昨今、アパレルブランドとのコラボでも注目される町中華。昔を懐かしんで訪れる世代だけでなく、若い人にも改めて魅力が知られるようになった。では、いま行くべきお店は?
町中華に通い続ける2人に聞いた。
小石原はるか
こいしはら・はるか/うどん、焼きそば、肉と、好きなものにはとことんハマる“偏愛系”ライター。『東京最高のレストラン』(ぴあ)には毎年寄稿。最新刊は『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)。
論客…クック井上。 料理芸人
くっくいのうえ。/料理の資格を8つ所有する異色の本格派料理芸人。TV・ラジオ・雑誌出演などの傍ら、料理講師・講演、食品やレシピの監修、グルメコラム執筆も。“昭和思い出系グルメ”が大好き。
年365日、毎食の選択に余念がないライターの小石原はるかさんがホストとなり、さまざまな食通を迎えて対談を行う企画。今回は料理芸人のクック井上。さんと町中華について語ることに。
小石原はるか(以下、小石原) 近著のレシピ本『魔法の万能調味料 料理酒オイル いつもの料理が突然プロの味! 感涙レシピ100』、とても参考になります。料理酒と油を混ぜておくだけで、格段においしく仕上がって。本の中でも町中華的なバリエーションが多いですが、やっぱり町中華はお店で食べるのが醍醐味ですよね。
クック井上。(以下、井上) そうですね。お店に行かないと味わえない体験があります。
小石原 そもそも町中華の定義は何でしょう?
井上 「日本人の日本人による日本人のための中華料理屋さん」。中国料理とは違います。
小石原 よく言われるのが、本場の餃子は焼きではなく水餃子だと。町中華には焼き餃子がほぼ100%ありますね。
井上 歴史を紐解くと、戦後満州あたりから引き上げてきた日本人が作ったものが始まりとか。
小石原 焼きそばもソースで仕上げるのは日本風ですよね。
井上 はい。焼きそばを置いている店は、ソースのほかに上海焼きそばやかた焼きそばなど2〜3種類あるところも多いですね。かた焼きそばでおいしいのは〈ミッキー飯店〉!
小石原 店名がなんともキャッチーですね。スパイシーなあんをかけたかた焼きそば、気になります。ガツンとパワフルな味が多いのも町中華ですね。
中野坂上〈ミッキー飯店〉
汗をかきながらいただく、オリジナルかた焼きそば。
初来店の人も常連も必ず頼むというのが「ミッキーシリーズ」。ライス、ラーメン、かた焼きそばと、共通してスパイシーなあんがかけられている。中でもクック井上。さんのおすすめが、有名ホテルで修業したという現2代目が考案するかた焼きそばだ。
ピリリと辛いあんは創業以来の人気を誇る。
1969年の開店当時、中華料理店ではあんかけが流行っていたという。他店にはない味を、と豆板醤とラー油でスパイシーな味を作った。
ミッキー飯店 (中華料理)
「ミッキーカタ焼きそば」780円。当初の店名は「喜びに満ちる」という意の〈盈喜飯店〉だったが、より親しまれるように改名。現在は昼のみの短い営業時間にお客が行列を作る。
住所:東京都中野区本町2-17-4
TEL:なし
営業時間:11:15〜13:45LO
定休日:日木
席数:12席
井上 高度経済成長期の建設現場近くには、必ず町中華がありました。スタミナがつく料理が素早く提供されるところが重宝されたんですね。大量の注文をさばいていく料理人の姿が、幼い僕にはすごくかっこよく見えて、町中華が大好きになったんです。
小石原 美学ですね。私が憧れるのは、チャーハンとか天津飯の器です。
井上 わかります。僕、フリマで集めてますもん。店名が入っていたり、時代を感じさせる3桁の電話番号がプリントされていたり。たまらないですよね。
小石原 のれんも! 赤地に白文字なのか、白地に赤文字なのか、もしくは、無いとか。見応えがあります。
井上 ね! 住む先々で町中華を見つけたら入ってしまうんですが、初めてのお店なのに懐かしい思いにさせてくれるのが不思議な魅力ですよね。
小石原 みんなが懐かしく思う、共通の何かがあるんでしょうね。
井上 天井近くにあるテレビを見ながらご飯を食べたり、家族経営だったらカウンターの中で言い合いが始まって、それがBGMになったり。「ここは実家!?」みたいな。だから若い人にも懐かしく思われている気がします。渋谷の〈兆楽〉は大流行ですし。
小石原 渋谷が誇るお店ですね。
井上 アパレルで働く子たちって一日中立ち仕事なので、ちょうどいいんでしょうね。渋谷には〈天宝〉というお店もあって、こちらの「特丼」がとってもおいしいですよ。
