新型コロナウイルスによって“どん底”を味わった沖縄の観光産業が復調しつつある。

 沖縄県が公表する「沖縄県入域観光客統計概況」によると、2023年の観光客数は823万5100人と、対前年比で44.5%増となった。24年はクルーズ船などでやってくる外国人観光客数の増加が見込まれるため、コロナ禍前から進んでいたホテルの建設・開業ラッシュにも一層の弾みがつくことだろう。

 このように沖縄の観光マーケットが活況を呈する中、反転攻勢の構えを見せる企業がある。オリオングループのオリオンホテルだ。

 オリオンホテルは現在、沖縄本島北部の本部町にあるリゾートホテル「ホテル オリオン モトブ リゾート&スパ」と、昨年11月20日にリニューアルオープンした那覇市のシティホテル「オリオンホテル 那覇」の2施設を運営する。前者については、客室稼働率(OCC)がコロナ禍前の水準に戻り、客室平均単価(ADR)は現時点でコロナ禍前を5000〜6000円ほど超えている。

 オリオンホテルのビジネス現況などについて、同社社長の柳内和子氏と、親会社であるオリオンビール社長兼CEOの村野一氏をインタビューした。

●従業員を雇い止めることなく、コロナ禍を乗り切ったグループ力

 ホテル オリオン モトブ リゾート&スパの高層階客室――。

 窓の外に目をやると、眼下には青い海が一面に広がり、正面には伊江島が浮かぶ。「伊江島タッチュー」と呼ばれる特徴的な形の岩山がはっきりと見える近距離だ。さらには県内随一の観光名所「沖縄美ら海水族館」もホテルに隣接する。

 これだけの好立地にあるリゾートホテルは他にはないと村野氏は胸を張る。実はこの場所を手に入れることができたのは、“棚ぼた”だったという。

 「当時、土地の再利用に困った本部町から『何とかならないか?』と要請がありました。オリオンビールがホテルを作りたいからと、ウロウロと探し歩いて買った土地ではないのです」と村野氏は経緯を語る。

 もともと、この場所には1975年から76年にかけて開催された「沖縄国際海洋博覧会」と同時に作られた遊園地「沖縄エキスポランド」があった。ところが、長らく利用者の低迷が続いた結果、2000年3月に閉園。その後、02年に本部町が跡地を購入したものの、利活用に悩んだ中で頼った先がオリオンビールだった。

 オリオンビールは1975年に那覇市で開業した都市型ホテルを保有していたが、リゾートタイプのホテルは初めてだった。満を持して新たな挑戦を進め、2014年にホテル オリオン モトブ リゾート&スパをオープン。客室238、全室オーシャンビューという豪華絢爛なホテルが完成した。

 時を同じくしてインバウンドブームが到来し、沖縄の観光客は年々急増。ホテル オリオン モトブ リゾート&スパの業績も好調で、最盛期には外国人客が3割に上ったという。

 ところが、コロナ禍で状況は激変する。潮が引くように沖縄から観光客が消えた。一体その間どう凌いだのか。柳内氏が振り返る。

 「沖縄県外からはほとんどお客さまが来ることはありませんでしたが、その期間は県民の方々が応援してくれました。それに支えられたところが大きいです。県民割のような旅行支援もできたので、平均でコロナ禍前の2〜3割ほど県内利用者が増えましたね」

 また、宿泊客の安心感を高めるためにサービスもテコ入れした。“密”にならない対策を講じて、客室に食事を届けるようにするなど、個別対応に力を注いだ。そうした取り組みを評価した顧客がリピートをしてくれるようにもなった。

 とはいえ、売り上げは激減。苦しんだ中でも柳内氏が胸を張れるのは、従業員全員を雇用し続けたことだ。これはオリオングループであったからこその恩恵も大きい。その理由を村野氏が説明する。

 「22年度にグループ全体の売上高が前年比32%増とコロナ前を超えました。営業利益も8.9倍に。ホテルの方はまだ観光客が戻っていなくて、非常に厳しい状況でしたが、従業員の雇用を継続し、さらにはリニューアルの大型投資も決められる余裕がありました」

 全国を見渡すとコロナ禍で従業員を解雇したホテルは多数ある。それどころか廃業も避けられない状況だった。ところが、オリオンホテルの減収を十分にカバーできるだけの余力がオリオングループにはあったのだ。

 村野氏が言う大型投資に当たるのが、オリオンホテル 那覇のリニューアルオープンである。上述したように、同ホテルは開業から45年以上が過ぎ、老朽化などが課題になっていた。そこで23年3月1日に全館休業に踏み切り、リニューアル工事に入った。

 実は、8カ月以上の休業期間においても従業員の雇用を止めなかった。その方法がユニークで、他社のホテルに“レンタル勤務”していたのだ。

 「近隣のホテルに声をかけて、社員を3カ月、6カ月と働かせてもらうことができました。まさに三方よし。仕事をしたい本人たちにもいいし、受け入れ先のホテルにも感謝される。当社にとってもスキルを落とすことなく、また戻ってきてもらえるわけですから」

