藤波晋太郎(REX/アフロ)

 メッツ傘下3Aシラキュースに所属する藤浪晋太郎が苦境にあえいでいる。

 今季からメッツに新加入してリリーバーとして期待されたが、課題の制球難がすぐに露呈してシーズン開幕直後にマイナー降格。復調をアピールしたいところだが、打者と対戦する投球水準に達していない。4月25日のガーディアンズ傘下3Aコロンバス戦では、1死しか取れず1安打4四球6失点の大乱調。続く4月28日のコロンバス戦でも1死のみで2安打2四球2失点でマウンドを降りた。9試合登板で防御率14.09。メッツはナ・リーグ東地区で勝率5割をキープし、課題の投手陣も検討している。現時点で藤浪のメジャー昇格は極めて厳しい状況だ。

「160キロ近い直球を投げ込めるのは大きな魅力だが、再現性が低いのでマウンドで投げて見ないとどんな投球をするか分からない。首脳陣も判断が難しい投手という認識です。高めの直球で空振りを奪えるので、ある程度制球がまとまれば戦力として十分に計算できますが、オープン戦から不安定な投球がずっと続いている。このまま状態が上がって来ないようだと厳しい。藤浪が他球団でメジャー昇格を目指して退団を申し出た場合は、獲得に乗り出す球団があるかもしれないが、決して評価が高いとは言えない」(米国に駐在する通信員)

 メジャー挑戦1年目の昨季はアスレチックスで先発起用されたが結果を残せず、ブルペンに配置転換。安定した投球を見せた時期があり、7月にトレードでオリオールズに移籍すると、救援で30試合登板し2勝0敗2セーブ2ホールド、防御率4.85をマークし、地区優勝に貢献した。

 今季はメッツと1年335万ドル(当時の為替ルートで約5億円)プラス出来高で契約を結んだ。救援陣は160キロを超える直球を投げる投手が少ないため、パワーピッチャーとして期待されたが、ストライクに取ることに四苦八苦しているようではメジャーで生き残れない。熱狂的で知られメッツファンや地元のメディアからは「なぜ藤浪を獲得した?」「不良債権になる確率が極めて高い」など辛辣な声が多い。

 メジャーを取材するスポーツ紙記者は厳しい見方をする。
「トレード移籍だと、移籍先の球団が藤浪の年俸分を負担することになるので獲得のハードルが上がる。退団してフリーになった方がメジャーの残り29球団からチャンスが舞い込んでくるかもしれない。ただ、その可能性が高いかと言えば微妙です。不安定な投球が続いていることで株が下がっている。30歳という年齢を考えると、中長期的な戦略で若手を育てた方がいいと判断する球団が多いでしょう」

■かつて日ハム・新庄監督は獲得を熱望

 メジャーでのプレーがかなわない状況となった場合、考えられるのが日本球界復帰だ。スポーツ紙デスクは、「パ・リーグの球団で争奪戦になるのでは」と予測する。

「粗削りなパワーピッチャーはパ・リーグの方が向いている。球場が広いので力で押し込めますし、伸び伸びしたチームカラーの球団が多いので藤浪の性格に合うと思います」

 具体的には、「有力候補となるのがロッテ、オリックス、日本ハムでしょう」という。
「ロッテは他球団の選手を再生する能力が高い。現役時代にメジャーでプレーした吉井理人監督も良き理解者となるでしょう。オリックスは山崎颯一郎、宇田川優希など剛速球右腕を育てることに長けた球団で、大阪桐蔭時代にバッテリーを組んだ後輩の森友哉という良き理解者がいる。大阪出身の藤浪の地元にも近く、環境面でも不安がない。日本ハムは新庄剛志監督が就任した21年に、阪神にいた藤浪のトレード獲得を熱望したことがありました。ソフトバンクで伸び悩んでいた田中正義を守護神として覚醒させた実績もあります」

 ロッテは他球団から移籍加入した選手の活躍が目立つ。メジャーから復帰した澤村拓一、日本ハムからトレード移籍した西村天裕、DeNAから加入した国吉佑樹が救援陣を支え、野手も元巨人の石川慎吾、元日本ハムの岡広海が活躍している。助っ人外国人も元巨人のC.C.メルセデス、グレゴリー・ポランコ、元DeNAのソトとNPB経験者が多い。ロッテでプレーする選手たちは「フレンドリーな雰囲気で溶け込みやすい環境」と口をそろえる。大阪桐蔭の時に同学年の投手で切磋琢磨した澤田圭佑も在籍している。澤田は22年限りでオリックスの戦力構想から外れたが、新天地のロッテで育成契約から支配下昇格を勝ち取り、昨年は2勝2セーブ6ホールド、防御率1.08をマーク。今季も11試合登板で1勝3ホールド、防御率1.80の好成績を残している。12年の月日を経て藤浪と「共闘」する姿が見られるか。

 投手の育成能力で言えば球界トップクラスで知られる球団がオリックスだ。中垣征一郎巡回ヘッドコーチは山崎、宇田川の育成に携わり、日本ハムのコーチ時代にはダルビッシュ有(現パドレス)を支え、メジャー挑戦後は専属トレーナーになった時期があった。藤浪がオリックスに入団した場合、中垣コーチを中心としたコーチ陣、スタッフたちがどう再生させるか興味深い。

 日本ハムは新庄監督のもと、選手の個性を伸ばし、モチベーションを高める環境に定評があり、他球団の選手からも「プレーしたい」という声が上がるほど。中日で出場機会に恵まれなかった郡司裕也はトレード移籍で中心選手として活躍し、元中日のアリエル・マルティネスも不動の4番として稼働している。かつて同学年の大谷翔平とライバル関係だった藤浪が、大谷が巣立った日本ハムでプレーするというのも新たなドラマを感じさせる。

 一方で古巣・阪神に復帰する可能性はないだろうか。近年は伸び悩んでいたが、高卒1年目から3年連続2ケタ勝利をマークした実績がある。阪神を取材する記者によると、岡田彰布監督の評価は決して低くないという。だが、「復帰の実現は低いでしょう」と語る。

「阪神は先発、救援陣ともに充実しています。ファームにも西純矢、及川雅貴、富田蓮、石黒佑弥、川原陸、茨木秀俊と若手成長株が多く、ビーズリー、岩貞裕太と実力者も控えている。藤浪が戦力として必要かと言われるとそうではない。獲得に動くのは考えづらいですね」

 藤浪は覚悟を持って海の向こうに渡った。日本球界への電撃復帰は現時点で考えていないだろう。ただ、制球難に改善の兆候が見られなければ、メジャー復帰はかなわない。このままメジャーにはい上がれない状態が続くと、DeNAに復帰した筒香嘉智のように、日本球界への復帰が現実味を帯びてきそうだ。

(今川秀悟)