焼酎を通して地域の魅力を再発見するイベントがあるのをご存じでしょうか。焼酎の生産地である鹿児島県いちき串木野市(いちきくしのし)と日置市(ひおきし)を舞台に、周遊バスで焼酎蔵を巡る「焼酎ツーリズムかごしま2024」という催しが2月11日に実施され、話題となりました。本記事では、体験レポートとともにイベントの魅力を紹介します。
鹿児島県いちき串木野市と日置市で開催された「焼酎ツーリズムかごしま2024」
「焼酎ツーリズムかごしま2024」の舞台となる鹿児島県いちき串木野市と日置市は、焼酎メーカーの多い鹿児島県でも特に蔵元が集まっているエリアになります。その「焼酎のまち」にある蔵を巡回バスで周遊し、試飲をしたり酒蔵と交流しながら、焼酎の生産地域をまるごと体感するのがイベントの趣旨。2024年で2回目となるこのイベントは、参加した焼酎蔵も6蔵から9蔵に増え、昨年行われた1回目よりもパワーアップした内容で実施されました。
ツーリズムに申し込んだ人には、事前に「焼酎蔵の資料」や「地域案内冊子&バス時刻表」「バスチケット」などが届きます。
その資料やSNSなどの情報をもとに、「どのエリアに行こう?」「どこでご飯を食べよう?」などの予定を事前に立てて、このツーリズムに臨むスタイルになっています。
受付では、試飲用の「お湯割りグラス」やオリジナルサコッシュを受け取ります。この「お湯割りグラス」は鹿児島では昔から一般家庭でも愛用されています。サコッシュは、地元で大漁旗などを製作している亀崎染工さんとのコラボグッズだそうです。
2月11日当日、南国・鹿児島でも、まだ肌寒いコンディションでしたが、多くの人が参加。時季的にホット茶割り用の温かいお茶を持参するなど、「通だね!」と言いたくなる、熟練者顔負けな準備を整えている若者たちも見かけられました。
ツーリズムに参加している焼酎蔵へは、この日のために用意された巡回バスで移動します。公共交通機関だけではなかなか訪れることができない場所にも行きやすいのが特徴です。
個人の旅行ではハンドルキーパーが必要になったりしますが、巡回バスがあるので参加者みんなが試飲を楽しめるのもうれしいですね。
参加者は思い思いのルートやタイミングで移動していますが、みんなオリジナルサコッシュを首から下げているので、「参加者同士の交流も弾みやすい!」という声も聞かれるフレンドリーなイベント。おひとり様でも気兼ねなく参加できるのがいいですね。
焼酎蔵の周辺を散策して、地域の風土を体感できるのもツーリズムの魅力です。歴史を学んだり地元のおいしい料理を食べたりしながら、鹿児島の地域をまるごと楽しめます。
また、鹿児島大学で焼酎や発酵について学んでいる大学生たちが「そつ(焼酎)麹もろみ隊」として、解説をサポートするボランティアも担っていました。
| 「焼酎ツーリズムかごしま2024」参加焼酎蔵
・濵田酒造株式会社 伝兵衛蔵
・若松酒造株式会社
・薩摩金山蔵
・大和桜酒造株式会社
・有限会社白石酒造
・田崎酒造株式会社
・西酒造株式会社
・小正醸造株式会社 日置蒸溜蔵
・小正嘉之助蒸溜所株式会社
どの焼酎蔵も、それぞれの特色を活かして参加者をもてなしてくれます。お酒が好きな人にとって、造り手から直接いろいろなお話を聞けるのはとても楽しいものです。どんな想いでつくっている焼酎なのか、試飲をしたり見学をしたりしながら理解を深めることができます。
ツーリズムの舞台となったエリアは、新鮮な海の幸を食べられるお店や、自然豊かな風景も魅力です。当日はあいにく雨が降る時間帯もありましたが、参加者はみな笑顔で焼酎を楽しんでいました。運営スタッフや焼酎蔵のスタッフたちも楽しそうで、特に自分の蔵でつくっている焼酎の説明をする蔵人さんがうれしそうに話していたのが印象的でした。
焼酎に関わる今の事象を知り・学び・理解する「そつのんごろカレッジ」も実施
翌日、2月12日には、「そつのんごろカレッジ」というスピンオフイベントも開催されました。濵田酒造伝兵衛蔵を会場にして開催された「そつのんごろカレッジ」は、“焼酎=そつ”に関わる今を知り・学び・理解する内容です。焼酎への理解を深めることができる講義やトークセッションのほか、屋外に設置されたマルシェエリアではおいしいものを食べ、頭もお腹も心も一杯になるようなイベントになりました。
