東京湾アクアラインは、千葉県木更津市と神奈川県川崎市を東京湾上の橋と海底トンネルで結ぶ自動車専用道路である。1997年の開通当初は通行料金の高さで利用者数が伸び悩んだが、国と千葉県が補助することで通行料金を大幅に引き下げ、木更津にアウトレットモールが開業したこともあって、一気に利用者数が伸びた。

 海上のパーキングエリア(PA)である「海ほたる」も人気スポットとなり、週末は渋滞の名所としても有名になってしまった。しかも構造上、ひどい渋滞となっても迂回(うかい)したり、途中で一般道へ降りたりできないため、ひたすらジリジリと進むのを耐えることになる。

 東京湾アクアラインは全長15キロほどの東京湾横断道路であるが、全てを海底トンネルとしてしまうと工期が長くなるだけでなく、建設費も跳ね上がってしまう。そのため全体の6割を海底トンネル、残り4割を橋とすることで建設費を抑え、大型客船の通行も可能とする横断道路となったのだ。

 計画当初は川崎側も橋を作り、中央部分を海底トンネルとする構造が検討されていた。しかし、川崎側は羽田空港に離着陸する航空機のために高さ制限があり、また軟弱地盤のため、橋を諦め現在の構成となったとされている。

●アクアライン建設の直接的なメリットと間接的なメリット

 東京湾アクアラインは、建設が始まる前、実に20年間も研究や検討がされた。つまり、1964年に東京オリンピックが開催され、その数年後には東京湾横断道路という構想が始まっていたことになる。

 そして80年代後半には着工されたのだが、当時は首都高速湾岸線の東京ー千葉区間ですら全線開通していなかった(89年に東関東自動車道と接続)のに、早くもさらに長い海底トンネルを組み合わせた東京湾横断道路の建設が始まっていたことになる。

 当時はインターネットもなく、情報が乏しい時代だったので、東京湾横断道路の計画や建設については新聞などで報じられた程度で、一般にはほとんど知られていなかった。

 首都高湾岸線の東京港トンネルについては、80年に開通した海底トンネルとして話題になり、当初は走行するのも便利さより珍しさが勝っていた時代である。その頃には着々と東京湾横断道路の開通に向けた工事が進められていたのだ。

 現在、トンネルをシールドマシンで掘削していくシールド工法はトンネル掘削工事では一般的とされているが、アクアラインの計画時には最新の工法であり、実現に不可欠な技術として導入された。当初から困難が予想された挑戦的な計画だった。

 前述の海ほたるPAについても、直接海底トンネルと橋を連続的に結ぶのは構造的にも難しく、中間施設としての役割も兼ねて建設されたものだった。

 こうした技術的に高度な建築物は、日本の道路建設技術の高さを証明するものであり、鉄道やビル、ダムなどと併せて日本の建設技術の見本としても機能しているのである。

 フェリーに代わって短時間で自由に行き来できることや、木更津周辺から高速バスで都心への通勤を可能にしたことが直接的なメリットであれば、建築技術の高さを証明するというのは間接的なメリットと言えるだろう。

●渋滞の名所となった理由、解消策はあるか

 実はアクアラインには、鉄道やモノレールも載せる計画が当初はあったらしい。しかしその場合はシールド工法ではなく、コンクリート製の躯体(くたい)を作り、それを連結させて海中に設置する沈埋構造にする必要があった。

 建設費や工期、工事の困難さを考えると、鉄道やモノレールの需要はそこまで見込めず、バスで十分代替できるという判断に至ったようだ。その判断はおそらく正しかったのだと思う。

 結果として、木更津からアクアラインを使って高速バスで都内へ行く通勤が人気となっている。満員電車による通勤から解放されたと喜ぶ会社員の声も多く聞くが、千葉から都心への通勤電車の混雑緩和にも役立っている可能性がある。

 しかし渋滞している週末は、交通としての機能を著しく低下させてしまう。そのため、2023年7月には渋滞解消策の実証実験としてロードプライシングも導入され、週末と平日では通行料金に差が付けられるようになった。それでも、週末のみ1.5倍の1200円に引き上げられた程度である。

 これは「アクアラインは安い」と思って利用するドライバーが多いことから、渋滞が発生する週末に料金を引き上げることで走行台数を減らす効果を狙ったものだ。

 しかし実際にはアクアラインを通って千葉県に向かうドライバーは、アクアラインを走ることが目的ではなく、その先にある観光スポットやアウトレットモールなどで楽しむことを目的に利用するのだから、少々の価格変動ではアクアラインの利用を諦めることはないだろう。

 少なくとも木更津から東関東自動車道や京葉道路を使って東京に戻る料金(市川ICまで普通車で1600円)以上に値上げしなければ、渋滞は解消しないはずだ。それは東京ディズニーリゾートが値上げを繰り返しても来場者が殺到しているのと同じ原理だ。他に行くより満足度が高く、お得なのである。

 木更津周辺の観光スポットやレジャー施設だけでなく、アクアライン自体にも魅力がある。渋滞していなければ海上を走るのはわずかな時間だが、その眺めは壮観だ。また、海ほたるは360度が海に囲まれた人工島のPAであり、デッキや飲食店、土産物や雑貨などの販売店を備えた施設である。

 その雰囲気はさながら客船のようでもあるから、さらなる充実化によって需要を盛り上げることもできそうだ。ただ現時点で、週末は渋滞と駐車スペース不足が起こっているから、抜本的な改善をしなければますます混雑することになる。

●6車線化だけでは渋滞は解消しない?

