日本では、学校の新学年が4月に始まります。ゆえに、定期券売り場(JRなら「みどりの窓口」)には長蛇の列ができます。定期券売り場を削減する動きもあってか、最近はその列が長くなりがちです。

 行列に並ぶことがあまり好きではない筆者は、2006年10月に一般のクレジットカードによるオンラインチャージや定期券購入ができるようになったタイミングで「モバイルSuica」に移行しました。窓口や券売機に並ばず(何なら家からまったりと)チャージや定期券購入ができるからです。当時はゆえあって大学生だったので、通学定期券からのスタートで、当時は通学証明書類(のコピー)を郵送する必要こそあれど、そこまで面倒だと感じることはありませんでした。

 ある日、X(旧Twitter)でJRのみどりの窓口で長蛇の列ができているポスト(投稿)を見た筆者は、「なんでモバイルSuicaやモバイルPASMOで定期券買わないんだろうか。並ばなくて済むのに…」とリポストしました。すると、結構いろいろな反響が返ってきました。正直、ビックリしました。

 ただ、一部に「これは誤解してるんじゃないか?」「昔の知識のままアップデートされていないのでは?」という反応もあったので、職権(?)を活用して解説しようかと思います。参考になれば幸いです。

●おことわり

 この記事では、特記のない限りApple Pay(iPhone/Apple Watch)のSuica/PASMOも、まとめて「モバイルSuica」「モバイルPASMO」と表記します。

【訂正:16時30分】初出時、通学証明書類の提出方法に一部誤りがありました。おわびして訂正いたします

●充電が切れると使えない?

 モバイルSuicaやモバイルPASMOを使わない理由として「スマホの充電切れが怖い」という声が少なからずあります。確かに、物理的なカードとは異なり、モバイルSuicaやモバイルPASMOはデータの読み取り/書き出しの際に端末のバッテリーからの電力を使うので、バッテリーが全く空になると使えません。

 鉄道やバスで移動している時にバッテリー切れになったら、改札や運賃箱を通れなくなる――と思いきや、ほぼ全てのモバイルSuica/モバイルPASMO対応端末には、バッテリー切れになった際のフェールセーフ機能があります。

Androidスマートフォン(おサイフケータイ)

 おサイフケータイ対応のAndroidスマートフォンの場合、バッテリー切れで強制的に電源を切る際におサイフケータイの最小限機能(カードの読み書き)ができる程度のバッテリー容量を残します。鉄道やバスの乗り降り程度であれば、バッテリー切れからしばらくの間は使えます。

 ただし、バッテリーが完全に放電してしまった場合は使えなくなります。ただ、移動中に完全放電してしまうシチュエーションは、おサイフケータイ機能を何十回も使わない限りは現実的ではないので、そこまで気にする必要はないと思います。

iPhone/Apple Watch(Apple Pay)

 iPhoneの場合、FeliCa対応の最初期機種(※1)を除き「予備電力機能付きエクスプレスモード」という機能が装備されています。

 この機能はバッテリー切れが近づくとiOSをシャットダウンする一方で、「エクスプレスカード」(※2)を最長5時間利用できるようにするというもので、同機能に対応しているエクスプレスカードを設定すれば自動的に有効化されます。「設定→ウォレット と Apple Pay→エクスプレスカード」で、よく使うモバイルSuica/モバイルPASMOがエクスプレスカードに設定されているかどうか確認しましょう。ただし、自分でiPhoneの電源をオフにした場合は本機能を使えません。

 一方、Apple Watchは予備電力機能付きエクスプレスモードに対応していないため、バッテリーが切れるとFeliCa自体が使えなくなります。バッテリー切れが気になる人は、面倒でもiPhoneでSuica/PASMOを使うことをお勧めします。

(※1)「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」の日本向けモデル、「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」「iPhone X」(※2)交通系カードを認証なしで使えるようにする機能(ウォレットにある交通系カードから1枚のみを指定して利用可能)

●通学定期券は窓口じゃないと買えない?

 この時期の定期券売り場の混雑は、通学定期券の新規購入や年度をまたぐ継続購入に起因する面もあります。これらのケースでは通学証明書類を提示する必要があるからです。ゆえに通学定期券は窓口じゃないと買えないと思っている人もいるようです。

 しかし、モバイルSuicaやモバイルPASMOは大学生/専門学校生以上の通学定期券はサービス開始当初から購入可能です。記事冒頭にも書いた通り、私は大学生の頃、モバイルSuicaで通学定期券を利用していました。

 昨今はモバイルSuica/モバイルPASMOでは中学生以上の(≒大人運賃を適用する)通学定期券も買えます。駅にはその旨をアピールするポスターも多数貼られていますし(会社によって温度差はありますが)、パンフレットを用意している会社もあります。

 通学証明書類も、書類をカメラで撮影して提出できるようになりました(どうしても提出できない場合は、カードタイプを購入後に端末に取り込みます)。考え方次第ですが、行列に並んで係員に見せるのと、カメラで撮ってデータを送るのと、どちらが“手間”なのでしょうか……?

