5月8日から10日にかけて、東京ビッグサイトで開催された日本最大級の教育向け展示会「EDIX 東京」。2021年度にスタートしたGIGAスクール構想も一段落し、文部科学省では2025年度に第2フェーズである「NEXT GIGA」あるいは「GIGAスクール構想 2.0」と呼ばれる取り組みに着手する動きを見せている。

 しかし、1人1台が持つデバイスや学内ネットワークの充実化は図れたとはいえ、利用状況には地域格差が生じているようだ。例えば教師のITスキル不足、想定外の使い方で破損してしまったデバイス、バッテリー劣化といった経年劣化で必要になったリプレース──現場ならではの課題への対応に追われることも多いという。

 会場で見かけたハードウェアに関しては前編で紹介したので、本稿では教職員も含め、学校現場に関係する人たちが導入したデジタル機器を使いこなすためのヒントや、教職員の業務効率化、児童生徒の学校生活の質を上げるソリューションなどを紹介しよう。

●学習の“面倒さ”を軽くするソリューションを提案――カシオ計算機ブース

 遠い昔、「学習係」を拝命していた筆者は、週に3回ほどの頻度で登校してから職員室に足を運び、ガリ版印刷機を借りてクラス全員分の朝自習用プリントを印刷していた。小学校なので印刷機の数は多かったものの、職員が優先されるため待ち時間が生じることもあった。

 現在ではロウ原紙に鉄筆で書いていくという作業は不要だが、それでも作った課題を配布するため印刷するのは手間がかかる。授業前の休み時間、朝の始業時間の前などではプリンタの前が行列になっていることもあるからだ。これではいくら業務がデジタル化したとはいえ、作業効率アップにつながっているとはいえない。

 そこで登場するのが、カシオ計算機が開発する授業支援機能搭載のオールインワンICT学習アプリ「ClassPad.net」(クラスパッドネット)だ。ClassPad.netにはオンライン辞書機能、デジタルノート機能、ツール機能、授業支援機能という4機能を搭載している。

 オンライン辞書機能は、同社の電子辞書「EX-word」からジーニアス英和辞典/和英辞典、旺文社生物事典/化学事典、物理事典、日本大百科全書、明鏡国語辞典など厳選したコンテンツを利用できる。デジタルノート機能では、紙のノートと変わらない、しかしそれ以上に便利なオリジナルノートを作成できるという。教師は板書時間を削減できるし、生徒は端末1つで全教科のノートを管理できるというメリットがある。

 ClassPad.netにある付箋機能は、学習に深みを与えてくれる。手書き、キーボードからのテキスト入力、カメラで撮影する静止画や動画、リンク、辞書で検索した内容、その他にも録音や数学ツールといったものを駆使して付箋を作成し、課題やノートに貼り付けられる。付箋で扱えるファイルはPDF、Word、Excel、PowerPoint、JPEGやPNG、GIFやMOV、MP4など。紙のノート以上に、学習がはかどりそうだ。

  授業支援機能では、教師の授業準備の手間を省力化できる。同アプリ内で作成した課題、あるいは用意されている副教材を、印刷することなくアプリ上で生徒に配布できるからだ。

 生徒はキーボード、ペン入力、音声録音などを駆使して課題を完成させた後、教師が設定した提出期限内にアプリ上で提出する。教師は、提出課題を端末内で採点または添削して、アプリ上で返却できる。生徒の提出した課題を一覧表示できるため、未提出の生徒もすぐに分かる。提出された課題を電子黒板に投影するなどして、クラス内でディスカッションすることも容易だ。

 ClassPad.netはOSを問わず、ブラウザ上で動作する。GIGAスクール端末であれば、どの端末でもOKという汎用(はんよう)性の高さも魅力的だ。これまでは高校向けに先行展開していたが、現在は小中学校向けにも展開しているという。

●オフィスソフトだけではないキングソフトブース

 児童生徒がそれぞれ端末を持っていると、保護者あるいは教師として気になるのが、調べ学習でWebブラウジング中に現れる成人向けコンテンツの広告だ。

 広告の問題は他にもあるという。授業中、YouTubeにアップしておいた学習動画をクラス全員で視聴しているときに、約1分ほどの広告動画が流れて、貴重な授業時間がムダになってしまうこともあるのだ(最近のYouTube広告は長い)。

 不適切となるコンテンツから児童生徒を守り、授業時間の有効活用をするのに役立つのが、キングソフトの広告ブロックアプリ「AD Cleaner」(アドクリーナー)だ。

 これまでセキュリティソフトを開発してきたキングソフトのノウハウを生かし、有害と判断した広告をしっかりブロックできるという。また、アドクリーナーアプリ内の動画再生ソフトを使うことで、動画広告をスキップすることも可能だ。対応OSはAndroid 8.0以降/iOS、iPadOSの14.0以降で、Chromebookも対応している。

