国内のマッチングアプリで利用率No.1を誇る「ペアーズ」。2021年の調査では、過去1年で結婚した人の19%がマッチングアプリ/サイトがきっかけだという。ペアーズ単体でも7%に上っている。

 ペアーズは9月1日から、マッチングアプリとしては業界初のテレビCMの放送を開始しており、いわゆる市民権を獲得したサービスともいえるだろう。現在は自治体との連携も進んでおり、少子化対策の一環として活用されることもあるという。一時期は「出会い系アプリ」として怪しい存在と見なされることもあったマッチングアプリは、いかにして市民権を獲得していったのだろうか。

 ペアーズの運営元である、エウレカ(東京都港区)CEOの山本竜馬社長に聞いた。

●「怪しげなアプリ」も今や昔 イメージをどう塗り替えた?

 ペアーズの日本でのリリースは約10年前、2012年にさかのぼる。当時は真剣な出会いを探すコンセプトのマッチングアプリ自体が珍しく、いわゆる「出会い系サイト」と混同され、怪しいイメージを持たれることが多かったという。

 ペアーズはサービスの黎明(れいめい)期から本人確認制度を導入し、パートナーを安心安全に探せるよう、品質の向上に努めてきた。今ではAI・人間の目双方の監視体制で不正なアカウントを検知・削除しているなど、安心安全な環境づくりに取り組んでいる。

 20年初頭から始まったコロナ禍の影響で、人と直接会いにくいご時世となった。マッチングアプリ業界には追い風として働き、ペアーズのユーザー数は急増。22年にはペアーズの累計登録数は2000万件を超えている。

 コロナ禍の対応として同社は「ワクチン接種済み」サインの導入やマッチングしていない相手と通話できる「トークトゥデート」など、新たな生活様式に合わせて提供サービスを拡充してきた。

●念願のCM放送開始 背景に何が?

 こうした取り組みを経て、ペアーズは9月からテレビCMの放送を開始した。実はこれは、マッチングアプリ業界にとっては大きな転換点でもある。

 マッチングアプリは認知が進んでいるとはいえ、まだ新しい業態である。同業態の企業はこれまで、Webを中心としたデジタルマーケティングに広告予算を投下してきた。テレビCMといったマス広告への出稿も長年の願いだった一方で、テレビ局側は慎重な姿勢を続けていたことも事実だ。

 「新しい業態であり、かつここ数年で急速にユーザー数が増えていった一方で、マッチングアプリ関係で生まれたトラブルに対してテレビ局側は非常に敏感になっていました。

 そこでわれわれは、トラブルがあるとはいえ発生率は統計的にものすごく低いということを事実ベースで示してきました。またそういったトラブルが起こらないための取り組み、例えば不正アカウントの検知・削除や、コールセンターをはじめとしたカスタマーケア、年齢確認の厳格化などをテレビ局側に説明してきました」

 こうした取り組みがテレビ局側にも認められ、今夏のCM放送開始にこぎ着けられたという。

 「最終的には『少子化』『未婚化』という大きな社会問題に対して、当社のサービスが解決に貢献できるサービスだということをテレビ局に認めていただけたのが一番大きいのかなと思います」

●自治体との連携を進める狙い

 ペアーズは、同サービスの現在地を「浸透期」と位置付ける。そのため、これまでの広告ではリーチしきれなかった地方のユーザーにも利用を促進すべく、自治体との連携を進めている。

 自治体と連携した取り組みとして、地域住民へセミナーを開催しペアーズに触れてもらい、ユーザーの拡大とパートナーとの出会いを支援している。宮崎市では地元企業も参画し、従業員への利用を促しているという。

 「これまで地方はユーザーが少なかったのですが、現在は裾野が広がり、地方でも十分に使えるアプリとして環境が整いつつあります。地方自治体に話を聞くと、どこも少子化、未婚化、人口減少が課題のトップに挙がります。私たちは『本命の相手』を探すプロセスを支援し、こうした課題解決へ貢献したいと思っています」

 結婚の意思がありながら婚活をしていない人の割合は高い。エウレカの調査によると、交際相手を求めている独身者は6割を超えている一方で、交際相手を積極的に探す活動をしているのは13%にとどまる。こうした「交際相手を求めているが活動していない(活動できていない)」層へ、ペアーズが訴求できる余地は十分にあるというわけだ。

 未婚化が進む要因には、かつてあった「結婚への周囲の後押し」が減少してきている事実もある。

 「昔の日本は独身者に対して、親や地域が婚活を促したり、お見合いを取り持ったりなど、結婚に向けたある種の『圧』がありました。現代は圧という形ではなく、自治体から出会い促進に向けた空気をつくっていくことが大切になると考えています」

 コロナ禍を経て市民権を得たマッチングアプリ。テレビCMの放映はその象徴ともいえる。人口減少が課題となる日本で、その解消に向けた糸口となりえるか。