 ただし、モバイルSuica/モバイルPASMOでは撮影(提出)した証明書類の確認が終わらないと通学定期券を購入できません。確認までに掛かる時間は以下の通りです。

・当日正午までの提出:原則として当日中に購入可能(繁忙時は除く)

・正午以降〜:原則として翌日から順次処理

 4月初旬は処理に遅延が生じていたようですが、4月10日時点ではおおむね平常通りの処理になっているようです。「当日中に定期券が欲しい!」という場合は原則として正午までに書類を提出しないといけないことが、厳しいですね……。通学証明書類の処理状況はWebサイトで公開されているので、参考にしてください。

 なお、2024年4月1日以降に通学定期券を新規購入/継続した場合は、卒業予定年度まで通学証明書類の再提出が免除されます。JR東日本ではモバイルSuicaとSuicaカード/磁気定期券で共通の取り扱いですが、PASMOの鉄道/バス事業者ではPASMOカード/磁気定期券では扱いが異なる場合があるので、定期券を購入する駅で確認してください。

●クレジットカードがないと定期券を買えない? チャージできない?

 モバイルSuicaやモバイルPASMOの定期券を購入したり残高にチャージする際は、原則として「3Dセキュア 2.0」対応のクレジットカードが必要とされています。「中学生や高校生はクレジットカードを持てないので、どうやって買う(チャージする)んだ!」という意見もありますが、モバイルSuica/モバイルPASMOでの定期券購入やチャージは、クレジットカードがなくてもできます。

方法1:デビット/プリペイドカードを使う

 最近は、クレジットカードの決済ブランドが付帯する「デビットカード(銀行口座から即時引き落としをして決済するカード)」や「プリペイドカード(あらかじめチャージした残高で決済するカード)」が増えています。

 モバイルSuica/モバイルPASMOでは、クレジットカードの決済ブランドが付帯するデビット/プリペイドカードを使って定期券の購入やオンラインチャージを行えます。ただし、以下の注意点が必要です。

・カードが3Dセキュア2.0に対応している必要がある(クレジットカードと同様)

・返金処理が必要な場合(払い戻し)にすぐに返金されるとは限らない(1〜2日で返金されることもあるが、タイミングによっては最長で2カ月程度かかる)

方法2:保護者のカードで「代理決済」する

 中学生や高校生の通学定期券をモバイルSuica/モバイルPASMOで購入する場合は、保護者のクレジット/デビット/プリペイドカードで代理決済できます。カードの情報は「窓口で保護者のクレジットカードで買う」というシチュエーションを、モバイルでも再現できるということです。

 ただし。カード情報は会員情報(あるいは端末)に保存されないため、カード情報は都度入力しないといけません。また、決済に使うカードは3Dセキュア2.0に対応している必要があります。

 なお、モバイルSuicaでは端末でのオンラインチャージでも代理決済を利用可能です。

方法3:Google ウォレットやApple Payを使う(定期券は継続購入のみ)

 クレジットカードの多くは、3Dセキュア2.0に対応しています(一部、利用開始前に申し込みが必要です)。一方で、デビットカードやプリペイドカードでは、3Dセキュア2.0に対応していないケースも少なからずあります。

 ただし、3Dセキュア2.0に非対応のカードでも、おサイフケータイ対応Androidスマホなら「Google ウォレット」に、iPhoneやApple Watchなら「Apple Pay(ウォレット)」に登録できれば、3Dセキュア2.0非対応のカードでも定期券の継続購入やオンラインチャージが可能です。定期券の新規購入はできないのですが……。

●現金でチャージや精算ができない?

 モバイルSuica/モバイルPASMOというと、オンラインでカードを使ってチャージしないといけないというイメージがありますが、現金チャージや現金による精算にも対応しています。ただし、以下のいずれかの方法(機器)を使う必要があります。

・モバイル対応の自動券売機/チャージ機/自動精算機

・バスや路面電車の運賃箱

・コンビニエンスストアのレジ

・一部銀行のATM

 モバイルSuica/モバイルPASMOが使える路線の鉄道駅では、モバイル対応のチャージ機/自動精算機を最低1台設置する動きもあります(会社によっては自動券売機もモバイル対応しています)。また、モバイルSuica/モバイルPASMO(と「モバイルICOCA」)を使う人が増えてきたせいか、Suica/PASMO以外の交通系ICカードに対応する鉄道事業者でも、機器のリプレース時にモバイル対応を行うケースが増えているようです。

 18年間モバイルSuicaを使ってきた身からすると、ここ2〜3年の利便性向上は目を見張るものがあります。

●通信しないと使えない? アプリを立ち上げないと使えない?

