「私は『ところで、私たち全員で、オヘア空港にあるエイビスのレンタカー業者養成コースを受けましょう』と言いました。すると、頭のよい役員たちからは『この忙しい時に』という大変な怒りの声が沸き上がりました。そこでこう切り返したのです。『聞いてください。これは義務ではありません。私は命令しているわけではないのです。ただ、このコースを受けて合格証を取らなければ、皆さんはインセンティブ報酬制度には入れない、という点はおわかりいただきたい』と2

2. Ibid., p. 67.

 そして、この試みがいかに重要かを証明するために、タウンゼンドは付け加えた。

「なお、私は来週受講するつもりです」

 実際に研修を始めてみると、簡単にはいかなかったという。役員たちはモーテルに泊まり、昼間に勉強して、毎日夕刻に試験を受け、夜は宿題に取り組み、毎朝「私はトレイニーです」というバッジをつけて、実際の顧客に車を貸した。タウンゼンドは当時を振り返る。

 ある朝、オヘアで賃貸業務に携わっていると、一人のお客様がカウンターにやってきました。私は、正しいキーを見つけて差し込み、自動車の管理カードの記入処理を行い、クレジットカードをチェックしたのですが、まごついてしまいずいぶん時間がかかってしまいました。列に並んでいる他のお客様が競合他社に逃げないように微笑みを絶やさず作業をしていると、とうとうその人がこう言ったのです。「早くしてもらえませんか? 急いでいるんだ」

「少々お待ちください。私はトレイニーでして」

「君ぐらい不器用で何も知らない人がいったいどうして教育プログラムに合格できるのか、教えてほしいもんだ」とお客様は言いました。

 私は答えました。「申し訳ございません。幻滅されることを承知で申し上げますが、実は私はこの会社の社長なのです」

 するとすぐに彼は私をすっかり許してくれて、こう言いました。「なるほど、あなたは少なくとも現場で何が起きているかを見てやろうとここにいるわけだ。ウチの社長なんかオフィスを離れることはないですよ3

3. Ibid.

 完全に自発的に行われたとは言えないが、経営陣による研修プログラムの受講が会社の環境を転換させた。タウンゼンドはその様子をこう語る。

 このコースをやり遂げた後、私たちは本社でも赤いジャケットを着るようになりました。『我々(本社)』と『彼ら(現場)』は過去の遺物になったのです4

4. Ibid., p. 68.