コロナ禍で多くの飲食店が苦戦する中、店舗数や売り上げ、営業利益ともに伸ばしている飲食チェーン店がある。「丸亀製麺」などの飲食ブランドでおなじみのトリドールホールディングス(東京都渋谷区)が展開するハワイアン カフェ・レストラン「コナズ珈琲」だ。

 同チェーンは2013年12月に1号店である「コナズ珈琲 ふじみ野店」(埼玉県ふじみ野市)をオープン。コロナ禍真っ只中の19〜22年には店舗数を33から41店舗に増やし、売上高は1.5倍以上、営業利益は3倍近くまで増加した。

 23年4月にはコナズ珈琲事業を分社化したKONA’Sを設立し、24年3月末時点で全国42店舗を運営している。トリドールホールディングスが発表している23年度第3四半期の決算を見ると、コナズ珈琲事業で前期比+4.2億円以上の増収を記録した。

 慢性的な人手不足や原材料の高騰など多くの課題を抱える飲食業界だが、なぜコナズ珈琲は順調に右肩上がりの成長を続けているのだろうか。同社の戦略や好調の理由を、KONA’S代表取締役社長の阿部和剛氏に聞いた。

●コンセプトは「いちばん近いハワイ」

 1号店のオープンから10年の節目を迎えたコナズ珈琲だが、始まりは2011年、トリドールホールディングスの代表取締役社長兼CEOの粟田貴也氏がハワイを訪れた際のことだった。目的は丸亀製麺のハワイ進出に向けた視察だったが、その際に現地のカフェの雰囲気に感銘を受け、日本でも同様の店を出したいと考えたという。

 コナズ珈琲の店舗に入ってみると、各店舗それぞれ工夫を凝らした内装を施しているが、共通して「まるでハワイのよう」な空間が広がっていることが分かる。同店は「いちばん近いハワイ」をコンセプトに掲げ、駐車場に着いてから店舗に入るまで、徹底して「現地のハワイ感を再現する」ことにこだわっている。

 例えば23年12月にオープンした八千代緑が丘店(千葉県八千代市)では、ヤシの木で装飾したビーチリゾートを思わせるバーカウンターや高い吹き抜け天井の開放的な空間、ハワイアンキルトのアートなど、席ごとに異なる景色を楽しめるようにした。

 内装で重視している点として、阿部氏は「従業員の導線的には動きにくいことがあっても、顧客にとっては良い空間であることを大切にしている」と話す。顧客がゆったりと過ごせるよう、各テーブル間の距離を広く取り、他の顧客との視界を遮ることでプライバシー空間を確保。座席は直線的に配置したほうが従業員が店内を見渡しやすいが、コンセプトに基づき、植栽なども配置しながらあえてランダムに配置している。オペレーション面では、長時間滞在しても居心地が悪くならないよう時間制限を設けないなどの工夫をしている。

●「お皿」の変更で回転率をアップ

 好調が続くコナズ珈琲だが、阿部氏がトリドールホールディングスに入社した約4年前にはある課題があった。「コナズ珈琲は当時から人気で、平日の開店前でも行列ができているほどだった。一方で提供時間に課題があり、顧客を待たせてしまうことや、行列を見た人があきらめて帰ってしまうこともあった」

 同店はカフェ業態の中だが、食事メニューにも力を入れているのが特徴で、人気のパンケーキやロコモコ、ハンバーガーなどの定番メニューは1皿約1500〜2000円。ドリンクを付ければ1人2500円前後になるなど、比較的客単価は高い。しかし顧客の待ち時間が伸びてしまうことで、結果的に利益が大幅には伸びづらいといった状況もあった。

 そこで阿部氏は、一部オペレーションを変更。従業員にも変更点を丁寧に伝えることで改善を重ね、顧客を待たせない仕組みを実現した。

 具体的には、それまで1種類のみだったお皿を複数種類に拡充。一部メニューをサイズダウンすることで、小さなお皿にも料理を盛り付けられるようにした。

 「変更前は、高さ約30センチのホイップクリームを乗せた人気のパンケーキに合わせて大きいお皿1種類を使用していた。しかし従業員の約9割が女性という中で、どうしても大きいお皿だと1回の提供で1つの料理しか運べない。厨房でも調理時にお皿が3〜4枚しか並べられず、できたての料理を提供するには、顧客を待たせてしまう状況が発生していた」

 小さいサイズも含む複数のお皿を用意したことで一度に提供できる料理の数が増え、さらにお皿のカラーバリエーションによって、より「見ても楽しいメニュー」になるなど、副次効果も生まれたという。

 結果として顧客を待たせてしまう時間が減ったことで回転率が向上し、売上利益も増加。予定していた新規店舗のオープンも順調に進み「コロナ禍でも比較的打撃が少なく済んだ」としている。

●「コナズ珈琲」の好調を支える3つのこだわり

 そんなコナズ珈琲だが、同社は好調の理由をどのように分析しているのだろうか。阿部氏はオープン時から大切にしているこわだりのポイントとして、(1)店舗づくり、(2)サービス、(3)商品構成の3点を挙げた。

 「まずは圧倒的なハワイ空間を生み出す店舗づくり。そしてアットホームなサービス。料理については、出てきた瞬間に思わず写真に撮りたくなるような盛り付け。この3つがそろった際にすばらしい店舗になると思いながら、日々努力を重ねている」

 中でも一番の強みは、やはり「圧倒的なハワイ空間」を生み出す店舗づくりだ。ハワイの民家を改装したような外観&内装で思わず訪れたくなるわくわく感を創出し、実際に入店するとハワイアンミュージックが流れる中で、「まるでハワイにいるよう」な体験を提供している。

 サービス面では、時間制限なしで顧客がリラックスした状態で過ごせるような接客を徹底。食事については思わずSNSに投稿したくなるような見た目で、作りたてのおいしさを味わえるようにした。海外に行けなくても、コナズ珈琲で現地の雰囲気を感じられるようにしている。

 このように顧客の「体験」を重視したアプローチを取ることで、結果として高い収益モデルを実現しているのだ。

●人の手によるサービスで感動体験と効率の「二律両立」を目指す

 昨今、飲食業でもDXによる効率化を進めているが、コナズ珈琲でも効率化できる部分は取り入れつつ、これまで紹介したように従業員が料理を運びやすい導線よりも顧客の過ごしやすさを優先した座席配置にするなど、顧客の「体験」を重視した戦略を取っている。

 阿部氏は「今後も従業員が顧客との接点を持ち、人と人とのコミュニケーションを重視する店舗展開を考えている。コンセプトに掲げている『いちばん近いハワイ』を体験してもらうには空間や商品だけでは足りず、人の手によるサービスで生み出される感動体験と効率の『二律両立』が大切だと考えており、今後もその方針を進めていく」と話す。

 24年度については、既に数店舗の新規オープンが決まっているという。「テークアウトに特化した店舗や、人気メニューを集めた小型店舗などを検討している」

 コナズ珈琲はトリドールホールディングスが展開する他のブランドと比較すると出店スピードを抑えているが、それは「立地の条件などを詳細に見定めているため」でもある。平日昼間は顧客の約9割が女性客ということもあり、駐車場の間口を広めに確保したり、運転がしやすいようにあえて交通量の多い道路から少しずらしたり、出店場所を慎重に検討しているという。

 どこまで店舗数を伸ばすのか、どこまで売り上げを伸ばしていくのか。要注目の店である。