秋田・横手市にある「スーパーモールラッキー」では、平日に無料で14路線の「お買い物バス」を運行。最長路線は約30キロで、過疎化や高齢化が進む地域の“足”として多くの人に利用されている。遠藤宗一郎社長(43)が運行のきっかけや地元への思いを語った。

 午前10時半、マイクロバスから約10人のお年寄りが「スーパーモールラッキー」に入っていった。岩手県境に近く約30キロ離れた東成瀬村からの便は、片道1時間かけ毎週火曜と金曜に運行。1時間半後の出発まで、楽しいお買い物&おしゃべりタイムが続く。

 佐藤つわ子さん(67)は「買い物はほとんどここ。きょうは6匹いる猫のエサを買います。車の免許は返納したけど、このお店があれば大丈夫だから」と笑顔を見せた。一緒に買い物をした友人の菅原節子さん(67)も「車は運転できないけど、バスが迎えに来てくれるから便利。前は週に1便だったのが2便になってうれしいですね」と喜んだ。2人とも買い物カゴいっぱいに商品を詰め込み、正午発の便で村へ戻った。

 運行のきっかけは2010年ごろ。遠藤社長は高齢者が車に乗り合わせて来る姿を多く見かけた。「来店手段がなくて困っているんだな」と感じ、11年に秋田県の補助金事業として、小さなバン1台で「お買い物バス」の運行を始めた。最初の路線は近隣の1本だけだったが、他の地域から「こっちにも来てくれないか」と要望が相次ぎ、少しずつ増やしていった。

 現在はバス2台で14路線を運行し、スーパーの会員カードを提示すれば無料。バス停はあるが、自宅近くでの乗り降りも可能だ。「お客さまは高齢の女性が多いですね」と遠藤社長。バス乗客は1回平均で約5000円の買い物をするなど「普通のお客さまの倍以上買っていただけます。ウチへの思い入れが強くなっていただき、ありがたいことです」と明かした。

 遠藤社長は高校まで地元で過ごし、明大卒業後に大手小売業へ就職。だが創業3代目の父が病に倒れたことで05年に横手へ戻り、後を継いだ。当時は安売りメインのスーパーだったが「帰って来たら商店街がなくなっていて地元が暗かった。地域に特化していこう。お客さんが困っていることを解決していこう」という思いで様々な改革を行った。

 1万平方メートル以上の広大な店内には産地直送野菜などの食料品、キャンプ用品、釣り具、除雪用具のほか、ゲームコーナーやフードコートもあり、1日中楽しめる。高齢者が苦手な雪下ろしや草刈りなどを、提携する専門業者に紹介する“便利屋”的な事業も行っている。

 約220人の従業員はほとんどが地元出身で、農業科出身の若手も在籍する。「いずれは作るところから自分たちでやっていきたい。地域と一緒に、トータルでデザインできたらいいですね」。11年連続で全国最大の人口減少率となっている秋田県に笑顔を届けられるよう、様々な取り組みを続けていく。(岩崎 敦)