旅の達人たちに、新潟の思い出深い旅を振り返ってもらう連載。第6回はウェブマガジン『カエライフ』で車中泊&アウトドアをテーマにしたイラストエッセイを連載中のイラストレーター・いとうみゆきさんが綴る、日本海夕日ラインの思い出です。

旅のスタイルは「クルマ旅」!
冬の新潟巡り旅、装備のアレコレ

私の好きなこと。 知らない場所をクルマで駆け抜けること。 きれいな風景をたくさん見ること。 おいしいものを食べること。

それをぜーんぶ叶えられたのが、新潟での3日間でした!

私の旅のスタイルはクルマ旅。

相棒のクルマ(白いクルマなので「白くま」という名前)の後部座席を簡単なベッドにして、いつでも寝られるスタイルの旅をしています。 そこにたくさんの荷物をつめこんで飛び出せば、家の分身の完成。

寒い時期の車中泊はいつもより身構えてしまいますが、ごはんがおいしかったり意外と寝やすかったり、と楽しいこともいっぱいなので大好きです。虫もいないし、汗もかきにくいし、温泉のありがたみも増しまし!

日本海夕日ラインを旅したのは、2023年の冬。実はその夏にも友だちと越後湯沢に行ったので、半年ぶりの新潟でした。 夏は緑がいっぱいできらきらした新潟でしたが、ひとりでじっくり楽しむには秋冬もぴったり。

明け方の「瓢湖」で白鳥ウォッチング

小雨の降る冷たい冬の朝、最初に向かった先は阿賀野市水原(すいばら)地区にある瓢湖(ひょうこ)。 ラムサール条約の登録湿地であり、白鳥の飛来地として全国的にも有名な湖です。

ここの白鳥はシベリアから越冬しにきているそう。多い時には5000羽を超える白鳥に出合うことができます。

まだ薄暗い明け方、湖の上にぼうっと浮かび上がる白い白鳥たち。 この日は4000羽を超える白鳥がいたそうで……湖面は白鳥で埋め尽くされ、あちこちから鳴き声が聞こえてきました。

曇っていたので日の出は見られませんでしたが、次第に周囲が明るくなってくると、1羽、また1羽と飛び立っていきます。

日中は近くの田んぼで餌を探すので、瓢湖で会えるのは明け方と夕方とのこと(車を走らせていると田んぼにたくさん白い塊が見えます)。

私は旅鳥や渡り鳥が大好き。 居心地の良い場所を求めて遠いところから海を渡ってきて、好きなだけ過ごしたら帰っていく……自由に見えるその姿に憧れてしまうのです。

とはいえもちろん、渡りは命がけ。広い海を渡るのですから、危険もたくさんあります。それでも一生を賭けながら身ひとつで海を超えて旅をする姿は本当に美しく、体もしなやかで、かっこいいのです。

そして毎年正確に渡りを行えるのは、すぐれたナビゲーション能力を備えているから。 渡り鳥たちは地球の磁気を感じ取ったり、太陽や星座の位置を頼りにしたりしながら、海を渡ってくるらしいのです。

体内コンパスと天測……それって昔の船旅みたい!

生き様だけでなく、旅のスタイルもかっこいいのが渡り鳥。 やっぱり大好きです。

そういえば、旅をしている時にいちばん出合う動物って鳥かもしれない。

車を走らせている時、遠くで飛んでいる鳥が見えたり、道を歩いている時、軽やかな声が横から聞こえたり、ふとした時に近くにいたりして、お互いにびっくりすることもしばしば。 それが普段見かけない種類の鳥だったりすると、自分が今旅をしていることをあらためて実感します。