渋谷〈天宝〉
まかないが看板メニューに。おかわりしたくなる丼。
創業の1968年当時はまかないの一つだったものが常連からの要望でオンメニュー。ラードで炒めた豚肉に、玉ねぎやピーマンを混ぜ、和風のラーメンスープで旨みを加える。豆板醤の辛み、炒り卵の優しさが交互に襲い、女性でも大盛りを食べきれるほどのおいしさ。
冷めてもおいしい米は丼にもぴったり。
粘りが少なく、硬めな「秋田こまち」は、テイクアウトも行うため選ばれたもの。炒めた具をのせた丼メニューにも相性がいい。
天宝 (中華料理)
「特丼」950円。以前はカウンターメインの店内だったが、女性も入りやすいようにテーブル席を増やした。〈MIYASHITA PARK〉に散歩がてら訪れる人も。
住所:東京都渋谷区神南1-10-7 テルス神南1F
TEL:03-3462-0622
営業時間:11:00〜15:40、17:00〜20:00
定休日:土日
席数: 30席
小石原 若い人がいっぱい働いているところには多いのかな。あとは下町ですね。私は浅草〈中華料理 ぼたん〉のオムライスが大好物です。洋食があるのも町中華の特徴でしょうか。
井上 お客の要望に応えるうちにカレーやカツ丼なんかも作るようになったお店が多いですね。洋食屋さんとは違った旨さがあります。僕のおすすめは〈新華楼〉のカレーです。
浅草〈中華料理 ぼたん〉
中華鍋であおって作るチキンライスと薄焼き卵。
中華料理 ぼたん (中華料理)
オムライス1,000円。1948年創業。現在は3代目と4代目が切り盛りし、メニューは基本、中華一本に絞られている。が、初代が始めたチキンライスを使ったオムライスは健在。
住所:東京都台東区花川戸1-8-1
TEL:03-3841-5040
営業時間:11:00〜21:00
定休日:金
席数:26席
小石原 やはり中華鍋で作ると違うんですかね。
井上 作っているところを見てみると、中華鍋の中で具材をいじってないんですよ。踊らせてるだけ。〈岐阜屋〉のトマトタンメンを見てみると、トマトの形が綺麗に残っています。
小石原 コの字カウンターだと厨房が覗けて楽しいですよね。
井上 僕は絶対カウンター席に座ります。いわばスペシャルリングサイド、砂被り席。
小石原 町中華ってエンタメですね!
新宿〈岐阜屋〉
自家製の平打ち麺と澄んだスープを啜る。
岐阜屋 (中華調理)
トマトタンメン760円。1947年に創業、麺を卸していた業者が後を継ぎ営んでいる。レシピのディテールは料理人に任されているため、どの料理人の前に座るかで味が変わる。
住所:東京都新宿区西新宿1-2-1
TEL:03-3342-6858
営業時間:9:00〜1:00(木金土〜2:00)
定休日: 無休
席数:55席
OTHER CHOICES
兆楽
渋谷の井の頭通りと宇多川通りに挟まれた三角地帯にある行列店。看板メニューは、豚肉とタケノコのあんがかけられた「ルースチャーハン」。ほか、「豚しゃぶチャーハン」や「天津チャーハン」など、チャーハンのバリエーションが豊富。
住所:東京都渋谷区宇田川町31-5
新華楼
東急世田谷線の線路沿いにある家族経営の店。2023年で創業50年を迎え、近隣だけでなく遠方からもお客が足を運ぶ。クック井上。さんおすすめのカレーライスは、豚肉と玉ねぎがたっぷり入り「圧倒的旨さがあり、誰もが懐かしむはず」とのこと。
住所:東京都世田谷区太子堂4-4-10
次号のゲストは松浦達也さんで、テーマは「注目の肉名人がいるお店」です。
photo_Kaori Ouchi, Kenya Abe (P.92) illustration_Chihiro Yoshii text_Kahoko Nishimura
No. 1228
No.1228 『贈りたい、もらいたい、手みやげ。』 2023年12月27日 発売号
なにかと人と会う機会が増える年末年始。お世話になっているあの人に、日頃の感謝の気持ちを込めてとっておきの手みやげを贈りませんか? 絶対ハズさない老舗の名品、並んででも買うべき新作スイーツ、季節・地方の限定品、知る人ぞ知るお取り寄せまで、見ているだけでも心が躍る約200品を集めました。 そして贈り上手な人たちが、実際に贈って喜ばれたものもご紹介!秋元康さんの手みやげリスト、アイナ・ジ・エンドさんとアオイ・ヤマダさんの友達コンビ、ハライチ岩井勇気さんと神田愛花さんの『ぽかぽか』コンビがお互いに贈り合った物、ぼる塾田辺さ …
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