4月14日は「(良い)椅子の日」である。オフィス家具メーカーとして知られるイトーキ(東京都千代田区)はこの日にちなんで、椅子のデザインの変遷と、未来の椅子の在り方について展望した。同社によると、職場で何気なく座っているオフィスチェアには、ビジネスシーンの変化に伴って、何度も変革が起きたという。

 そもそも椅子という家具はいつから存在していたのだろうか。その歴史は古く、今から4600年前(紀元前2600年ごろ)には既にひじ掛け・背座・脚を備えた椅子が存在した。現代に通じる「仕事用の椅子」が量産されるようになるのは19世紀、第一次・二次産業革命が起きてからだ。1940年代には米国で人間工学が提唱された。

●その時代の働き方を映すオフィスチェアのデザイン

 現代の職場に通じるオフィスチェアが現れるのは、高度経済成長期に入った頃から。この頃にスチールデスクと、デスクと椅子をいくつかのグループに分けて並べる「島型レイアウト」が普及した。

 80年代に入り、オフィスオートメーション(OA)機器やPCが職場に導入されると、オフィスチェアも「デスクワーカー」を意識したつくりになる。座った時の姿勢は「机上面」を見ていた姿勢から「正面」のデスクトップモニターを見る姿勢に変わった。そこでイトーキは、背座が無段階で動くデスクワーカー向けチェアや、PC作業を快適に行うためにひじ掛けを備えたオフィスチェアを展開するようになった。90年代に入ると環境問題を意識するようになり、クッション素材に含まれるウレタンの使用量を減らす動きもあった。

●女性の社会進出、ツールの多様化――未来のオフィスチェアのデザインはどうなる?

 2000年代からは、女性の社会進出が本格化していく。職場の女性比率も急激に上昇していった。オフィスチェアもこうした環境変化に合わせ、性差に対応したつくりを意識するようになった。イトーキでは女性の開発者を集め、女性ユーザーのデータを取るようになる。女性ならではの「足がむくみやすい」といった問題に配慮した設計や、レバー操作時にネイルが干渉しないようにしたオフィスチェアを展開していった。

 10〜20年代に入ると、企業に対して「健康経営」「SDGs」「働き方改革」が求められるようになる。職場環境に起きた大きな変化の一つとして、イトーキが注目したテーマは「コミュニケーション×執務」だ。会社員が机上で向かうのは、デスクトップPCからノートPCに変わり、タブレットを片手に隣の席の人と話すシーンが生まれた。座席のフリーアドレス化もこの頃から流行しはじめていた。こうした潮流を受け、イトーキは執務姿勢をサポートするだけではなく、コミュニケーションのしやすさも意識したを椅子を設計するようになっていった。

 こうして現在に至るわけだが、今後の椅子はどのような姿に変わっていくのか。イトーキで商品開発を担当する髙橋健介氏(スマートオフィス商品開発本部)はこう話す。

 「VRゴーグルを着用した仕事が日常的になるかもしれない。もしキーボードが無くなり、声だけで仕事するようになったら椅子はどう変わっていくのか――という話は社内でも話題に上がっている。

 ただ、今後はツールに縛られない働き方になると思う。特定の机と椅子に縛られないシーンはもっと増えていくのではないか。

 働き方も働く場所も多様化しており、長時間座り続けて作業する仕事もあれば、そうでない仕事もある。エルゴノミクス(人間工学)の設計とともに、その空間にあう意匠性も求められる。さまざまなタイプの椅子をつくっていく必要があると感じている」