 23年6月、千葉県はアクアライン6車線化へ向けて国への要望書をまとめた。これは、車線を増やすことで渋滞解消を狙ったものだ。

 アクアラインはそもそも片側3車線の6車線化を見据えて設計されたとも言われている。実際に走ってみると1車線の道路幅がゆったりしていて路肩を広くとっているから、そのまま3車線化できそうに思えるが、これは緊急時に消防車や救急車が通ることを考えたものだ。

 つまり既存のトンネルでは6車線化は難しい。しかし既存の2本のトンネルだけでなく、海ほたるにはもう1本トンネルが通せるよう余裕がもたされており、海ほたるから川崎側へ300メートルほど掘り進められているらしい。

 千葉県が国に提出した要望書には6車線化の検討を進めるよう書かれており、これから計画したとしても実現は10年先のことになる。

 ただし6車線化しても、海ほたるへの出入り口が増やせないなら、渋滞の解消にはならない。そういう意味では前述の海ほたるPA充実案には、PAへのアプローチの2車線化など、PAとしての容量拡大も併せて考える必要があるだろう。筆者はむしろこちらの方が重要だと思う。

 現在の海ほたるPAを俯瞰(ふかん)すると、トンネルの入り口側である千葉側に道路や施設があり、人工島の川崎側スペースには若干の余裕が見える。この部分を活用し、さらには必要であれば追加の埋め立てをして人工島を拡大し、現在の施設を囲むように立体駐車場と店舗スペースを拡大できないだろうか。

 個人的にはモノレールも橋梁部分にオーバーハングさせて吊(つ)り下げたら、眺めは壮観であろうと思う。海底トンネルをさらに1本増やすことになるのだろうが、海ほたるPAでジャンクションのスロープを縫うようにモノレールが走れば、それは何とも複雑で、日本の高度技術をアピールする絶好の建築物になると思う。これからますます人口減少へ向かうことを考えたら、鉄道・モノレール導入は非現実的だろう。だが、夢見る層は一定数存在するであろう。

 さらにアクアラインより南、三浦半島と富津岬付近を結ぶ東京湾口道路も建設が検討されている。こちらはまだ具体的な建設計画はないものの、千葉県の各市長と県知事が国に早期実現への要望を提出している。

●ドライバーへの渋滞対策の周知も重要

 渋滞のポイントを見ると、海ほたるPAだけでなく、やはり勾配のある地点で渋滞が発生している。勾配部分で渋滞が起きるのは、単純に車間距離が不足しているドライバーが多いからだ。

 特にほぼ直線路が続くアクアラインでは、前走車を見て追従していくドライバーは車間距離を詰めてしまいやすい。

 合流区間でも車間距離を取れば渋滞が起きにくく、合流部分の先端でファスナー合流すればスムーズな合流ができる。しかしスムーズな合流ができるか不安に感じ、その前に合流してしまおうというドライバーが合流地点の根本付近で合流しようとすることで、さらなる渋滞を生んでいる。これに気付いていないドライバーが多いことを何とかした方がいい。

 ACC(前走車追従機能付きクルーズコントロール)の普及により、車間距離を維持できる環境も広がりつつあるが、依然として車間距離が短めなドライバーを目にすることが非常に多い。それが渋滞や追突事故を起こす大きな原因であることを、もっと行政はアピールするべきだろう。

 コロナ禍で高速バスの利用客がガタ落ちしたようだが、最近は戻っているようだ。通勤が快適であるアクアラインバス通勤の需要は根強い。

 バスターミナル構想「木更津アクアステーション計画」というものも存在している。これはアクアラインの料金所がある木更津金田付近にバスステーションを設け、さまざまな行き先のバスに乗り継げるようなハブ機能をもたせるという計画だ。バス利用の利便性を高めるものだが、実現には周辺の渋滞改善も必要だろう。

 日本の少子高齢化や人口減少に対してどう対策していくか、という課題は付いて回ることになるが、木更津周辺はその辺りに対しても積極的に見える。

 東京湾アクアラインには、現在の日本の道路交通の縮図ともいえる要素が凝縮している。神奈川県の湾岸地区はこのところ道路網の整備が進み、渋滞解消へ着実に進歩しているようだ。千葉県の道路整備が進むことで、いっそう快適で安全な道路交通を実現し、経済損失を抑えることが、物流の効率化や消費を促し、経済を活性化することにつながるだろう。

(高根英幸)