イオンの「トップバリュ」は、安価なプライベートブランド(PB)として消費者に認識されている。ロシアによるウクライナ侵攻後に物価高が加速した際も、しばらくの間は値段を据え置き、消費者の支持を得てきた。

 品質面では大きな特徴がなくシンプルな商品が多いともいえるトップバリュだが、近年はZ世代受けを狙う尖った商品を出し始めている。例えば、カクテルのように楽しめるノンアルコール飲料や、炭水化物を掛け合わせた“ガッツリ系”の冷凍食品などが好例だ。

 従来のシンプルな路線に加え、こうした商品を出し始めた背景に何があるのだろうか。“尖り系商品”の特徴とともに探っていく。

●ルーツはカップ麺 50周年を迎えるPB

 簡単にトップバリュの歴史について振り返ろう。まず、イオンのPBブランドはかつてのジャスコ時代に始まった。1974年、オイルショックに伴う原材料費の高騰で各メーカーがカップ麺を値上げした際、安さを維持すべく独自ブランドのカップ麺として発売した「ジェーカップ」が最初のPB商品である。

 食品のみならず家具などでもPB商品を発売したのち、1994年に「トップバリュー」が誕生した。その後、2000年に「トップバリュ」へと名称を変更し、2014年からは「トップバリュ」「トップバリュ ベストプライス」など、トップバリュ系列で4ブランドを展開している。

 今やイオンの代名詞といえるトップバリュ系ブランドは、食品だけでなく衣類や日用品でも幅広く商品を展開。その多くで低価格を訴求しており、ナショナルブランド(NB)商品よりも質素な印象が強い。

●若者ターゲットの「ノンアルカクテル」が話題に

 一方で近年、トップバリュブランドから若者受けを狙うような尖った商品が続々と登場している。中には、通常の食品メーカーがなかなか手を出したこともないような商品も見受けられる。

 特に話題となったのが、2023年9月に発売した「トップバリュ クラフテル」シリーズの飲料だ。クラフテルとは「クラフトマン(監修者)」と「カクテル」を組み合わせた造語であり、材料や製法についてクラフトマンが作り上げていくこと、またカクテルのように楽しみ方が無限であることに由来しているという。

 第1弾として発売した「クラフトコーラ By19 Nineteen」と「クラフトジンジャーエール By19 Nineteen」は、PBらしからぬデザインが特徴で、味や風味にこだわった商品として打ち出した。内容量は270ミリリットルで378円と、通常のNB商品としても決して安くはない。

 商品名からしてアルコールに感じるが、両商品はノンアルコール飲料だ。登場した背景には、アルコール離れが進むとされる若い世代で、あえて酒を飲まないライフスタイル「ソバーキュリアス」が普及していることがある。その後、同年11月には第2弾として「身勝手 レモンコーラ」や「思わせぶり ビターレモンスカッシュ」など7商品を発売。第2弾の7商品は、赤・黄・青など商品ごとに色が分かれており、外観も特徴的だ。第1弾と同じく300円ほどと、こちらも安くはない。

 第1弾の2商品は生産終了となったものの、2024年3月から新たに「トップバリュ クラフテル BAR-ish」シリーズも追加しているように、クラフテルシリーズは売れているようだ。BAR-ishシリーズは雰囲気や香り、温度感などのイメージをフレーバーに落とし込んだ“シチュエーションドリンク”をうたっており、ローアルコールやノンアルコールに特化したバーが商品の監修をした。

●時代に逆行? ハイカロリー&高価格な冷食も展開

 冷凍食品でも同様に、若年層を狙ったかのような商品を出している。2024年1月の第1弾、2月の第2弾で計6商品を発売した「トップバリュベストプライス ガッツリ飯×ガッツリ飯」である。

 いずれも重量が400グラム超、価格は500円超えと、従来のワンプレート系冷凍食品と比較して重めかつ高価格だ。この他にトップバリュではご飯と総菜がセットとなった「ごはんセット」を原稿執筆時点で6商品展開しているが、いずれも300グラム前後、価格も300円ほどである。

