名門・高知高元監督の島田達二氏が語る、中高生年代の成長度合いの差

 成長途上の中・高生の育成は、個人差も大きく非常に難しい。かつて名門・高知高の監督として春夏合わせ9度甲子園に出場、2006年秋の明治神宮大会で優勝を果たした島田達二氏は、就任前には高知中の軟式野球部監督も務めていた。Full-Countでは「甲子園球児の育ち方・育て方」をテーマに、甲子園へ導いた元監督や元球児、その保護者にインタビュー。現在、東京ヴェルディ・バンバータのベースボールアカデミー統括ヘッドコーチを務め、再び中学生世代の指導に携わっている島田氏に話を聞いた。

 高知中、高知高は計6年間の一貫教育体制を敷いている。別の中学から高知高に入学する生徒もいるが、島田氏が高知高監督時代に指導し、後にプロ入りした中日・木下拓哉捕手、前楽天・和田恋外野手(現・明治安田生命野球部)、阪神・栄枝裕貴捕手はいずれも高知中出身だ。一方、前西武・公文克彦投手は高知県内の別の中学から高知高の門を叩いた。

 中高一貫のメリットは「時間をかけて性格を把握できるので、言葉を掛けやすく、試合でも起用しやすいことです」と島田氏。さらに「中3の夏以降も継続して練習できることも、そうです。高校の秋季大会終了後には、新1年生も加わって練習します。一緒に一冬を越せるのは非常に大きい。実は子どもたちは、中3の冬のこの時期にすごく伸びるケースが多いのですから」と指摘する。

 確かに、中3の夏に野球部を引退し、受験を経て4月に高校の野球部に入部するまで、約半年のブランクができてしまうのはもったいなさ過ぎる──という声は球界で数多く上がっている。

 一方で「中学時代に周りと自分を見比べて、このまま高校へ行っても無理だと、野球を諦めてしまう子もいる。そこはデメリットといえばデメリット。高校に新しい子が何人か入ってきて、刺激を与えてくれることが理想かもしれません」とも付け加える。

 いずれにしても、「体の成長が中学で完成する子がいれば、高校3年間でも仕上がらない子もいる。そこは見極めが難しく、なおかつ大事です」と島田氏は強調する。

中学生世代指導者に再転身した理由「悩む子ども1人1人に向き合いたい」

 島田氏は侍ジャパンU-18代表にも3度にわたって関わった。2013、2015年にはコーチ、2019年には分析担当コーチとして「WBSC U-18ベースボールワールドカップ」に出場。2019年にU-18代表入りした佐々木朗希投手(大船渡、現ロッテ)は、まさに“高校3年間で仕上がらなかった”タイプだったが、そのポテンシャルに驚愕させられた。

「後にも先にも、あんなボールは見たことがありません。2013年には松井裕樹(桐光学園、現パドレス)、山岡泰輔(瀬戸内、現オリックス)、田口麗斗(広島新庄、現ヤクルト)、2015年には小笠原慎之介(東海大相模、現中日)、森下暢仁(大分商、現広島)ら投手を見ましたが、(佐々木は)ストレートの質が抜群でした」と振り返る。

 佐々木はU-18ワールドカップでは、右手中指にマメができた影響で、結局スーパーラウンドの韓国戦で1イニングを投げただけに終わったが、島田氏は「リハビリ段階で軽いキャッチボールの球を受けた時は怖かった。本人に『普段の30%』と聞いて、さらに驚きました」と首をすくめる。

 高知高を14年間率い、46歳だった2018年の夏限りで退任した島田氏には、複数の他の高校から監督就任のオファーが届き、国語教師として高知高に残る選択肢もあった。だが、あえて新天地を求めた。2020年、東京ヴェルディ・バンバータのベースボールアカデミー統括ヘッドコーチに就任。U-15硬式チームとU-15軟式チームの両方の指導に携わっている。

 転身に踏み切った理由の1つは、「西谷(浩一)さん(大阪桐蔭監督)の下で2度、永田(裕治)さん(現・日大三島監督)の下で1度、U-18代表のコーチを務めて、自分には監督でなく、サポートする立場の方が向いているのではないかと思ったこと」という。

 また、監督としてチーム全体を指揮するよりも「単純に子どもが好きなので、なかなか上手くなれずに悩んでいる子ども1人1人に向き合って、話し合いながら指導していくことにやりがいを感じる」からでもある。成長曲線が1人1人、千差万別であることは、過去の経験で痛感している。

 自分が携わる中学生には「長く野球を続けてもらいたい。野球って、面白いものなので、続けてもらえれば面白さに気づいてもらえると思います」と望む。一方で「全員が将来アスリートを目指しているわけではない。それぞれに上手くなってほしいのはもちろんですが、技術以外のところにもしっかり目を向けていきたいです」と、野球を通しての人間教育を重視する。

 名門高校監督時代とはまた別の立場で、球界活性化のために汗を流している島田氏。4月1日からの参加予定の「甲子園予備校」でも、中学野球、高校野球の両方を熟知するその経験談を披露してくれる。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)