新年度がスタートしてあれこれ忙しい日々が続き、「疲れない体になりたい」と考えたことはないだろうか。そんな人は「ゆらぎ」に注目したい。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に詳しく聞いた。

「ゆらぎ」とは、自然に存在する「規則性のある不規則」を持つ変化や動きを指す。そよ風、木漏れ日、川のせせらぎ、打ち寄せる波の音、炎のゆらめき、小鳥のさえずりなど、自然界にあるそれらのリズムは一定ではなく、強くなったり弱くなったりする。

 こうしたゆらぎを感じると、われわれは心地よさを感じ、疲労が軽減されることもわかっている。

「ヒトの生体にも、心拍、呼吸、脳波、血流、体温、瞳孔の動きといったさまざまなゆらぎが存在します。この生体リズムが自然界のゆらぎと共鳴すると、自律神経が整えられて精神が安定し、疲労を軽減すると報告されています。自律神経は、活動時や昼間に優位になる交感神経と、安静時や夜に優位になる副交感神経で成り立っていて、交感神経から副交感神経に切り替わることで“リラックスモード”に入ります。ゆらぎは、自律神経を副交感神経優位に切り替えて、脳と体を休める“スイッチ”なのです」

 疲労は、脳にある自律神経中枢が酷使されて大きな負荷がかかることで生じる。睡眠不足などで長く自律神経に負担がかかり続けると、生命活動をきちんと維持できなくなってしまうため、脳は「疲労感」を自覚させ、過剰な活動を抑えて自律神経の負担を減らそうとする。

「疲労を放置していると、不眠、めまい、抑うつ、消化器障害、食欲不振、頭痛、倦怠感、動悸など、心身のさまざまな不調を引き起こします。さらに悪化すると、自律神経系だけでは生命維持機能をコントロールすることができなくなって、それを補うために内分泌系や免疫系が稼働します。そうなるとインスリン抵抗性が高まったり、血圧が高くなったり、肥満を招き、糖尿病、脂質異常症、高血圧、心血管疾患、がんといった命に関わる病気のリスクがアップします」

■仕事に飽きたらデスクから離れる

 そうした健康リスクを回避するためにも、しっかり対策を講じたい。日頃から“疲労しにくくなる”生活を心がけることが重要で、そのためにゆらぎを活用するといい。

「われわれが生活している都会は非常に規則的で、ゆらぎを排除する方向で発展してきました。たとえば、オフィスビルにある職場は窓が開かないことも少なくないですし、温度も湿度も照明の明るさも一定です。そんなゆらぎがない環境で仕事を続けていると、疲労がどんどん蓄積していきます。毎日のように同じパターンで同じ行動や作業を続けている場合はなおさらです」

 かつて梶本氏は「ゆらぎがある環境」と「ゆらぎがない環境」で、仕事の効率や疲労の程度がどう変化するかを調べる実験を実施している。

 9人の被験者に2種類の環境下で4時間にわたってクルマの運転をしてもらい、主観的疲労感(眠気、体感湿度)と客観的疲労度(疲労因子FF、自律神経による疲労評価、作業効率、機能検査)を測定した。

 その結果、最適な温度で固定した環境よりも、常にゆらぎを与えた環境のほうが疲労感が少なく、作業効率の低下も抑えられることがわかったという。

「職場でも自宅でも、長時間、同じ場所にいるときはなるべく窓を開けて風を通しましょう。それだけでゆらぎが生まれ、疲れにくくなります。また、集中力が低下して仕事や作業に『飽きた』と感じたら、疲労がたまったサインです。これ以上、脳の同じ部分を酷使させないために、脳が自覚させようとしているのです。そんなときは、いったんデスクから離れて社外を散歩したり、外出できない場合は社内を歩き回ったり、窓から遠くの景色を眺めたりして、同じ作業を続けないようにしましょう。自分でゆらぎをつくって疲労をたまりにくくするのです」

 疲労が蓄積されにくい生活を送っていると、質の高い睡眠がとれてさらに疲労は解消される。ゆらぎを活用すれば、疲れない体が手に入る。