一般社団法人日本動画協会のアニメ産業レポート2023によると、2022年のアニメ産業市場は2兆9277億円と過去最高額となり、21年に続き過去最高額を更新する形となった。

 そのうち、成長のドライバーとなっているのが約50%を占めるまでになった「海外」カテゴリーである。特にNetflixやAmazon Prime Videoといったグローバルな配信事業者からの需要が増している。本連載でも、1980〜90年代アニメのリメークが世界市場で人気を博していることに触れた。

 こうした背景から、日本におけるアニメの放送・配信形態にもある変化が現れている。その一つが「連続2クールの放送・配信」の増加だ。

●かつては年間を通して放送するのが当たり前だった

 この傾向に触れるため、アニメ放送・配信の背景を手短に解説する。まず“クール”とは元は放送業界の用語であり、1年を3カ月ごとに区切り番組再編を行っていることに由来する。

 アニメも主要チャネルは長らくTV放送であったためそれにあわせて制作し、1クール作品であれば12〜13話、2クール作品であれば計24〜26話となる。90年代以前までさかのぼれば、TVアニメの多くはファミリー向けであり、日中に4クール≒1年通して放送することが主であった。

 『名探偵コナン』『ONE PIECE』『サザエさん』などは今でも年間を通して放送されている。90年代後半からは青年以上を対象としたアニメが表現の自主規制回避などを目的に深夜に放送されるケースが増え始めた。

 というのも、漫画では「少年誌から青年誌」と読者の年齢の積み重ねに伴って媒体も変わる一方で、アニメにおいては受け皿が実質ないか、極少数であった。TV放送の深夜枠がその受け皿になり始めたのである。

 ただ、当然視聴率は多くを見込めず、また玩具など大きなビジネスに発展することが難しいため製作委員会、またそれに参加しアニメを放送する放送局にとっても長期間枠を取ることのリスクが大きい。

 よって2クールや1クールなど短期間のアニメが増加した。例えば1期1クールを放送し、視聴者の反応が良くビジネスとして成立するのであれば2期目を放送するといった形のリスクヘッジである。

 背景には、アニメ制作に関わる人員不足や企業体力の低下などにより複数クール制作に耐える体制が作りにくい事情もあった。またストーリーの関係で2クールのサイズとしたいが、アニメ制作体制が整わない場合などの事情で、1期2クール分の放送日を分割して放送する形態、いわゆる「分割2クール」も現れた(2クール×2の分割4クールなどもある)。その一方、分割して放送することで、ストーリー上の中途半端なところで1クール目が終わってしまうことや、中断期間にファンの熱量が下がってしまうなどのリスクを抱えることとなった。

●動画配信サービスの登場で状況に変化

 2000年代にアニメバブルが一服した後、10年代中頃に放送されたアニメの多くは1クールの放送、もしくは1クールずつに分けた分割2クールの放送であった。こうした傾向に変化をもたらしたのが、動画配信サービスの台頭、それに伴うアニメ産業全体の成長である。

 特に北米や欧州の視聴者獲得を視野に入れた場合、それらの地域の視聴習慣や事業者のビジネス慣習に合わせた形態であることが望ましく、それにはある程度多くの話数を確保する必要がある。同時に、品質も高いものが求められるようになった。

 一方で、ロングランタイトルのように4クール分を作ろうとすると体制整備が難しく、また、連載中の原作に追い付いてしまうリスクもある。このような背景から10年代中盤以降、ビジネス上適切なサイズとして連続2クールで完結する作品、またはファンをつかむための1期を連続2クールでスタートし、2期目以降は体制やビジネス環境・原作の展開に合わせて1クールも交えて対応する形態が増え始めている。

 こうしたやり方は『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』『転生したらスライムだった件』などがとっている。

 この期間、アニメ産業においては(1)日本市場で人気のある原作をアニメ化する、(2)アニメが配信されヒットする、(3)アニメの原作が海外で売れる、(4)次期アニメ配信もヒットする――という好循環が生まれ、出版業界にもプラスの影響をもたらしている。

 端的に述べると、ビジネス上満たさなければならない質と量、それに伴うリスク、また視聴するファンの熱量維持のバランスを現状最も整える解が連続2クール放送で開始することと考えられる。

 なお、ファンの熱量獲得についてはいわゆる「1話切り」を防ぐため、特に初回放送・配信の重要度が増している。多くの作品は初回と2回めの放送・配信で1つの話を行うが、これはファンの熱量が上がりきらず、導入部に相当する初回で切られる危険性がある。

 これを回避するため、初回のみ1時間枠とする、あるいは2話分を放送・配信するといった取り組みが見られる。顕著な例としては『薬屋のひとりごと』があり、初回に3話分を連続放送する試みを行った。このような取り組みを行ったことや、そもそもの原作小説の人気もあり、本アニメは現クールを代表する人気作品となっているのだ(後編に続く)。

●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 

 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。

 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。