 これが実現可能だったのは、沖縄にずっと根を張る企業であることへの信頼感が大きかったと村野氏は強調する。

 「受け入れ先のホテルにしても、会社の内側に入られるわけですから、やたらな人を入れたくはないですよ。でも、オリオングループの社員であれば安心だと思っていただいた。ありがたいですよね」

●「ジャングリア」とのシナジーも

 コロナ禍が明け、沖縄のホテル業界はいよいよビジネス競争が激化する。外資系ホテルの進出も盛んだ。そうした競合とどう戦っていくのか。

 まずはホテル オリオン モトブ リゾート&スパに関して、売りにしている一つが「地産地消」だ。柳内氏がオリオンビールに入社した2021年から原則として食材は沖縄産に絞っている。ここまで徹底したホテルはほぼないと柳内氏は自信を見せる。

 「食材は本部から50キロ圏内のものを使います。そこで見つからなければ範囲を広げていきますが、基本的には沖縄に限定します。調達のための独自ルートも私たちは持っています。例えば、ある村の方が『おいしいものがあるよ』と教えてくれて、そこから直接仕入れることができる。さらに、その素材の生かし方を熟知するシェフを雇用し、お客さまに提供しています」

 かつてはより質の高いものをと、全国から食材を取り寄せていた。しかし、それでは沖縄の豊かさを県外あるいは海外からの利用者に伝えることができないと、考えを改めたのだった。

 もう一つの売りはロケーションだ。

 「ホテルの北側には、フクギ並木と昔ながらの民家が残ったフォトジェニックな町があります。さらに、沖縄美ら海水族館や熱帯・亜熱帯都市緑化植物園など、一日では回り切れない観光名所が全て徒歩圏内にあるのですよ。北部エリアを観光する場合、交通の便が大きな課題ですけど、ホテルの宿泊者は空港からシャトルバスを利用して来ることができます」(村野氏)

 この立地のアドバンテージが今後さらに大きくなる可能性がある。それは、25年に大型テーマパーク「ジャングリア」が開業する予定だからだ。名護市と今帰仁村にまたがるオリオン嵐山ゴルフ倶楽部の跡地に建設中のジャングリアは、ホテルから車で30分足らずの距離にある。

 「テーマパークとの太い絆(きずな)が私たちにはあります。何しろあそこの土地を貸しているし、出資もさせていただいている。テーマパークに来られたお客さまの前後泊需要をうまく取り込んでいくための方策を(運営元の)ジャパンエンターテイメントとも話し合っていくつもりです」と村野氏は意気込む。

●ビール好きの地元客でにぎわう

 一方、オリオンホテル 那覇については、ビール目当ての地元客が足を運ぶ流れができつつあるという。

 「ビアダイニングでは、とにかくビールを最高の状態で出しています。ビールは出来立てを飲むのが何よりもおいしい。その点で大手ビールメーカーと比較しても地の利がありますし、グラスや注ぎ方にもこだわっています。加えて、このホテルでしか飲めないクラフトビールを4種類、常時提供しています。オリオンビールのホテルが開いた店であれば行きたいというお客さまがかなりいます。これは差別化のポイントだと思います」

 観光閑散期の11月下旬に開業したにもかかわらず、忘年会や新年会などで地元客が数多く利用したそうだ。実際、筆者が訪れた1月末の平日にも早い時間帯からスーツ姿の団体などがビールと食事を楽しんでいた。

 宿泊に関しては、沖縄の観光客が増える3月末やゴールデンウィーク、夏休みシーズンに照準を合わせ、売り上げ拡大を図りたい考えだ。

●人材確保はどうする?

 一方で、目下の悩みは人材確保。これはホテル業界全体の課題であり、オリオンホテルも苦労が尽きない。そこで外国人の雇用にも力を入れている。ホテル オリオン モトブ リゾート&スパでは現在、技能実習生を含む外国人スタッフが20人ほど働く。これは全従業員数の1割ほどに当たる。

 グループ企業からの出向も受け入れる。グループ全体での人事ローテーションが活発で、条件などが合えばビール工場勤務の社員がホテルで働くこともできるそうだ。それを促進するための人材育成研修プログラムもグループ共通で用意している。

 幸い、オリオンビール自体は沖縄の人にとって就職人気の高い企業であるため、こうした社内の仕組みもうまく活用しながら、人材を確保していきたいと考える。

 10周年を迎えるホテル オリオン モトブ リゾート&スパは、クラブウイング全スイートの改装などを経て、4月11日にリニューアルオープンする。名称も「オリオンホテル モトブ リゾート&スパ」に変更する。

 本部と那覇。新たに生まれ変わった2つのホテルで、沖縄の高まる観光需要を一気に取り込んでいく。

(フリーランス記者 伏見学)