楽しいだけじゃなくて大変なこともたくさんあるけど、その先にあるものに向かってとにかく羽ばたいていく、鳥。そして旅。

朝の訪れとともに飛び立っていく白鳥たちに勝手に共感し、励まされ、先に進む力をもらったのでした。

白鳥が飛来するのは10〜3月の間だけ。そのほかの時期はまたシベリアのほうに行ってしまうのでしょう。

それでも、季節が一巡りしたらまた会えるの。やぁ、また会ったね、って。


思い出がたくさん生まれた場所、新潟

ほかにも忘れられない出来事がたくさんありました。

日本で一番古い飴屋さん〈髙橋孫左衛門〉に寄ってお土産をたくさん買い込んだり、

誰もいないどしゃぶりの「角田岬灯台」に上って、佐渡海峡を見下ろしたり、

道の駅併設のRVパークで1泊して新米の米粉パンケーキをつくってみたり、

ヒスイがとれることで有名な「ヒスイ海岸」で遊んだり、

現在の旅人たちが走る高速道路と昔の旅人たちが歩いた旧北陸道を一望できる場所「親不知子不知(おやしらず こしらず)」で、歴史について思いを馳せたり……、

自由気ままな車旅は、あちらこちらに寄り道できるお気楽旅。たくさんの「美しい」に、出合うことができました。

私が旅をする理由のひとつに「美しいものを見たい」というものがあります。 家にいたら出合えないものに出合い、初めて見る美しいもので心をいっぱいにすることが好きなのです。

だからスマホの地図アプリを開くと無数に散らばるピンは、出合ってきた美しいものの記録。

そして今日もひとつ、またひとつ、とピンが増えていきます。

日本海を一望できるキャンプ場
〈和島オートキャンプ場〉はドライヤーありがうれしい!

寺泊港にある「魚のアメ横」でおいしいものをたくさん買い込んで向かった先は、今夜のキャンプ場! 長岡市の丘の上にある〈和島オートキャンプ場〉です。

市場に寄っていたら夕日は逃してしまったけど、偶然立ち寄ったスーパーでずっと欲しかったりんごの木箱を手に入れられたのでホクホク。

旅先で欲しかったものにドンピシャ出合えると、いつも以上にそのものに対してストーリーが生まれ、うれしいお買い物になるのです。

夜ごはんは寺泊で手に入れた海鮮たちと、コシヒカリの白米(もちろん新米!)。

つやっつやでほのかに甘い白米と脂の乗ったお魚のコラボレーションがあまりにもおいしくって、ひとりで食べるのがもったいなくって、誰かに伝えたくってたまりませんでした。 しかも見上げれば一面の星空。大きな月が出ていたから、ぼんやりとではありますが海の様子だってちゃんと見えます。面倒くさい気持ちを押し殺して準備した焚き火の光とにおいも最高。

こんなに幸せな思いをしていいのでしょうか……ありがとう日本海……という気持ちでいっぱいの最高の夜でした。

朝、起きると、寝床にしていた車のリアガラスにさっそく日本海が見えました。

なんだこの絶景……オーシャンビューホテルと謳ってもいい……完璧な朝だ!

きらきら輝く日本海を見ているとドキドキして、うれしくなってきます。

そして日本海を見ると、昨日のおいしかった魚たちのことを思い出すようになってしまいました(お魚のおいしさが忘れられず、もう一度寺泊港に行って食べ歩き、家にもたくさん買って帰りました)。

すばらしい景色においしいお魚、新潟ってなんていいところなんだ!

これだから旅ってやめられないんだよな〜っ! という気持ちにさせてくれるすばらしい場所でした。

展望台からの景色も最高。 ちなみにこのキャンプ場、ドライヤーがあってすごくうれしかったです。


豪雪地帯の日本三大薬湯
〈松之山温泉センター鷹の湯〉で旅の疲れを癒やす

もちろん、海沿いだけじゃなく山にも魅力がいっぱい。

山の奥深くにある松之山温泉の〈松之山温泉センター鷹の湯〉にも立ち寄りました。 7〜800年前、いつも同じ谷間に降りていく鷹を不思議に思った木こりがそこへ行ってみると、鷹が温泉で傷を癒していた様子を目撃した……という伝説がある、昔から評判の温泉です。

