MIXIが提供する家族向けの写真&動画共有アプリ「家族アルバム みてね」(以下、みてね)が、子育て世代を中心に人気を集めている。2015年にリリースし、2017年には英語版(アプリ名は「FamilyAlbum」)の提供を開始。2024年現在は7言語、世界175カ国で展開している。

 利用者数は、2023年11月時点で2000万人を突破。内訳は国内が6〜7割、海外が3〜4割だが、近年の新規登録者数は、国内よりも海外のほうが多いという。

 国内だけでも年間出生数における利用率が55%と、約2人に1人の保護者が利用するほどの人気アプリだが、なぜ国内だけでなく、海外でも多くのユーザーに支持されているのだろうか。同社取締役ファウンダー上級執行役員で「みてね」プロデューサーの笠原健治氏に、他の写真共有サービスとの違いや国内外で好調の理由、海外も含めた今後の展開を聞いた。

●開発のきっかけは「子どもが生まれたこと」

 笠原氏といえば、SNS「mixi」や“ペットのように癒やし、家族のように理解してくれる”存在を目指して開発している会話AIロボット「Romi」などで知られるヒットメーカーだ。2013年に同社社長を退いたあとも、新規事業に挑み続けている。

 現在プロデューサーを務める「みてね」については、自身の子どもが生まれた経験から「こんなアプリがほしい」というアイデアを具体化したもの。「子どもが生まれてから、こんなに多くの写真や動画を撮るのだと驚いた。ただ、それを家族と共有し、子どものために整理保存した状態で残しておきたいと思ったときにベストなものが見つからなかった」

 社内でも「ないなら自分たちでつくろう」という話が上がり、ユーザー調査でも一定のニーズがあることが確認できたことからプロジェクトを開始。子どもの写真や動画を共有するコミュニケーションに特化したアプリとして、2015年4月にリリースした。

●「みてね」が他サービスと決定的に違うところ

 「みてね」は、容量無制限かつ無料で写真や3分以内の動画を共有できるアプリだ。祖父母や親せきなど、招待した家族だけにリアルタイムで共有が可能。共有された写真にコメントやスタンプを付けたり、誰が見たのかを確認できたり、コミュニケーション機能も付いている。共有されている写真や動画が、圧倒的に子どもの内容が多い点が他の共有サービスと決定的に違うところだという。

 「招待をした人だけがつながっているので、アップロードする側も自分の子どもや見てくれている家族のためと思い共有している。基本的には子どもへの関心が高い人同士がつながっているので、『視聴率100%のファンのような人たちとのつながり』といった見方もあるし、中には『推しアイドルのマネージャーをやっている気分』で喜びながら共有を続けているパパママもいる」

 操作性についてはシンプルで使いやすく、高齢者でも簡単に利用できる点も特徴だ。笠原氏は「共有する側も見る側もストレスが掛からないので、気軽に利用できて良いという側面もあると感じている」と話す。

 マネタイズについては、現時点で大きく3つの手法を取っている。1つめは、デジタル関連の課金サービスだ。最長10分の動画がアップロードできるほか、自動作成された「1秒動画」(アップロードした動画や写真をちょっとずつつなぎ合わせたもの)が毎月または1年ごとに届くなどの複数機能が使える「みてねプレミアム」(月額480円)。高画質動画やテレビへのキャストにも対応する「プレミアムPro」(同880円)。アップロードした写真から毎月8枚のステッカーを自動で作成&配信する「ステッカープラン」(同220円)を提供している。

 2つめは、写真プリント商材だ。毎月8枚無料(送料別)で用紙のサイズや素材を選べるプリントサービス(追加1枚25円)や、みてねで共有されている写真を利用してフォトブックが作成できるサービス(539円〜)、年賀状の作成サービス(プリント代1枚145円〜)、指定した期間内にアップロードした写真や動画全てをDVDにして届けるDVD作成サービス(1枚3828円、2枚以降は1188円)など、アナログの形でも思い出として残せる複数のサービスを展開している。

