近年、メーカーのロゴがない家電が増えている。ロゴがあっても、位置やデザインを工夫し、目立たないようにした商品も多い。ブランドのロゴが重要なはずのファッション業界においても「クワイエット・ラグジュアリー(静かなぜいたく)」という言葉がトレンドとなり、目立つロゴや派手なデザインを避ける装いが好まれるようになっている。

 シンプルさが求められる背景には何があるのだろうか。各業界でみられる「ロゴなし商品」を調べた。

●「SHARP」が消え、「HITACHI」もエンボスに

 日本経済新聞の記事『「ロゴレス家電」なぜ増える 社名の主張、部屋で邪魔に』では、メーカーのロゴがない「ロゴレス家電」を特集している。さまざまなメーカーの例を取り上げており、中でもシャープはドライヤーのデザインを刷新し、2023年から「SHARP」のロゴがない商品を生産している。

 日立製作所は、23年に発売したスティック型掃除機で社名ロゴを残したものの、目立つ「印字」ではなく「エンボス加工」にしている。凹凸部に着色はしていないため、「HITACHI」のマークは遠目からだと見えない仕様だ。

●若年層向け家電で社名を排した象印マホービン

 象印マホービンは「STAN.」シリーズの商品でロゴなし化を進める。ホットプレートやオーブンレンジ、コーヒーメーカーなどの調理家電を取りそろえるSTAN.シリーズだが、従来品は象の右に「ZOJIRUSHI」のロゴが付いていた。現在、同シリーズでは企業名を外し、象の絵だけを残している。

 STAN.の家電は黒色をメインに統一しており、無駄のないシックなデザインが特徴だ。以前から調理家電を販売してきた同社だが、STAN.を発売した背景には、課題だった20〜30代を取り込む狙いがあったようだ。全体的にシンプルなデザインとロゴが目立たない作りは、確かに従来の象印商品と異なる印象を与える。

 新興家電でもロゴなし化の動きがみられる。前述の日経記事でも紹介しているように、07年に創業したTHREEUP(大阪市)の商品にも、原則としてロゴがない。家電販売を強化するニトリも目立つ社名ロゴはなく「Nsimple」というシリーズ名が薄くあるだけだ。白物家電に灰色で小さく記載しており、主張したい意図は見られない。

 通常のロゴあり商品でも、最近ではメーカーのロゴを目立ちにくいデザインにするか、中心に配置するのを避けるようなトレンドが見られる。家電でロゴなし化が進みつつあるのは間違いない。

●リンゴが消えたApple製品

 リンゴのロゴが特徴的な米国・アップルも、新商品ではロゴなしが目立つ。主力のiPhoneやiPadは依然として背面にロゴがあるものの、ノートパソコンであるMacBook製品では、近年背面のロゴが光らなくなり、以前よりも目立ちにくいデザインとなっている。

 ディスプレイの薄型化に伴う技術的な理由が主なようだが、デザイン面での目的もあるのかもしれない。その証拠に、デスクトップシリーズのiMacでは正面ディスプレイ下部にあったロゴを廃止している。

 同じくワイヤレスヘッドフォンにもロゴはない。面積の小さいイヤホンタイプがロゴなしなのは理解できるが、耳を覆うヘッドフォン型は、刻印するのに十分な大きさがある。あえてロゴをつけないようにした意図を感じる。

 若者を中心に、近年の消費者は派手なデザインを好まないようになっているため、アップルのロゴなし化はトレンドに対応する狙いがあるのかもしれない。MacBookの光るロゴが復活したとして、どの程度好意的なレビューが受けられるだろうか、確かに疑問ではある。

●アパレル業界では「クワイエット・ラグジュアリー」がトレンドに

 家電のロゴなし化に似た動きとして、アパレル業界ではクワイエット・ラグジュアリー(静かなぜいたく)が23年にトレンドとなった。Googleトレンドで調べると、世界では23年4月から、日本では同7月から注目度が急増している。

 クワイエット・ラグジュアリーとはロゴやブランドを目立たせない高級ファッション、またはそのライフスタイルを指す。これ見よがしな高級感や派手さはないが、生地の質感は優れている、といったイメージだ。「静かな」というものの、着こなし方で高級感を暗示する狙いがトレンドの背後にあるようだ。世界的ハイファッション雑誌『VOGUE』のWebサイトで取り上げている数万〜十数万円のジャケットやパンツ、シャツなども、白や黒、ベージュなど目立たない色を基調としており、もちろん目立つロゴや文字はない。

 クワイエット・ラグジュアリーがトレンドになったきっかけの一つに、米ドラマシリーズ『メディア王 〜華麗なる一族〜』があるといわれている。同作品は、世界的メディア企業の経営者とその家督相続バトルを描いたものであり、大富豪でありながらも大々的にロゴがないファッションを着こなしているのが話題となった。

●ユニクロのシンプルなバッグが世界的にヒット

 クワイエット・ラグジュアリーのトレンドに乗ったのがユニクロの「ラウンドミニショルダーバッグ」である。国内では1500円、海外では20ドルで販売している至って普通のショルダーバッグであり、ユニクロらしく白や黒、緑や赤など一通りの色をそろえている。どれも淡色系だ。

 このショルダーバッグは英国の女性インフルエンサー、ケイトリン・フィリモア氏がTikTokで取り上げたのをきっかけに、英国の他、インドのECストアにおけるランキングで1位を獲得するなど、文字通り世界的に評価が高い。バッグに「ユニクロ」のロゴはなく、柄もない。それでいてスマホや化粧品、財布が入るなど収納性の良さが人気の理由だ。

 1日出かける際に丁度良いサイズのバッグといえる。同バッグのヒットはブランドではなく、あくまで機能性や質感がもたらしたものであり、クワイエット・ラグジュアリーの流れを汲んでいるといわれている。クワイエット・ラグジュアリーでは、外見だけでなく機能性などの“中身”も評価対象となるようだ。

●高級品でも「ロゴなし」が進む可能性

 ロゴなし家電やファッションの背景にある、クワイエット・ラグジュアリーというトレンドには、消費者がシンプルなデザイン性を好み、機能性を重視するようになったことが影響していると考えられる。もちろんロゴ付きのハイブランドを好む層もまだ多いが、無印良品が一定の人気を誇るように「シンプル重視」の下地は近年の消費者の間でできていた。

 そして、ロゴがないデザインがむしろブランドとなっているのではないかと考えられる。主観的な意見だが、筆者もロゴなし商品を好む消費者の一人であり、有名ブランドのロゴがあるよりもない方が高級感を感じる。

 機能性については、冒頭の日経記事でも引用していたように、消費者が最も強く求めるものである。21年の消費者庁による調査結果では、商品・サービスを購入する際に重視するものとして「品質・性能」が1位となっている。何かと耳にすることの多い「費用対効果(コストパフォーマンス)」は3位につけている。

 一方で「見た目・デザイン」は4位、「有名ブランド・メーカー」は9位と、機能性よりも優先度が低い。クワイエット・ラグジュアリーの火付け役はSNSやメディアとはいえ、こうしたシンプルさと機能性を求める消費者の志向は間違いなく下地にあるといえるだろう。車や時計、財布などの高級品は依然ブランド志向が強いものの、将来的にロゴなし化が進むかもしれない。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。