 その他、「WPS Cloud」の展示も行っていた。キングソフトではオフィススイート「WPS Office」を展開しているが、WPS Cloudはクラウド型なので、インストールを必要とせずにWebブラウザ経由で利用できるのが特徴だ。

 GIGAスクール端末のようなハイスペックではない環境でも、またストレージ容量の少ない端末でも、気にすることなく使えるようになる。ネット環境があればどこからでも自分の課題にアクセスできるので、家庭学習にも適している。

 ドキュメントや表計算、グラフ、プレゼンテーション資料など、一通りのITリテラシーを学ぶのにも適している。先述のアドクリーナーとパッケージで導入できるのも好都合だろう。

●企業並みのポリシー設計が実現する「mobiconnect」──インヴェンティット

 インヴェンティットブースでは「mobiconnect」(モビコネクト)を展示していた。これは生徒たちのデバイスをリモートで管理するシステムだ。授業中にカメラの使用を禁止する、VPN接続できないようにするなどの他、OSの一括バージョンアップ、リモートロック、不要なアプリをインストールできないようデバイスの機能制限を行うなどの機能を備えている。

 大企業で行っているようなポリシー設計を文教分野へも応用した形だ。これにより、授業が円滑に進むだけでなく、ITにうとい保護者でも安心して子どもに端末を持たせられるだろう。

●見えづらい子どものSOSを早期発見──NECネッツエスアイ

 NECネッツエスアイでは、学校運営に関わるさまざまなソリューションを展示していたが、とりわけ目を引いたのはemol社が提供しているアプリケーション「emol」(エモル)を利用した生徒エンゲージメント可視化サービスの展示だ。

 小中学校時代、担任の先生や保護者に言えない悩みを抱えていたという人は少なからずいることだろう。話したくてもどう思われるかが気になる、自分への見方が変わってしまうのではないかという不安があるからだ。そんなときに相談に乗ってくれたのは、保健室の先生(養護教諭)、あるいは担当する学年の異なる、校内で顔見知りになった先生だったかもしれない。

 生徒エンゲージメント可視化サービスでは、emolの画面に表示される癒やし系のAIキャラクターに向けて悩み事や今の気持ちを入力し、会話することで心の負担を軽減できる。

 入力された言葉からemolが心の状態を数値化、グラフ化したものを教師側で確認して、児童の心の変化の兆候を素早くキャッチできる。見えづらい「教室で起きていること」を可視化すれば、クラス運営にかかる時間などを削減して業務負荷を軽減できるという。2022年12月12日に津山市立東小学校(岡山県津山市)で実証を始め、2023年度に本サービスとして実用化している。

 その他、マイクに向かって話した言葉がほぼ正確にリアルタイムでテキスト化する「AI議事録取れる君」のデモ展示もあった。「企業向けソリューションでは?」と思ったのだが、AI議事録取れる君にある要約機能を使えば、授業に参加できなかった生徒が短時間で内容をチェックするのに役立つ。

 教師の立場であれば、録音した自分の授業の要約から、重要な部分を強調できているかの振り返りにもなる。他の教師(ときには教育委員会の人)に授業をレビューしてもらわずとも、自分で確認できるのだ。

 AI議事録取れる君では、リアルタイムテキスト化以外にも、リアルタイム翻訳機能、アップロードファイルからのテキスト化や翻訳といった機能もある。リンクでの共有も可能なので、学内にとどまることのない活用が可能だ。

●紙とペンのような手書きを実現──MetaMoJiブース

 MetaMoJiブースでは、リアルタイム学習支援アプリ「MetaMoJi ClassRoom」の展示と体験セミナーを行っていた。

 MetaMoJi ClassRoomアプリは、まるで紙とペンのようにディスプレイに自由に書き込めるソリューションだ。タブレットにスタイラスペンなどで書いた手書き文字をテキスト変換する同社の開発システム「mazec」(マゼック)を利用して、キーボードなしにテキスト入力を行うことも可能だ。

 手書きは「学習の基礎」と考えられていることと、デジタル機器(特にキーボード入力)になじみづらい傾向にあるベテランの教職員からの高評価もあり、福島市や熊本市の小中学校、その他高校や大学などでも導入されているという。

 これまで使っていた教材をPDFとして取り込み、児童生徒へ配布したり、そこに書き込んだり、教師が書き込んでいる画面を児童生徒の端末にリアルタイムで共有したりすることもできる。事情があり、教室内で参加できない児童生徒の端末にも共有できるため、学びを止めることはない。

 興味深かったのは、MetaMoJiでは「正しい文字」で学習することを重視しており、教科書フォントを搭載しているということ。大人であると多少簡略化された漢字でも「そういうものだ」と認識できるが、文字を学習中の児童生徒に対しては「正しい字体の文字を見せる、使わせる」ことが大切になってくるという。OSを問わず、教科書フォントを使えるのがMetaMoJiの強みだといえるだろう。

