Image: Shutterstock

「音楽聴くなら絶対ロスレス音源がいいよ? MP3より音がいいから」なんて、一度は聞いたことがあるようなセリフです。

データ容量をギュっと縮めた圧縮音源であるMP3。データ圧縮時の劣化を最小限に留めた、または圧縮していないロスレス音源。

なるべくロスがない方がサウンドクオリティがいいのは事実です。ロスレスがアーティストが意図する生の音に近いのも事実です。…事実なのですが、やっぱり言わずにはいられません。

その音、聴き分けられるの? 圧縮音源とロスレスの差って、フツーの人が聴いてもわかるのかい?

少々古い話で恐縮ですが、2014年に米Gizmodoが読者アンケートをとっていました。質問は「ロスレス音源とMP3の違いを聴き分けられるのか?」。

コメントしてくれた読者380人の正解率は56%。2択なので、その正解率はほぼランダムで選ぶのとほぼ同じ。

ロスレスとMP3

ロスレスとMP3の主な違いはファイルサイズです。

ロスレスは、例えばWAVファイルのように、スタジオで録音した音楽データと同等のファイルサイズになります。非圧縮音源といわれます。ロス=失われるものはありません。失うものがない代わりに差し出すのはファイルの重さ。インターネットにアップして共有するには、ファイルサイズがとても大きいのです。ロスレスには劣化を最小限に留めて圧縮する可逆圧縮音源というものもあり、これは圧縮を解くことができます。ただ、これだってファイルサイズが小さいとは言えません。

一方、圧縮することでデータが一部失われるMP3には、軽いという利点があります。

専門家に聞きました

BBCラジオコンサルタントで音響博士号を持つTony Churnside氏に、ロスレスとMP3について話を聞きました。

「(音の)圧縮は、人間の耳ではうまく聴き取れないデータを捨ててしまうようデザインされています。なので理想としては、圧縮で劣化した部分は誰も聴き取れないのですが、中にはその差を聴き取れる人もいます」

ちなみに、 Churnside氏がお仕事で主に使うのはロスレスファイル。でも「こっちの方が音がいいから!」なんて単純な理由ではありません。オーディオエンジニアの仕事には、聴く目的以外でも高音質データが必要だからです。

「オーディオエンジニアが扱うオーディオフォーマットは、誰も聴こえないレベルよりもずっと高い品質のものなんです。なぜかというと、オーディオエンジニアリングには数学的処理や信号的処理がつきものだからです。そして、そのプロセスが音質劣化につながる可能性があります」

オーディオエンジニアは、MP3音源がWAV音源とほぼ同等に良くなるよう、日々お仕事しているのです。

Bluetooth使ってる?

音楽鑑賞といっても、聴き方は人それぞれ。趣味のハイエンド音響システムに高級ヘッドホンを使う人もいれば、スマホからBluetoothでイヤホンに飛ばして電車の中で楽しむ人もいるでしょう。

Bluetooth…。そう、例えロスレス音源を聴いていても、Bluetoothを介してしまえば、どんな高音質だろうと圧縮されてしまうのです。

つまり、Bluetoothを使ってイヤホンと音源を接続する派の人は、ロスレス音源にこだわったってしょうがないってこと。最近の調査では、音楽を楽しむ68%の人がBluetoothのヘッドホンやイヤホンを使用しているという結果があります。となると、多くの人にとって、ロスレスオーディオは意味を成しません。

「ロスレスの方がいいよ」が広まってしまった理由

いいことはいいのだけど、フツーの人にとってはほぼ関係ない(聴こえない)話。それなのに、ロスレスオーディオ絶対勢がいるのはなぜでしょう。

それはファイルサイズとネーミング。MP3の方がファイルサイズが圧倒的に小さいことで、失ったものが数字でわかりやすい状態になっています。さらに、失われたものがないという意味のロスレスという名前によって、MP3は失ったものがあるという印象が強まっています。

もちろんそこに失われたものが多くあるのは事実です。ですが、その失われたものはほとんどの人間の耳にはほぼ聴こえない、比較的失ってもいいものなのです。失ったという事実だけに焦点が当たり、何を失ったかはスルーされてしまっているのですね。

Amazon(アマゾン)やApple(アップル)のマーケティングも、ロスレス至上主義の背中を押しています。Amaon Musicは2019年、Appleは2021年のWWDCでロスレスオーディオ提供を発表。例えばAppleは「スタジオで録音されたオリジナルの音源と実質的にほぼ変わらないオーディオを再現」とアピールしています。なんかすごくいいものに聞こえちゃう。

しかし、AppleのロスレスもAmazonのロスレスも、実は圧縮されているんです。Appleが使用するのは、Apple Lossless Audio Codec (ALAC) という圧縮技術。Amazonが使うのはロスレス圧縮のFLAC。どちらもMP3よりは高音質でファイルサイズも大きいもので、再生するとアルゴリズムが圧縮を解き、オリジナルファイル=フル音質へと戻す仕組みになっています。

ですが、一般的な人の耳ではこの差を聴き取るのは困難。

聴きたいのは音? 音楽?

ロスレスファイルかMP3ファイルか…。その差を語る上で最もしっくりくる説明が、前述の米Gizmodoアンケートのコメント欄にありました。

「ファイルの違いを語っていると、音楽好きとオーディオ好きの差を思い出しました。音楽好きは、サウンドシステムを用いて音楽を聴いている人たちです。一方オーディオ好きは、音楽を用いてオーディオシステムを楽しむ人たちなのです」

よりよい音を求めるなら?

聴きわけられるかどうかは個人差があるので1回忘れるとして、少しでもよりいい音をと考える人に、Churnside氏のおすすめはコレ。ハイエンドな有線ヘッドホンを使って聴くこと。そして静かな環境で音を楽しむこと。

通勤中の電車の中でBluetoothで大好きな音楽を聴いている人は、ロスレスやMP3なんてファイルのことは気にしなくていいのです。好きな曲を耳にして気分がアガる、それがすべてだからです。

オーディオテクニカ ATH-WP900 ヘッドホン 有線 密閉型 ハイレゾ音源対応 ウッドハウジング ヘッドホン 木製ハウジング 68,149円 Amazonで見るPR !function(t,e){if(!t.getElementById(e)){var n=t.createElement("script");n.id=e,n.src="https://araklet.mediagene.co.jp/resource/araklet.js",t.head.appendChild(n)}}(document,"loadAraklet") クラシック音楽版のApple Music、最高なんですけど! この日をどれだけ待ち望んでいたことか!1月24日、ついにApple Music Classicが日本でもサービスを開始しました。クラシック大好きな私はこのサービスを心から待っていたんです。だってストリーミングサービスとクラシック音楽って相性悪すぎなんですよ。どこのサービスかは言いませんが「クラシック音楽をかけて」とお願いするとアニメ映画の音楽が流れたりするんです。インストルメンタル=クラシック音 https://www.gizmodo.jp/2024/01/apple-music-classical-impression.html