現在のF1は、エンターテインメント的な方向に舵を切りすぎてしまっているのではないかとして、各方面から懸念の声が上がっている。しかし、関与するアメリカ企業の数は次第に増加している。彼らにとって今のF1は、大いに魅力的なモノであるというのは間違いないようだ。

 リバティメディアがオーナー企業になって以降、F1の人気は急拡大し、さらに新たなファンに門戸を開こうとしているように見える。このことについては、歓迎するファンと、歓迎しないファンに二分されているように見える。反対派は、新たなファンを取り込もうとするあまり、”レースの質”が無視されているのではないかと危惧しているのだ。

 しかしそんな中、F1に関与するアメリカ企業の数は増えつつある。

 F1のスポンサーを務める分析企業である”スポモーション・アナリティクス”が最近発表したレポートによれば、今のF1にはこれまで以上に多くのアメリカ企業が関与していることが明らかになった。

 2022年シーズンは、100社以上のアメリカ企業がF1にスポンサードした初めてのシーズンだった。2017年にリバティメディアがF1のオーナー企業となった時に関与していたアメリカ企業が44社だったことを考えれば、倍増以上の結果ということになった。

 今シーズンに向けて一部のパートナーシップの契約が延長されなかったため、2023年シーズン開幕時に何らかの形でF1にスポンサードしていた会社は98社に減った。しかしマイアミGPの直前には、アメリカのテクノロジー企業DXCテクノロジーがフェラーリと契約し、その数は105に戻った。さらに、今シーズン末にはラスベガスGPの初開催が控えているため、今後F1に関わるアメリカ企業がさらに増えることが予想される。

 興味深いのは、F1においてアメリカとヨーロッパのパワーバランスがどのように変化したかということだ。105という数字は、ヨーロッパの主要となる市場の国全てを集めたよりも多いということ意味するため、実に重要だ。

 スポモーション・アナリティクスのビョルン・ステンバッハ氏は、次のように語る。

「実際のところ、アメリカと欧州の5つの主要市場(イギリス、イタリア、スイス、ドイツ、フランス)のバランスは変化した。この5つの国からは、104の企業がチームやシリーズのパートナーとしてF1に参加している。つまり、バランスがアメリカ側に傾いていることを意味している」

 アメリカのスポンサーが増えている一方で、ヨーロッパ企業の関与数は減少している。ドイツ企業は昨年から6社減ったが、うち3社はミック・シューマッハーがシートを失ったことに関係している。

 全チームの中で、最も多くアメリカ企業をスポンサーにしているのが、マクラーレンである。マクラーレンは、スポンサーのうち実に25社がアメリカ企業だ。ただレッドブルの躍進も著しく、スポンサードするアメリカ企業の数を倍増させ、今では18社となっている。

 ハードロック・インターナショナルは、レッドブルにスポンサードするだけではなく、マイアミGPにも深く関与している。マイアミGPは、ハードロック社が命名権を保持するハードロック・スタジアム周辺に特設された、マイアミ・インターナショナル・オートドロームを舞台に行なわれており、今年のグランプリでのチェッカーフラッグを振ったのも、ハードロック社のジム・アレン会長だった。また同社は、マイアミGPだけではなく、ラスベガスGPのパートナー企業でもある。

 アレン会長はmotorsport.comに対し、F1はアメリカで変革を遂げたと語った。

「我々はインディカーとNASCARに大いに敬意を払っている。しかし明らかに、F1はまったく別のレベルだ。参加することができ、本当に光栄だ」

 アレン会長はそう語る。

「マイアミやラスベガスのような国際的に注目される素晴らしい都市がある場合、それが成功への方程式だと思う。アメリカには、この”製品”の恩恵受けられる、素晴らしい都市がたくさんあるから、F1の持つ価値がアメリカで薄まらないことを祈っている」

 F1は新しいファンと長年のファンの両方を満足させるために、最善を尽くしている。しかしアレン会長は、ハードロック社のような企業にとって重要なのは、エンターテインメント的な要素だと語る。

「どんなスポーツイベントにも、スポーツそのものや競技といった面がある一方で、エンターテインメント的な要素も必要だと思う」

 そうアレン会長は言う。

「率直に言って、ハードロック・スタジアムについてスティーブン・ロス(ハードロック・スタジアムを本拠地にするNFLチーム、マイアミ・ドルフィンズのオーナー。ハードロック・スタジアム自体もロスがオーナーである)とパートナーシップを結んだ時、そういう話をした。我々はただアメリカン・フットボールをやるのではなく、エンターテインメントの目的地になりたいと考えた。だからこそ、スティーブンと私は、パートナーシップを結ぶことができたと思う。フットボール、コンサート、テニス、そしてF1のレースまであらゆるモノがあり、とてもエキサイティングだ。本当に素晴らしいパートナーシップになっている」

 アレン会長以外にも、F1のエンターテインメント性を魅力的に思っている、多くのアメリカ企業がある。現在F1に関与しているアメリカ企業の数が、それをまさに裏付けていると言えるだろう。