●スキマ時間に効率的な学習を提案するシステムエボリューションの「Evo Tech」

 システムエボリューションでは、ITスキル学習動画「Evo Tech」(エボテック)のデモ展示を行っていた。

 Evo Techは、システムエボリューションの公式キャラクター「エボタロウ」が講師役を務める動画を使ったITエンジニア育成のための学習サービスだ。5分程度のスキマ時間を使って学習できるマイクロラーニング動画で提供されているため、長時間集中するのが難しい生徒でも学ぶ意欲を持てる。

 企業の研修として展開しているが、小中学生向けにはプログラミング学習動画「エボテックJr.」やゲーム「Minecraft」を通じてプログラミングを学べる「くらふとらーにんぐ」も提供している。高校で必修科目になった「情報」科目を学べる「エボテック情報I」もあるため、幅広い年齢の学習をサポートする。

●端末落下のリスクを軽減――サンワサプライの「落下防止ガード」

 PCメーカーが頑丈なデバイスを作っていたとしても、できれば丁寧に扱ったほうがいいのは当たり前だ。サンワサプライブースでは、机からデバイスを落としにくくなるユニークなソリューションを展示していた。

 その1つが「学校用デスク落下防止ガード(JIS用)FPG-2GY」だ。これは机の3辺を囲んで落下を防ぐもので、机には面ファスナーなどで固定する。柔らかい布製のため、教室内でふざけてぶつかっても生徒が傷を負うことはなさそうだ。

 ゴム製の「落下防止ガードFPG-1N」も展示してあり、こちらは短めのガードの2本組となっている。端末を置く側にフレキシブルに設置することができる。

 単体では利用に不安のあるiPadを保護する「キーボード付き10.9インチiPadケース」(第10世代向け)やiPadをしっかりガードする衝撃吸収ケースも展示していた。ハンドル付きなので、校外学習などに持ち歩くのにも便利だろう。

●NEXT GIGAに適したソリューションを一気通貫で提供するSB C&S

 SB S&Cブースでは、NEXT GIGAに対応した全OSの端末、つまり「Chromebook」「iPad」「Windows PC」の他、ハイブリッド授業を効率良く行うビデオ会議システム「Poly」ソリューションを展示していた。

 興味深かったのは、次年度にiPadで採用が有力視されているモデル「10.9インチiPad(第10世代)」を4台、それぞれにサードパーティー製のキーボードを取り付けて展示していたことだ。

 担当者は「純正ではないものだと、どれを選んだら良いか判断しかねる。展示会場の実物で押し心地や丈夫さなどを確認してもらえれば、良い選択ができるのではないか」と語っていた。

 ハードからソリューションまで全てをそろえられるディストリビューション企業として、「何を選んだら良いか」「何が自校にマッチするのか」を見極められるよう可能な限りのソリューションを展示し、それぞれのメリットについて説明していた。

 「GIGAスクール端末とビデオ会議ソリューションを導入したいのであれば、端末はChromebookにするのか、Windowsにするのかをヒアリングし、日本HPやレノボ・ジャパンなどのデバイスを提案する。どちらもビデオ会議システムに必要なビデオバーを提供しているので、例えば『音が出ない』となったときに、それぞれのメーカーを統一しておけば、1つのメーカーに問い合わせるだけで原因を究明できる。複数のメーカー製のものを導入していると、問題を切り分けながら複数メーカーに問い合わせなければならず、時間がかかってしまう。もちろん、万が一のときには弊社も窓口としてサポートするが、早期解決可能な提案のできるのが強みだと感じている」(担当者)

●高校コンビニ!? を提案する山崎製パンブース

 会場内を歩いていて突如目に入ってきたのが小規模なコンビニだ。よく見るとそこは山崎製パンブース。聞けば、少子化により採算の取れなくなったことで学校から学食事業者が撤退し、その穴を埋めるための「学校コンビニ」事業を展開しているのだという。

 特徴としては、セルフレジにより無人で運営できること、来店者が食欲旺盛な年頃ということもあり、ヤマザキデイリーストアなど、限られた店舗にしか置いていない「大盛り」ランチパックを置いていることなどが挙げられる。

 コンビニなので、山崎製パンの商品だけでなく、スナック菓子や文房具、カップ麺なども置いており、高校だけでなく、専門学校や大学などでも好評を博している。短い昼休みに、校外のコンビニに走らずに済むのは青春を満喫したい生徒学生にとってありがたいことであるに違いない。

 「教育を支援する」と一口に言っても、さまざまな面があると実感させられた。NEXT GIGAがスタートする2025年には、教育現場がどのように様変わりしているのか今から楽しみだ。