3月16日の北陸新幹線福井県内開業によって、県内と名古屋方面を鉄道で移動する場合、敦賀駅での乗り換えが必要となった。その影響で高速バス「福井―名古屋線」の利用が伸びている。

 運行を担当するのは京福バス(福井県福井市)、福井鉄道(同県越前市)、名鉄バス(愛知県名古屋市)、JR東海バス(同)の4社。利用増を見込み、2023年12月からは1日8往復を10往復に増やした。

 3月の乗客数は4社で計1万2966人で、前年同月比約1.43倍。福鉄の惣宇利健善常務は「月間1万人を超えたのは新型コロナウイルス禍以降初めて」と話す。複数の関係者は「名古屋方面の高速バスはドル箱路線」と口をそろえるが、増えた2往復分を受け持ったのは名鉄とJRだった。

 なぜ、福井県内の事業者ではないのか。増便については事前に4社で協議したが、京福バス、福鉄ともに手を挙げなかった。両社の担当者は「運転士の数に余裕がなかった」と打ち明ける。

 新幹線県内開業では、名古屋方面だけでなく、関西方面の鉄道移動も、敦賀駅での乗り換えが必要となった。関西方面の高速バスのニーズも一定程度あるとみられるが、県内発着の高速バスはコロナ禍以降、運休状態が続く。

 京福バスの岩本裕夫社長は「廃止ではなく運休とし、いつでも再開できる状態にしてはいるが、運転士確保のめどは立たない」と頭を悩ませる。

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 運転士不足の背景にあるのは、路線バスの維持だ。京福バスの場合、嶺北7市町で約60路線を抱え、平日は約750便、土日祝日も500便以上を走らせている。福鉄は嶺北、嶺南の9市町で運行している。

 岩本社長は「運転士の適正人員は200人だが、現状では40人足りない」。通勤通学で乗客が多い朝夕は便が多いため、この時間帯には、旅客輸送に必要な大型2種免許を持っている整備士や運行管理者が運転に回るときもある。

 必死のやりくりで「県民の足」を守っている事業者だが、路線バスの多くは赤字なのが現状だ。朝夕の乗客は多くても、日中は少なく、定員30人以上のバスで、数人を運ぶという光景は珍しくない。

 関係者は「収益が見込める高速バスを運行したくても、路線バスに運転士を振り向けなければいけない」と説明する。

 路線バス維持のため、県は収支差補助として毎年約5億円を計上したり、2023年度は燃料費高騰対策の予算を組んだりしているが、事業者は「あくまで赤字分の補てんであり、収益が出るわけではない。生活路線を守るために、企業の体力は衰弱していく」と嘆く。

 京福バスの運転士の平均年齢は55歳。70代も複数いる。時間外労働(残業)や休日出勤で何とか回しているが、4月1日からは働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制が導入された。

 人手不足はさらに深刻化し、路線バスの維持が難しい状況が目前に迫っている。