松之山温泉は日本三大薬湯のひとつ。 ハーブのような独特な香りと熱い温度が特徴的で、浸かっているだけで薬湯であることが全身で感じられます。 しかも、この温泉は1200万年以上前に大地の奥底に閉じ込められた海水が湧き出た温泉だと考えられており、舐めるとしょっぱいそう。日本でも珍しいタイプの温泉ですね。 ゆっくり浸かって、旅の疲れがぜーんぶ吹き飛んでいきました。

この場所は新潟の中でも有数の豪雪地。多い時は5メートルを超える雪が降るそうです。冬の、雪が積もってしいんとした夜にまた来てみたいな。きっと最高のひとっ風呂になることでしょう。

松之山温泉は温泉街になっているので、宿や食事処、お土産屋さんもいっぱい。丸一日ここでゆったり過ごすことが次回の目標です!

日本で一番古い飴屋〈髙橋孫左衛門〉。
食べたらトリコになるもっちり食感!

さて、私はいろいろな場所に行くので、よく友だちにお土産をあげるのですが、ここ1年のお土産でいちばん人気だったのが「翁飴」でした。

飴という文字が入っていますが、普段食べる飴とはちょっと違う食感。 翁飴は上越市高田地区に伝わる伝統的な飴で、300年もの歴史を持つ飴菓子です。

ひと口食べればすぐにわかる、でんぷん由来のほどよい甘さともっちりとした食感が特徴的。初めて食べたはずなのになぜか懐かしくて、トリコになるおいしさです。

このお店は日本で一番古い飴屋さんだというところも興味深い。 ほかにもさまざまなお菓子を購入させていただいたのですが、どれもおいしくってたまりませんでした。

ちなみに翁飴は高田城主が江戸へ参勤交代に行く時のお土産としても持参されていたそうです。本当に古くから愛されている味を今でも楽しむことができる贅沢さといったら。 昔の人たちもこれを食べていたんだと思うと、少しだけタイムスリップしたような気持ちになります。

飴が貴重なものだった頃、特別な日に家族みんなで食べたのかな。ひどく険しい旅の途中、大雨の中、洞窟に隠れながらひっそりとこれを齧った人がいたかもしれない。たくさん歩く参勤交代の道中、このお土産を持つ役目を任されていた人は、手元に抱えたこの甘くてやわらかい飴にむしゃぶりつきたくてたまらなかっただろうな……。

家に帰って、配りきれずに余った翁飴をかじりながら、そんな妄想を繰り広げます。すると瞼の裏に浮かんでくるのは、クルマ旅で寄った名所の数々。 クルマで走っている時に見かけた茅葺き屋根が美しいかつての宿場町、灯台の下にひっそりとあった暗い洞窟、荒波が打ち寄せる旧北陸道、美しい連なりが特徴的な棚田がある集落――。

こうして私は、新潟での思い出を抱きしめながら、2度目の旅をするのでした。

Information

【瓢湖】
address:新潟県阿賀野市水原313-1
tel:0250-62-2690(阿賀野市公園管理事務所)

Information

【和島オートキャンプ場】
address:新潟県長岡市両高1
tel:0258-74-3010
問い合わせ対応時間:9:00〜17:00
オープン期間:3月中旬〜11月末
web:KIZUNAの森|新潟県長岡市キャンプ場・公園

Information

【松之山温泉センター鷹の湯】
address:新潟県十日町市松之山湯本18-1
tel:025-596-2221
営業時間:10:00〜21:00(最終受付:20:30)
web:日本三大薬湯 松之山温泉

Information

【髙橋孫左衛門商店】
address:新潟県上越市南本町3-7-2
tel:025-524-1188
営業時間:8:30〜18:30頃
定休日:水曜
web:髙橋孫左衛門商店

Profile いとうみゆきさん

イラストレーター。埼玉県在住。セツ・モードセミナー卒業。畑と音楽を好み、パーマカルチャーや自然農を学んでいる。ウェブマガジン『カエライフ』で車中泊&アウトドアをテーマにしたイラストエッセイを連載中。著書に『車のおうちで旅をする』(KADOKAWA)がある。X|@noca_m Instagram|@nmoytke Web|ito miyuki's illustration