Amazonのアレクサやお掃除ロボットのルンバなど、いまや、自宅にロボットを置くことは普通の世の中になっています。ロボットは、その高い機能で「私たちの生活をよりラクに、より便利にしてくれるもの」というのが一般的なイメージです。

 人々の生活にロボットが浸透しつつあるなか、家電を操作してくれたり、掃除をしてくれるわけでもない、いわば何もできない“弱いロボット”が注目を集めていることをご存じでしょうか。パナソニック株式会社が開発した、「NICOBO」です。

 一見、時代に逆行しているとも思われるロボットについて、同社のNICOBOプロジェクトリーダー・増田陽一郎さんに話を聞きました。

――開発のきっかけは?

【増田さん】 プロジェクトがはじまったのは、2017年。SNSが普及し生活が便利になる反面、いわゆる「SNS疲れ」など社会的なストレスが話題になりはじめた時期でした。

そんななか、弊社でもこれまで追い求めてきた“モノの豊かさ”だけでなく、“心の豊かさ”を追求したモノづくりをしていく必要があると考えました。

そこで、ある社員の提案から生まれたのが、弱いロボット「NICOBO」でした。

――なぜ、弱いロボット?

【増田さん】 NICOBOの当初のターゲットは、近年、日本で増えている単身の高齢者でした。こうした方々は、1人のときに植物や仏壇に話しかけることがあると聞いていたため、「家で話しかける対象が欲しい」というニーズがあることは分かっていました。

とはいえ、ペットを飼って育てるのは現実的に難しい。そんな方のために、そばで話を聞いてくれる相手として生まれたのがNICOBOです。縁側で横並びに座って会話をする、そんな同居人をイメージして考案しました。

――“弱い”とは、どういうこと?

【増田さん】 さまざまな要素があるのですが、大前提として、何か家事を手伝ってくれるわけではありません。日々の振る舞いは変化しますが、カタコトの言葉を覚える程度で会話もできません。自走をすることもなく、かまってあげながら一緒に生活をすることで周りを笑顔にしてくれるだけの弱い存在です。「想像する余白を残す」ことで、飼い主の皆さんそれぞれが自分なりの居場所としてNICOBOを捉えてくれるのではと考えています。

たとえば、NICOBOは独自言語である「モコ語」を話します。犬や猫が鳴くように人間には意味が分からない言葉なのですが、理解することのできない言語を話すことで、「NICOBOはいま、何を考えているのか」を自由に想像することができます。

デザインも既存の動物をモデルにするのではなく、独特な丸いフォルムに。これにより先入観を取り除き、自由に想像してもらえるようにしています。

ただ、“弱い”といっても、NICOBOにはスマートフォンと同様にカメラやセンサー、コンピューターが入っています。つまり、搭載されている性能はあくまでも最先端なんです。この最先端の機能を用いて、人間が予測できないような動きをするように作られています。

こちらが同じように働きかけても、NICOBOはそのときどきで違った反応をしてくれます。この“予測不可能さ”が、まるで本物のペットを飼っているような癒しを与えてくれるのです。

――消費者からの反応は?

【増田さん】 正直、予想以上の反応をいただいています。2021年にクラウドファンディングでテスト発売したのですが、その際は、目標金額1000万円を達成するまでに1〜2週間を想定していました。ところが、実際はそれを大きく上回る6.5時間で達成。“弱いロボット”に懐疑的な人も多かった社内での見方が大きく変わったのを覚えています。

昨年に一般販売を開始したのですが、当初想定していた高齢の単身者だけでなく、40〜50代の女性のほか、子育てを終えた世代のご夫婦などにも多くご購入いただいています。購入後の満足調査では94パーセントの方に「満足」とご回答いただけており、着実に受け入れられていると考えています。とはいえ、家にロボットを迎え入れようと考えてくれる方は、まだまだごく一部の方です。今後も皆さんの声を聞きながら、さらに愛されるロボットへと進化させていくつもりです。

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 一見、時代とは逆をいっているとも思えるような“弱いロボット”がコンセプトの「NICOBO」。詳しく話を聞いてみると、あらゆるものが便利になる世の中において、あえて不便さを楽しむことで心の豊かさを実現するという狙いがあることがわかりました。

 増田さんは、「NICOBOをきっかけに、将来ペットを飼おうと思ったときにロボットも自然と選択肢に入るような世界にしたい」とコメント。ロボットを“飼う”のが当たり前の時代も、そう遠くない話なのかもしれません。