便潜血検査で異常が見つかった?陽性は、消化管のどこかから出血を起こしているということですから、出血している場所を確かめる検査が必要です。消化管からの出血を起こす疾患は数多く、中には大腸がんなど重大な病気もあります。専門医が解説します。

健康診断の便潜血検査で陽性の結果が

▶便潜血検査で異常がでたら

便潜血検査は便に含まれる微量の血液を調べる検査です。便を検査用のスティックでこすり取り提出します。便潜血検査が陽性(異常)になった時は大腸から出血しているサインです。大腸がんや腸炎、痔などの病気が疑われます。これらを診断するには大腸内視鏡を受ける必要があります。大腸内視鏡ができない場合はカプセル内視鏡やCT大腸内視鏡といった選択肢もあります。

▶便潜血はどのくらいの人が陽性となり、陽性の人のどのくらいの人に大腸がんが見つかるか

便潜血検査を受けた人の6〜7%が陽性となり、その中の4〜5%位に大腸がんが見つかります。とよしま内視鏡クリニックの調査では、血便・便秘・下痢・腹痛などの症状がある人、健康診断の人、大腸がんやポリープのフォローアップの人に比べると、便潜血検査が陽性の人は大腸がんが発見される確率が高いことがわかりました。便潜血検査は陽性が出たからといって皆さんに大腸がんが見つかるわけではありませんが、大腸内視鏡を受ける必要性は高いのです。

便潜血検査はどれくらいの精度なのか?

▶便潜血検査が2回のうち1回だけ異常だった時も大腸内視鏡を受ける必要があるか

便潜血検査は2日法といって、2日にわたり計2回分の便を採取するやり方が多く行われています。2日法で1日だけ陽性となっても異常です。精密検査が必要となります。もう一度便潜血検査をやり直すことは避けないといけません。

ただし、1日だけ陽性ですと大腸がんが発見される確率は2%とさほど高くありませんが、2日とも陽性が出てしまうと大腸がんが見つかる可能性が12%とかなり高くなります。さらに、がんも進行しているがんである可能性が高くなります(表1)。特に、2日とも陽性の方は速やかに大腸内視鏡を受けていただきたいと思います。

▶痔が悪い人は大腸内視鏡を受けなくてよいか

痔が悪い人は便潜血検査が陽性となっても、痔が原因だからと思い大腸内視鏡検査を受けないことがあります。しかし、便潜血検査陽性の人で「痔が悪い」と答えた人は大腸がんが発見される確率が高いということが報告されています。便潜血は確かに痔で陽性となりますが、痔が原因とは限りませんので、大腸内視鏡を受けるようにしましょう。また、一般的に痔の人は大腸がんが多いこともわかっています。

▶便潜血検査が異常でなかったからといって大腸がんがないとはいえません

実は、進行大腸がんの人は便潜血検査を2日法で受けても2回とも陰性(正常)の人が1割もいます。早期大腸がんにいたっては、便潜血検査が2回とも陰性の人が4割に上ります。便潜血検査は大腸内視鏡に比べると簡単に受けられる検査ですが、その分どうしても大腸がんの見逃しが多い検査です。残念ながら、毎年便潜血検査が正常で、はじめて便潜血検査が異常となった時に大腸内視鏡を受けたら、進行がんが発見されるということは珍しくありません

公的な大腸がん検診において、日本では、まだ便潜血検査しか行われておりません。しかし、米国では50歳で大腸内視鏡を直接(便潜血検査を受けずに)受けることができます。大腸内視鏡は便潜血検査に比べると、大腸がんを早期に発見することができます。

さらに、大腸がんになる前のポリープを切除することができ、大腸がんにかかる人や大腸がんでなくなる人を減らすことができます。今から30年前は、大腸がんでなくなる人は、日本は米国より少なかったのですが、今では逆転し、日本の方が多くなっています。

なぜ大腸内視鏡検査が必要なのか?

▶どこで大腸内視鏡を受けると良いか

大腸内視鏡は胃カメラよりも医師の技術に差がある検査です。そのため、しっかり精度が管理されている病院で内視鏡を受けるとよいです。大腸内視鏡の精度は腺腫発見率という指標で表されます。腺腫とは大腸がんになる前のポリープで、腺腫を大腸がんになる前に切除すると大腸がんを予防することができることがわかっています。

腺腫発見率とは1個以上の大腸腺腫が発見される大腸内視鏡の確率を示します。腺腫発見率が高い内視鏡医は多くの大腸がんを予防し、大腸がんから多くの命を救っていることが知られています。ですから、腺腫発見率をしっかり計測して、その向上に努めている施設で大腸内視鏡を受けるとよいでしょう。腺腫発見率が40%以上の施設が好ましいといわれています。

少し専門的な話となりますが、腺腫発見率を上げるための工夫として、観察時間を十分とること、自身の腺腫発見率を測定すること(Toyoshima O, et al. Endosc Int Open 2021;09:E1032-E1038)、鎮静を適切に行うこと、インジゴカルミンという色素をまくこと、最新の内視鏡機器を使用すること(Toyoshima O, et al. Endosc Int Open 2019;07:E987-E993)、大腸の奥の方の小さくて平なポリープを見逃さないこと(Toyoshima O, et al. Endosc Int Open 2020;08:E775-E782)、などがあげられます。

▶実際の腺腫発見率はどのくらいか

とよしま内視鏡クリニックの腺腫発見率を年代・性別にお示しします

腺腫は年齢と共に多く発見されるようになります。男性は女性よりも多く腺腫が発見されます。男性は40歳代で4割、50歳以上では7割に腺腫が発見されています。女性は(年齢−10)%で徐々に増加していきます。

▶大腸内視鏡は何歳になったら受けた方がよいか

大腸ポリープの中でがん化するものは腺腫以外に臨床的に重要な鋸歯状ポリープ(clinically significant serrated polyp: CSSP)といわれるポリープがあります。CSSPは約10%の人に発見され、年代であまり差がなく、女性に多く発見されます。腺腫とCSSPは発見されたら切除すべきなのですが、男性は40歳代で、女性は50歳代で約5割の方に、腺腫かCSSPが発見されます。

ですから、男性は40歳になったら、女性は50歳になったら、何も症状がなくても大腸内視鏡を受けた方がよいのです。およそ半分の方に切除すべき大腸ポリープが見つかるからです。また、大腸がんの家族歴のある人は、さらに10歳若くから大腸内視鏡を受けることをお勧めします。