ファミリーマートが、生成AIの活用によって関連業務を50%削減できそうだと発表しました。同社は2023年12月から3カ月間にわたり、生成AIによる業務効率化の広範な実証実験を推進。その結果、作業時間を約50%削減できる見込みの業務を特定し、今期に集中的に効率向上に取り組むといいます。

 具体的には、全社横断の「生成AIプロジェクト」を立ち上げ、50人のプロジェクトメンバーが「セキュリティ・レギュレーション作成」「Q&A作成・自動回答」「文書作成・要約」「定型シート作成」「法令・リスクの洗い出し」「翻訳」の6領域に注力し、業務改善を試みると宣言しています。

 ファミリーマートのように、迅速に実証実験を行い、成果の手応えを得て次のステップへ強く推進していける企業はまだ多くはないでしょう。「生成AIが世界的に注目されているテーマだとは知りつつも、自社にどうやって落とし込めば良いのか分からない」「そもそも本当に成果が上がるのか気になる」という企業の方が多そうです。

●生成AIを活用できている企業はわずか9%

 実際、帝国データバンクの調査結果によると、生成AIを活用しているのは現段階ではまだ9%にとどまり、今後の活用を検討しているのが52%と大きな比重を占めています。中でも、活用を検討しているがイメージが湧かず足踏みをしているという企業が37.8%。どのような業務で導入すべきか、具体的なケーススタディが求められていることがみてとれます。

 そのような企業の懸念を察してか、マイクロソフト・小売部門のバイスプレジデントは、あるインタビューで生成AIについて次のような4つの変革を提唱しています。

(1)Eコマースマーケティング

・パーソナライズされたマーケティングコンテンツ

・商品説明の自動化

・Cコマース

(2)店舗運営と顧客サービス

・データドリヴンな業務オペレーション

・自然言語によるコンテンツアクセス

・会話型サービス

(3)サプライチェーン

・リスクの特定

・消費者の需要シグナル把握

・プロセスと判断の自動化

(4)業務効率

・コンテンツ作成や議事録

・データに関するQA

・インテリジェントなオンボーディング

 4月25日に発表された2024年1〜3月の売り上げは、前年同期比17%増の618億5800万ドルを達成し、その成長の牽引要素となったのが生成AIであったとしています。

●4つの変革をどう実行するか

 (1)と(4)は、社内で内製化作業をしたものの社員の業務負荷が高まってしまったり、ノウハウが不足して品質に課題を抱えたりするケースがあります。単に業務を早くこなすだけでは不十分で、品質と両立することが重要です。とはいえ品質のために外注すると、金銭的なコストや、修正をするたびにメールや打ち合わせの工数が増えるという状況が発生します。業務の効率化と高度化、生成AIはこの2つの課題に貢献するポテンシャルを秘めています。

 例えば、世界一の小売企業であるウォルマートはいち早く生成AIを取り入れています。ChatGPTをチャット型ECに活用し、アレルギーを加味したコメントやダイエットなど、その人の課題に応じてパーソナライズ化したレコメンドを展開しています。

 先ほど(3)としてあがったサプライチェーンにおけるリスクの特定、需要予測は実現できると大きな成果を及ぼします。しかし、そのためには定義の設計という課題にあたります。

 特に「どのような状態をリスクありと定義するのか」「どのような数値と数値が合わさると、異常が起きるのかというルール化」といったことが、大変重要な議題です。

 需要予測についても同様です。対象となるデータは何なのか。天候・気温・人口・人流・過去の売り上げ・店前通行量・競合など、数ある中でどのデータを対象とするかをまず選定することが必要となります。

 そして、その後に複数のデータに応じて、強化する商品や縮小する商品を定義。「各在庫をn%増やした方が良い」という結論をどう導くか、といった方程式を決める必要が生じるのです。その際には、生成AIだけでなく機械学習機能を付加することも必要ですし、データ統合を的確に行うプロジェクトマネジメント力も求められます。

●生成AIによるコンテンツ作成時の注意点

 広告のコンテンツ生成においては、ただ画像を作れば良いのではなく、集客や売り上げに貢献することを考える必要があるでしょう。どのような広告が過去に反響が大きかったのか、事例やデータと掛け合わせてコンテンツ生成を検討しなくては、結局人が考えた方が良いということにもなりかねません。

 コンテンツ生成という作業面では、生成AIは貢献しやすいかもしれません。しかし、既存業務が削減できても効果が落ちてしまっては本末転倒です。また、コンテンツは人の勘や経験が成否を分けることもあるため、一概に生成AIのアウトプットを信用し過ぎず、人の感性との融合を図ることも大切でしょう。

●社外パートナーとの連携も重要

 生成AIソリューションを提供するIT企業側の視点では、どの業種でも汎用的に使える人事や労務、議事録などのソリューションが売りやすいのかもしれません。しかし、導入する企業側の視点に立つと、例えば医療業界と小売業界ではもちろん業務特性が異なり、各業界の利用シーンに即したソリューションになっている必要があります。そうでないと、冒頭のアンケートにある通り、検討はしているがイメージが湧かないという事態に陥ってしまいます。

 具体的には、次の図にあるように、業種横断的な汎用的機能と、自社の業務特性ならではの解決策の両立がなくてはなりません。マイクロソフトが提唱しているように、今後は業種別の課題に応じたソリューション提供がIT企業やコンサル会社に求められていくことでしょう。

 その中で、今後生成AIは業務効率を前提とした普及をしつつ、次の要素を蓄積しながら発展していくことが予想されます。

(1)データの蓄積・統合

(2)生成機能の精度向上

(3)業種別メソッドの体系化

(4)機械学習との連携

(5)自動車やロボットなどハードウェア進化との融合

 これらのテーマに人が関わりながら具体化していくことで、テクノロジーの価値の最大化につながります。その意味で、冒頭で紹介したファミリーマートのように、まずは自社業務に合わせて実証実験を行い、一定の成果を検証する。そしてその手応えを得て次なるアクセルを踏むという手順は多くの企業の見本となる事例でしょう。

 生成AIソリューションを提供する企業は、今や国内にも数多く存在しており、ノウハウが既に蓄積されています。そうした専門プレーヤーと協議しながら、まずは実証実験に早期に着手し、自社独自の成功モデルを推進することが求められます。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(佐久間俊一)