目に見える報酬がなくなるとあえて脅してでも、研修コースを受けるよう役員たちにほんの少し強制することは、タウンゼンドには必要なことだった。自由な環境をつくるために、役員たちの横暴な姿勢をすっかり改めさせて、エイビスの現場で働く人々のように変えなければならなかったのだ。選択の余地はなかった。

「役員たちに現場を体験させるだけで本当に彼らの態度が変わり、それとともに会社の環境も変わるのか?」と疑問を抱く人もいるだろう。そう考えるのも無理はない。平等な環境をつくろうとするなら、まずは役員専用駐車場といった「我々」対「彼ら」を示す職場の象シンボル徴や慣行をことごとく廃止する必要がある。しかし、社員を文字通り平等に扱うだけでは、彼らが自らやる気を出し、自由と責任を進んで受け入れるようにはならないのも事実だ。環境の他の面である、業務上の慣行も全面的に変更し、社員たちが成長し、自律したいというニーズを満たさなければならないのだ。

 エイビスでは、まさに経営陣による研修がこの変化を加速させた。研修プログラムを通じて、タウンゼンドと役員たちは、自分たちが代理店スタッフに「かなり無理な仕事」を押しつけていたことに気がついた。手書きの契約処理は非常に面倒でストレスの多い業務であり、特に顧客の列が長い時には大変だった(1960年代のことである)。そんなことも彼らは経験して初めて知ったのである。だが契約はレンタカー・ビジネスの根幹なので、その手続きを廃止するわけにはいかなかった。

 しかし、手漕ぎ舟が帆船へ、そしてモーターボートへと移行したように、手書きの作業はコンピュータに取って代わられるようになった。エイビスは、代理店の負担を減らすために、レンタカー業界でいち早くコンピュータを導入した。その結果、各営業所は顧客ニーズに細やかな対応を行い、最も重要な仕事であるリピート顧客の確保に全力投球できるようになった。

<連載ラインアップ>
■第1回 松下幸之助が40年前に喝破していた「科学的管理法」の弊害とは?
■第2回 金属部品メーカーFAVIの新しいCEOが目指した「WHY企業」とは?
■第3回 夜間清掃員が社用車を無断使用した“真っ当な理由”とは?
■第4回 13年連続赤字の米エイビス、新社長はなぜ経営陣を現場業務に就かせたのか?(本稿)
■第5回 利益率9%を誇る清掃会社SOLには、なぜ「清掃員」が存在しないのか?
■第6回 なぜ経営トップは、5年以上職にとどまってはならないのか?

■【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(前編)
■【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(後編)

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(アイザーク・ゲッツ,ブライアン・M・カーニー,鈴木 立哉)