して繁殖事業者にルールを守らせようとしたら、ルールの緩いオークション事業者に流れてしまうから、自分たちのような「正直者が馬鹿を見る」ことになると。

また以前、生体展示販売をやめる意思はないのか大手ペットショップの会長に聞いたところ、将来的にはやめるべきだと思うが、いま弊社がやめても業界が良くなるわけではない。むしろ悪名高いペットショップが独占し、さらに状況は悪化すると言っていたのを思い出した。

ペットショップ、保険会社、オークション事業者、どこも同じことを言う。自らの利益を守るため、あまり強い姿勢は取りたくないという本音が漏れてくる。そんな話しを聞くと、業界の自浄作用は期待できない。いかに目の前の利益を守るか、ということしか頭にないのだ。それでは業界の健全化は永遠に無理だろう。今回、業界の話しを聞いて改めて思ったのは、この問題を解決するには、8週齢規制では日齢詐称問題は解決しないということだ。
今回の法改正では実現できないとしても、将来的にやはり生後半年以下の幼齢動物の販売禁止を目指すしか道はないと思う。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。