 モバイルSuica/モバイルPASMOを使わない理由として「通信しないと使えない!」「アプリが起動できなくなったらどうするのか?」という意見もあります。

 まず、モバイルSuica/モバイルPASMOは新規発行時やオンラインでの乗車券類の購入/チャージ時以外は通信が不要です。乗車券やプリペイド残高の情報はカード上にあるので、手持ちの携帯電話で通信障害があっても問題なく使えます。見方を変えると、通信障害時はオンライン処理が必要な手続きができないわけですが、乗車券(や電子マネー)が使えれば、何とかなると思います。

 普段のかざす操作なら、アプリの起動も不要です。ただし、Apple PayのSuica/PASMOの場合、エクスプレスカードに指定していないカードを使う際に、ウォレットアプリでのカード選択と認証操作が必要なので気を付けてください。

●壊れたりなくしたりしたら再発行できない?

 モバイルSuicaやモバイルPASMOに関して「スマホが壊れたらどうするんだ?」という意見もありました。筆者も携帯電話が壊れてモバイルSuicaが使えなくなったことが18年弱で“一度だけ”ありましたが、別の対応端末を手元に持っていたので、再発行依頼をすることで翌日には復旧しました。

 カードタイプと同様に、モバイルSuicaやモバイルPASMOも記名カードであれば端末故障や紛失/盗難に伴う再発行が可能です。しかも、手数料は無料です。具体的な手順や注意点は以下の通りです。

Android→Androidの場合

 おサイフケータイ対応Androidスマホが故障(操作不能)/盗難/紛失に遭遇し、カードの再発行先に同じくおサイフケータイ対応Androidスマホを選ぶ場合は、以下の手順で再発行できます(同じGoogleアカウントでログインしてください)。

1. 会員メニューサイト(モバイルSuica/モバイルPASMO)から再発行依頼を実施

2. 新端末の「おサイフケータイ」アプリから再発行されたカード情報をダウンロード

 再発行するカードのデータは、以下のタイミングからダウンロードできます。いずれの場合も、プリペイド残高を含む定期券以外の情報は、翌朝5時以降にモバイルSuica/モバイルPASMOアプリから別途ダウンロードしてください。

・有効期限内の鉄道定期券データがある場合(※3):再発行申請から10〜15分後

・有効期限内の鉄道定期券データがない場合:翌朝5時以降

(※3)モバイルPASMOの場合、バス定期券のみを含むカードも同様です。モバイルSuicaの場合、鉄道定期券とバス定期券が併載されている場合は、同時に再発行を受けられますが、バス定期券のみ搭載されている場合は翌朝5時以降にアプリから他の情報と一緒にダウンロード可能です(当日中のダウンロードができません)

iPhone/Apple Watch→iPhone/Apple Watch

 iPhoneやApple Watchが故障(操作不能)/盗難/紛失に遭遇し、カードの再発行先に同じくiPhone/Apple Watchを選ぶ場合は、以下の手順で再発行できます。

 なお、いずれの場合も、プリペイド残高を含む定期券以外の情報はSuica/PASMOアプリから別途ダウンロードしてください(翌朝5時以降にならないとダウンロードできない場合があります)。

【Apple PayのSuicaの場合】

1. Apple Careに連絡して、旧端末のSuicaを削除してほしい旨を伝える(※4)

2. 新端末でウォレットアプリを立ち上げ、旧端末にあったカードを追加

(※4)ウォレットに登録したカードを一括削除する場合はデバイス情報のサイトからも操作可能

【Apple PayのPASMOの場合】

 Suicaと同様の方法の他、以下の方法でも再発行できます。

1. モバイルPASMO会員メニューサイトから再発行依頼を実施

2. 新端末でウォレットアプリを立ち上げ、紛失した端末にあったカードを追加

Android⇔iPhone/Apple Watch

 プラットフォームにまたがる再発行はできません。同じプラットフォームの予備端末を持っている場合は、同じプラットフォームでいったん再発行を行った上で、そのデータを退避してから乗り換えることをお勧めします。

 同じプラットフォームの予備端末を持ってない場合は、会員メニューサイトから払い戻し(返金処理)を依頼し、カードを発行し直してください。

●まとめ

 モバイルSuicaやモバイルPASMOについて、誤解されがちなことを解説しましたが、書いているうちに、JR東日本やパスモ(とPASMO加盟各社)がモバイルSuica/モバイルPASMOの“使い方”をもっとしっかり告知すべきだと感じました。

 メリットや注意点を網羅的かつ分かりやすく伝えるのは難しいのですが、それでもきちんと告知することで“わざわざ”行列を作る人は減らせるように思えます。Xでの反応を見る限り、学校や企業にモバイルSuicaやモバイルPASMOの利用を“認めさせる”活動も必要そうです。

 ともあれ、カードにもモバイルSuica/モバイルPASMOにも一長一短ありますから、リスクとベネフィットをてんびんにかけて使うようにしたいものです。