24年のプロ野球は熱戦が繰り広げられている。近年はプロ野球の現場にも球界外からの人材登用が進んでいる。新卒だけでなく、全くの別業界からの転職の人もいるなど、流動化も進んでいる。このほど、野球データ専門会社「DELTA」が「リーダーズ・オブ・ベースボール・オペレーションズ」と題したセミナーを開催し、球界への就職を希望する人たちに向けて、求められる人材像や仕事の中身を現場で働く人たちが紹介した。

 ◆欲しい人材と今後広がりそうな概念

 パ・リーグ3連覇のオリックスで戦略データグループ・チーフアナリストの三宅博人氏は、50歳になってから球界入りした異色の存在だ。元々、セイバーメトリクスに興味があり独学で知見を深める中で、球界に足を踏み入れた。三宅氏が挙げる課題は一般企業が抱える課題と同じ“内製化”だ。

 「(欲しい人材は)うちのフェーズとしてはとりあえずエンジニア。基本的にはコードを書く人ですけど、モデル化していろんなモデルができてくると、今度定型化してくるものあると思う。そういったものをルーティンの作業で自動化し、同時に視覚化する、いわゆるUIのデザイナーとか、極端な話、そういう人がいてくれるとすごく伝わりやすくなるかな思います。現状はそこまで手が届かないので、ベンダーさんにお願していますが、ただどうしても納期などの問題や、離れたところで作業するので、出来上がってからの微調整に時間がかかってしまう」

 人材を求める側としては、積極的な情報発信をしてくれるとうれしいという。XなどのSNSでの発信やnoteでの分析は、球界関係者の目に止まることもある。三宅氏自身も、セイバーメトリクスが広まった初期の頃から発信を行ってきた経験がある。

 また米国から今後日本に入ってきそうな概念として「ベースボール・ディベロップメント」というものがあるという。選手の育成や評価の方法をマニュアル化。「具体的に野球の中核をなすものは何か、どんどん深掘りする。最終的に育成、トレーニング、評価をどうすべきだということを、哲学、モットーのようにしたもの」で、組織マネジメントを体系化し属人性をなくしていくという。

 ◆マーケティング担当から球界へ

 一方、ロッテで球団本部チーム戦略部の企画・分析グループアナリストとして働く松江勇志氏は、球界入りする前はマーケティング分析を担当していた。「数字を使った仕事をしたいなという思いはあった。大学に入って実際自分が野球やってきたっていうのもあるので、そうした掛け合わせというところでプロ野球界っていうのは、大学生頃から目指していた」と話す。

 これまでのマーケティングと野球の現場は全く異なるが、数字を分析するという共通点はある。「例えばトラックマンでは球速、回転数、変化量などが取れて分析する。ビジネスでは特に購買データだと1件あたりの単価、そのユーザー属性みたいなデータは取れるけれど、なかなかその1つずつの事象に対して細かくみたいなケースってあんまり多くはない。そこのデータの違いは結構面白い」と比較する。

 普段の業務でも「データの中で何が見えてくるかを整理した上でいきなり選手にいくよりは、他のスタッフとも話しながら選手に何をフィードバックするといいのか。自分たちはまずはデータ探索し、仮説検証をしながらみんなで組み立ています」と明かした。

 今後球界入りを目指す人には「専門性が求められる一方で、その専門だけを求められるわけでもない」と強調する。数学的知識やSQLなどの知識も「アナリストっていう役職である以上、そこがベースとして求められてると思う。そこのスキルは必要最低限」と身につけておくことを勧めた。

 ◆社会人チームアナリストからプロ入り

 ソフトバンクの塩澤優一氏はこれまでの2人と異なり、選手が球界入りする際と同じで、大学、社会人を経てプロ入りした。長野県立上田染谷丘高から鹿屋体大体育学部に進学。大学時代は硬式野球部に所属し、投手として活動していた。同大学修士課程に進学後、JR東日本硬式野球部のアナリストとして2年間活動したのち、23年1月からソフトバンクの4軍担当アナリストを務めている。

 在籍していた鹿屋体育大学は、全国屈指の分析設備が整っている。各種の機器に触れたり、プロ野球の分析の道に進んだ人の話を聞く中でアナリストというイメージが膨らんだ。プロ球団は一度応募したがその時は縁がなく、周囲からの「現場に出た方がいい」というアドバイスを受けてJR東日本に進んだ。

 社会人時代とファーム担当の現在の違いとして「勝負感」があるという。社会人時代はトーナメントを勝ち上がっていくことが目的。それに対して現在は1軍を目指すること。「そこにおもしろさを感じている」と、選手の成長をサポートに専念。実戦で取得した打球速度などのデータや、ボールゾーンに手を出していないかなどを分かりやすく伝えている。

 現在、選手たちは自身の動画をいつでもどこでも振り返ることができる。コーチにも映像は共有されており、面談の際などに映像を使った振り返りにも使われたりするという。

 自身の今後の目標については「ビッグデータをうまく扱える技術、いわゆるプログラミング言語じゃないですけど、そういうのを扱えるようになっていきたい」と語っていた。

 * * *

 2023年も新たに数名DELTAの人材紹介サービス「デルタキャリア」からNPB入りを果たし、過去5年で10数名を超えている。近年では社会人野球のチームからもアナリストのニーズが生まれており、社会人を経てプロ球団入りするケースもある。同社では、アマチュア球界への人材輩出の支援も始めている。