僧侶、メイクアップアーティスト、LGBTQ活動家と多彩な活躍で、国際的な注目を集める西村宏堂さん。宏堂さんは、自身の人生に大きな影響を与えた法然上人と開宗850年の浄土宗にフィーチャーした特別展「法然と極楽浄土」東京会場(6月9日(日)まで、東京国立博物館平成館)の広報サポーターを務めています。アメリカ・ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業している宏堂さんに、展覧会の見どころを伺いました。

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法然の教えは「どんな人も平等で価値がある」 平安末期から続く浄土宗への信仰

 オーディオガイドを聞きながら観るのが好きという宏堂さんは、まず浄土宗が生まれた時代背景に注目します。

 内乱や災害・疫病の頻発で世が乱れ、人々が疲弊し、「末法の世」と呼ばれた平安末期。そこに、法然(法然房源空。1133〜1212年)が、阿弥陀仏の名号を称えることによって誰もが等しく阿弥陀仏に救われ、極楽浄土に往生することを説きました。その教えは貴族から庶民に至るまで多くの人々に支持され、信仰は現代まで連綿と続いています。

 そんな「末法の世」と現代を比べて思うことはなんでしょうか?

「平安時代も、今も、どんな時代でも、平和で幸せだなと思う人ばかりではないと思うのです。

 たとえば、私だったら同性愛者であるということで、権利が認められない、平等な思いを認められないのではないかなどは、ちょっと嫌だなと思うことがあります。

 一方、浄土宗が生まれる前、仏教は特権階級のみを対象としていて、お金や地位がないと救われないととらえられていました。そこに法然上人が現れ、どんな人でも平等に救われます、どんな人にも価値がありますと伝えたのです。

 昔から差別、階級は人間の常で悲しく思います。現代も、お金持ちだったり、SNSのフォロワーが多かったりすることが、あたかもその人にさらなる価値があるかのように感じさせる社会の風潮があると思います。

 でも、どんなときも、自分には価値がある、大切な人間なのだとしっかり認識することが大事。そう感じるきっかけとなるのが、仏教の教えではないかと思います」

宏堂さんによる展覧会を観る3つのポイントとは

 同展は開宗850年を契機に、

第1章 法然とその時代
第2章 阿弥陀仏の世界
第3章 法然の弟子たちと法脈
第4章 江戸時代の浄土宗

 という4つの章によって、鎌倉仏教の一大宗派である浄土宗の美術と歴史を、鎌倉時代から江戸時代まで通覧する史上初の展覧会です。

 宏堂さんに、展覧会を観るポイントを3つ挙げてもらいました。

1. 実物を見て、書いた人の心が伝わる「書」
「僧の修行中、教科書で宝物や作品を見てきましたが、好きなアーティストの音楽をCDで聴くのと生で聴くのとが違うように、『書』はその人と実際にふれあっているような気持ちになれます」

2. 観て触れる芸術「阿弥陀如来像」
「たくさんの阿弥陀如来像があります。京都・上徳寺の90センチの阿弥陀仏像(東京での展示は5月12日で終了。京都・九州での展示は未定)のように、唇に水晶が薄くはめられていて、リップグロスみたいにキラキラしている像もありました。写真では見えませんが、見る角度を変えると、ある瞬間に見えてくるのです。こうしたものを作った人たちが伝えたかったこと、残したものを知るのは素敵な体験です」

3. 「いつの時代でも、どんな人でも、どんな特権階級でも、同じように不安はあった」という人々の思いを知る
「人間が不安に思う心は、変わらないもの。あなたが悩んでいるのは、あなただけではなくて、誰でも同じように不安はあるのだと感じてほしい。

 たとえば、京都・金戒光明寺所蔵の『山越阿弥陀図屏風と五色糸および由来書』(東京での展示は5月12日で終了。京都・九州での展示は未定)は、屏風から5色の糸が出ていました。臨終のときに、その糸を持っていると極楽に行けますよという作品です。亡くなるときは誰でも不安だし、どうなるかわからない。

 何かに安らぎや安心感を見つけて、できるだけ幸せに、苦しみを忘れながら生きていくことが大切だと物語っているのではないでしょうか」

横井 弘海