福井県敦賀市沓見の市総合運動公園内にある「敦賀さくらの里」について「手入れが行き届かず、雑木林のようになっている」との声が、福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)に寄せられた。一帯は約1億4千万円の事業費をかけ、市民らが約15年前に桜のオーナーとなって千本を植樹、市も散策道を整備した。市などは植樹をした人にも草刈りなど管理を求めているが、高齢化や市外への転居で多くの木は放置されたまま。市民にも存在を十分に知られていないのが現状だ。

 さくらの里の整備事業は、市民や行政でつくる「敦賀さくらの里実行委員会」が一帯を桜の名所にしようと2006年度に開始。敦賀ロータリークラブが創立50周年事業として公園東側の山に300本を植樹したのを機に、市民が1人1万円を払って木のオーナーとなって植樹した。07年度から09年度に苗木約880本を植え、約5万9千平方メートルに29種類の桜1180本が育っている。

 「ふく特」に声を寄せた敦賀市内の男性はオーナーの1人。自身は毎春、山に入って雑草を取るなど手入れしているが「根元の草刈りがされず、雪や風で倒れてしまっている木も多い」。記者が4月中旬、さくらの里に入ると、場所によっては雑草が生い茂り、落木や枯れ葉が散策道を覆い尽くし、歩くのも一苦労した。植樹者の名前が書かれた記念プレートも10枚以上地面に落ちていた。

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 公園内で子どもと遊んでいた市内の女性(28)は「桜の名所が園内にあるなんて初めて知った」。さくらの里入り口にはイノシシ被害防止のためフェンスが設置されている。中には入れるが、公園を散歩していた男性(67)は「人の気配がなく、怖いので足を踏み入れたことはない」と話した。

 敦賀さくらの里実行委員会から名称を変更した敦賀さくらの里保存会や、市スポーツ振興課によると、散策道は市が管理しているが、散策道から桜の木までの道は桜のオーナー自身で手入れをするよう呼びかけている。

 ただ、08年度以来、毎年約400人が参加し水やりや施肥をしていたオーナー会は近年、新型コロナ禍などの影響もあり開催できなかった。昨年7月は保存会が約900人のオーナーに案内文を発送したものの、「桜を見に来た様子はほとんどない」(同課)という。散策道は草刈りなどに市が毎年、年間数百万円を支出している。

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 ふく特に連絡した男性は関心が薄れている現状に「せっかく官民が協力して整備した場所なのに残念」と嘆く。

 事業に当初から関わる保存会の山口操会長(84)=同市=は「山に桜を根付かせるのは難しいという声は当初からあったが、当時は適当な場所がなかった。維持管理を考えると山全体に植えたのは欲張りだった」とした上で「歩くだけでも雑草が踏みつけられて道ができる。植えて終わりでなく、当初の思いをいま一度、思い返してもらいたい。今の状態では桜が泣いている」とオーナーに来園を呼びかけた。

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 福井新聞「みんなで発掘 ふくい特報班」(ふく特)は、暮らしの中で感じた疑問や地域の困りごと、不正の告発といった情報を寄せていただき、記者が取材を進める調査報道企画です。