◆明治安田J1リーグ▽第11節 町田2―0柏(3日・Gスタ)

【町田担当・金川誉】恥ずかしながらその“瞬間”を見逃した。0―0の前半9分。町田は敵陣深くの右サイドでスローインを得た。ロングスローの名手・DF鈴木準弥がボールを拾ったのを確認し、メモに「9分、LT(ロングスロー)、4(本目)」と記して一瞬ピッチから目を離した。スタジアムの歓声で顔を上げると、すでにFWオセフンのゴールがネットを揺らしていた。

 町田のロングスローは、今や各チームに対策されている。この日の柏は191センチのDF立田悠悟、190センチのFW木下康介を先発に抜てきし、高さ対策を施していた。それでも町田は、立ち上がりから立て続けに3本のロングスローをチャンスにつなげていた。4本目もロングスローだろう―。少なくとも記者席の私は、そう思って油断していた。

 このとき、今季初先発のFW荒木駿太は、右サイドのコーナーフラッグ付近にいた。そしてロングスローに備えてゴール前にふらふらと向かうような雰囲気を醸し出しながら、顔だけは鈴木に向けていた。「(鈴木)準弥くんと目が合ったんで。絶対に来ると思っていた」。ロングスローを予測し、足が止まっていた柏守備陣を出し抜き、鈴木から「クイックミドルスロー」と言うべき、中距離のスローインを引き出した。そのままダイレクトで中央に折り返し、オセフンのゴールをアシストしてみせた。

 この試合、荒木はチームの2点目も決め、1ゴール1アシストの活躍。前線からの足を止めないハードなチェイシングも含め、町田のスタイルを全身で体現した。黒田監督は先制点のシーンを振り返り「鈴木準弥がボールを手にした瞬間、あいつ(荒木)だけ休んでいなかった。あんな練習はしていない。でも柏が木下選手らを入れてロングスロー対策をしてきた中で、その盲点を突いた」と荒木の感性と、その瞬間を見逃さなかった鈴木の判断を称賛した。

 ロングスローというわかりやすい武器が注目を集めている町田だが、その根底には「相手が嫌がる事を徹底する」というコンセプトがある。ロングスローもそのひとつで、鈴木と荒木が見事に相手を出し抜いたこの日の“クイックミドルスロー”もその派生型と言えるだろう。この日は得点シーンもさながら、相手の嫌がる守備も徹底しての完封。この勝利で、町田は首位に再浮上した。ロングスローにばかり気を取られていては、町田の強さの本質は見逃してしまうかもしれない。私のように…。