 「ガッツリ飯×ガッツリ飯」シリーズは、複数の炭水化物を一度に味わえるのが大きな特徴で「な、なんと大きな”ナポリタン&ミラノ風ドリア、ハンバーグのせ」はナポリタンとミラノ風ドリア、ハンバーグがセットになっている。「“ババンとまんぷく”バターチキンカレー&牛丼」も、バターチキンカレーと牛丼がセットになったハイカロリーな商品だ。どの商品も「もっとガッツリ食べたい」といったニーズに対応して開発したという。

 重量感もさることながら、クラフテルと同じくパッケージデザインも特徴的だ。シンプルさや分かりやすさを重視してきた従来のPB商品と違い、奇抜な色や文字フォントを用いている。少子高齢化で健康面を気遣うような食品が増えている中、ガッツリ飯×ガッツリ飯シリーズは、その中身やデザインからして時代にあえて逆行している印象がある。

●高級菓子やコスメブランドなど、多方向に展開

 この他、3月には「トキメクおやつ部シリーズ」を発売した。10〜30代前半が対象の調査を行い、ミレニアルやZ世代の若年層を対象にしていることが分かる。

 同シリーズは37種類と豊富なラインアップをそろえ、価格帯は200〜300円ほど。中でも「がんばる戦士グミ」(171円)は、カフェインを配合したエナジードリンク味のグミで、リフレッシュ機能を打ち出した商品である。1粒で36ミリグラムというカフェイン量は、2〜3粒でコーヒーカップ1杯分に相当する。

 「魅惑の SpiceChocolate トリュフ&ピスタチオ」(279円)は、トリュフやロレーヌ産岩塩を配合したチョコをピスタチオにコーティングした商品。ピスタチオにチョコをコーティングするだけでも珍しいが、40グラムで300円弱の価格設定は、菓子として高価格帯といえる。他にも、チョコレートに漬けたポテトフライのほか、さばチップス、ごま油にんにくのスナックなど、NBでも出ていないような凝った商品が目立つ。

 トップバリュブランドではないが、イオンは4月にZ世代を狙ったコスメブランド「Sokko beauty」も発売している。カラフルなパッケージが特徴で「Sokko=速攻」、つまり時短やコスパを意識したブランドである。商品はフェースマスクやローションなどをそろえる。このように、近年イオンはカラフルなデザインかつ、これまでになかったようなPB商品で若者受けを狙っていることが分かる。

●人気は若者だけにとどまらない?

 2月に実施した新商品説明会で、イオントップバリュの土谷社長は、2023年に発売したミレニアル・Z世代向け商品が好調だったと語っている。クラフテルの他、上期に発売した時短用のレディミール「もぐもぐ味わうスープ」も好調だったという。

 トップバリュブランド50周年にあたる2024年度は、ミレニアル・世代にフォーカスしたいとしており、上記のように年明けから新商品投入が相次いでいるのも、若者を狙った商品の好調が背景にあると考えられる。従来のトップバリュらしいシンプルな商品をメインとしつつ、若年層狙いの商品は今後も増えていくのだろう。

 とはいえ実のところ、これまでの商品は若者以外にも売れているかもしれない。上記で紹介した商品について、イオンは若者受けが良かったなどと明かしているが、年齢別の実数値は公表していない。

 そもそもトップバリュ全体の主要顧客層は50〜60代だ。話がやや横道にそれるが、若者受けを狙って店舗のイメチェンを進めたメガネのパリミキは、若年層も来店するようになったばかりか、既存の客層も離れずむしろ高評価を受けたという。同様に、若者を意識したトップバリュの商品デザインが幅広い客層から評価されている可能性もある。

 そして、機能面においては年齢層を問わずアルコール離れが進んでおり、クラフテルは一定の需要が想定される。核家族化や共働きの定着で手間のかからないワンプレート系冷凍食品の需要が高まる中、ガッツリ飯×ガッツリ飯シリーズの需要が底堅くあることも容易に考えられるだろう。若者受けはうたい文句に過ぎず、むしろ他の年齢層がメインの購買客である可能性も否定できない。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。