| 一般社団法人ワインツーリズム 大木貴之氏講演「ツーリズムで現れる地域の変化」
カレッジエリアの「1限目」に登場したのは、一般社団法人ワインツーリズムの大木貴之氏。山梨県で長年開催されている「ワインツーリズム」を企画・運営されており、今回の「焼酎ツーリズム」の先輩のような存在です。
大木氏が山梨で自分の店を開業した当時は、人もお店も少なく、街はシャッター通りとなっていたそう。地元の人々が地元のワインを楽しむ文化もほとんどない状況で、自分たちの商売を持続可能にするために始めた取り組みの一つが「ワインツーリズム」だったといいます。
ツアー形式ではなく「ツーリズム」という形態を取ることで、イベントが終わってからも人々がワイナリー巡りやお店巡りをしやすくなり、この取り組みを通して活きたコミュニティが育まれていったと話していました。
| 鹿児島国際大学研究発表「経済・文化からみた酒と鹿児島」
カレッジエリアの「2限目」は、鹿児島国際大学の先生方による研究発表「経済・文化からみた酒と鹿児島」 でした。
「お酒の輸出と観光の相互作用について」「焼酎の輸出不振の原因と打開策」「地域の酒をいかしたツーリズム」といったテーマで、観光客数とアルコールの輸出額の関連や、焼酎の認知度についての検討など、とても興味深い講義となりました。
| みんなのサツマイモを守るプロジェクト -SAVE THE SWEET POTATO-「さつまいも市況・基腐病(もとぐされびょう)と対策・生産者の現状」
「3限目」には、「みんなのサツマイモを守るプロジェクト(略称:SSP)」が登壇しました。SSPは、全国のサツマイモ生産地で発生している「サツマイモ基腐病」への対策の情報共有や貢献事業を行っている団体です。
サツマイモ基腐病の根本的な対策手段はまだ存在しませんが、畑の土壌改良を行うことで改善が見られるそうです。農家のみなさんの取り組みをWebサイトを通して情報共有したり、サツマイモ生産と芋焼酎の窮状を伝える広報活動を通して、サツマイモ製品を「応援」するような取り組みを続けています。
| 焼酎蔵トークセッション「焼酎ツーリズムからみる鹿児島の未来予想図」
最後の「4限目」は、今回の焼酎ツーリズムに参加した焼酎蔵から4蔵が登壇したトークセッション「焼酎ツーリズムからみる鹿児島の未来予想図」でした。
昨年と今年のツーリズムを通して感じた手応えや今後のツーリズムについて、会場参加者と一緒にトークするような、焼酎ファンみんなで焼酎について語った貴重な時間でした。
登壇した蔵元からは、「自分たちにとって当たり前でも、参加者にとっては新鮮なことがある」「オリジナルサコッシュの連帯感がよかった」「1つの蔵元だけで見学者を呼ぶのは難しいが、ツーリズムになればたくさんの人に来てもらえるとわかった」「焼酎の未来を話すことができて感慨深い」などの声が上がっていました。
焼酎を通して地域のたくさんの人たちとのつながりが感じられた「焼酎ツーリズムかごしま2024」。実行委員会では来年以降も継続して開催していきたいと考えているそうです。
最後に、『焼酎ツーリズムかごしま2024』を企画・運営した焼酎ツーリズム代表・小林史和氏からコメントをいただきました。
「『焼酎ツーリズムかごしま2024』をご支援いただいたみなさまへ心からの感謝を申し上げます。このイベントは、鹿児島の豊かな自然と文化を焼酎とともに体験していただく、非常に特別な機会となりました。参加者のみなさまが蔵を巡り、焼酎製造の過程を直接目にすることで、地域の魅力を深く感じていただけたことを願っています。我々の目標は、焼酎を通じて地域文化の素晴らしさを広く伝えることです。
また、『そつのんごろカレッジ』では、焼酎業界の未来についてさらに掘り下げる貴重な機会を提供しました。このような活動を通して、焼酎だけでなく、地元鹿児島の農業や文化をサポートし、地域全体の魅力を前面に出すことが我々の願いです。
『みんなのサツマイモを守るプロジェクト』(SSP)の取り組みによる地元農業への貢献も、このイベントの重要な側面です。SSPは、サツマイモ基腐病対策を通じて、地域産業の発展を支えています。これは焼酎業界を含む鹿児島の農業や文化への総合的な支援を示すものです。引き続き、鹿児島の魅力を広め、皆様の支持を得るために努力してまいります。ご支援のほどよろしくお願いいたします」
焼酎ツーリズム代表 小林史和