 3つめは、子育て中に生じるさまざまな課題をITで解決するサービスだ。小学1年生以上の子どもによく使われているGPSサービス「みてねみまもりGPSトーク」(音声メッセージの送信機能を搭載、本体価格5680円+月額748円)のほか、24時間365日年中無休でオンライン診療を受診できる「みてねコールドクター」(大人の場合、平日・土曜日午前6〜午後10時が1240円〜)といった派生サービスも提供している。

●MIXIが分析する「みてね」ヒットの理由

 リリース当初、ユーザー数の伸びは同社の想定よりもゆるやかだったが、アクティブユーザー数は順調に伸長。9年経った今もアクティブ率は下がることなく、若干微増するくらいの状況で推移しているという。

 「子ども写真に特化していることもあり、既に4〜5歳の子どもがいる人が他サービスから乗り換えるというよりは、子どもが誕生したタイミングで利用を開始してもらうケースが多いと想定している。一度使われ始めると、継続して利用されている点も特徴といえる」

 「みてね」がヒットした理由について、笠原氏は「安心感」「操作性」「スマホの浸透」「スマホのカメラ性能の進化」「子どもを介した絆の深まり」などを挙げた。

 無料かつ無制限で写真や動画を共有できるため、子どもの写真や動画をたくさん撮っても容量を気にせずに使いたいだけ使える。それが安心感につながっている。

 スマホに慣れていない高齢の祖父母でも、アプリを開けば孫の最新写真や動画が確認できる。携帯電話(ガラケー)からスマホへの乗り換えが進んだタイミングもあり「うまくその波に乗れた」と話す。「みてね」を使うためにスマホやタブレットを購入した人もいるという。

 さらに、スマホのカメラ性能は急速に向上している。一昔前であればデジタルカメラやハンディカメラを購入して子どもの写真や動画を撮影していたが、今では高性能カメラを搭載したスマホでさっと撮影ができる。「写真や動画を撮る機会やボリュームが圧倒的に増えていく中で、『みてね』がうまく連動し、より多くの写真や動画を残したいニーズにもつながっていると考えている」

 子どもとしても、成長した際に自身の写真や動画を見返す機会にもなり、家族がどんな風にコメントをしてくれていたのか、愛情を再確認する場にもなりそうだ。

●海外ユーザーは日本よりもコメント率が高い傾向に

 日本と海外ユーザーで利用傾向に違いがあるかを聞いたところ「基本的には同じようなニーズがあり、大きな違いはない」とし、「写真や動画をアップロードしておけば誰でも好きなタイミングで見てくれ、時系列に保存される。自分の写真整理という観点でも良いと評価を得ている。写真プリントなども現物が届くのでうれしいといった声が届いている」とのことだ。

 ではなぜ、海外のほうが新規登録者数が伸びているのだろうか。もちろん出生率の関係もあるだろうが、招待するユーザーの幅やコミュニケーションの観点で少し違いが見られるという。

 「例えば欧米の人は、より多くの人を誘う傾向がある。日本の場合は祖父母や兄弟が主な対象範囲だが、もうひと回り大きい範囲で、気軽に招待をしていく文化があると感じている」

 「コメント機能も海外では非常に活発に使われていて、日本よりもコメント率が高い。気軽に大勢と写真や動画をシェアし、コミュニケーションを楽しむ文化が日本よりも強いのではないだろうか」

●英語圏を中心にさらなるサービス展開を予定

 今後はアプリ自体の操作性向上のほか、「みてねみまもりGPS」のような子育て中の課題を解決する派生サービスの展開を進めていくという。

 海外市場については、言語圏によって使われる派生サービスに若干の違いがあるため、現地のニーズを把握しながら、各言語圏に合ったサービス展開を予定している。既に北米では、親の誕生日に「みてね」からお祝いのメッセージやギフトカードを送付できるサービスや、デジタルフォトフレームと連携して「みてね」にアップロードした写真を写せる機能を提供している。同機能はコミュニケーションが活発な海外ユーザーにはフィットしており、親子間でよく使われているという。

 デジタルフォトフレームについても部屋ごとに異なるものを飾るなど、海外ならではの使われ方をしている。「今後もそうしたニーズを把握しながら、英語圏を中心に積極的なチャレンジを進めていく」という。

(熊谷ショウコ)