2024年シーズンのフォーミュラEも第4戦サンパウロePrixを終え、次はいよいよ日本初開催となる東京ePrixだ。

 日産勢としては、パワートレインを供給するマクラーレンのサム・バードがサンパウロで優勝。日産のオリバー・ローランドも3位に入り、まさに絶好の形で”母国戦”を迎える。

 フォーミュラEは今年で10年目のシーズン。日本ではこれまで開催されてこなかったということもあり、国内でのまだまだ認知度が高いとは言えないという状況だ。そんなフォーミュラEは、市販車の開発にどんな役割を果たすのだろうか?

「短期的なモノと長期的なモノに分かれると思います。ハードウェアは、長期的な視点で色々とやっていかなければいけません。でもその一方で制御系の部分は、市販車との親和性が高いと思います」

 そう語るのは、日産フォーミュラEチームでチーフ・パワートレイン・エンジニアを務める西川直志である。

「私は今まで、ガソリン車のモータースポーツに携わってきたわけではありません。でも親和性という意味では、圧倒的に電気自動車の方が高いと思います」

「作ったデバイスを、市販車にそのまま転用するというのは難しいと思います。でもそれを噛み砕いて、量産車の制約を満たしながらどう落とし込んでいくのかという部分は、私のタスクのひとつでもあります」

「日産としては、バッテリーEVとeパワー(エンジンで発電し、その電気でモーターを駆動する方式)のふたつを、電動化の柱にしています。その両方がそれをぞれカバーしていて、ある意味どっちが主流になっていっても大丈夫だというところを持っていると思っています。その中でフォーミュラEをやっていると、この世界でここまで行けるというのを、手に内に持っているということになるんです。それがすごく大事だと思っています」

「フォーミュラEをやる前には、そんなデータ出るわけないと思っていたこともありました。でもデータを確認したり、自分で実験したりしてみると、そのありえないと思っていた数字が事実だとわかりました。技術開発を積み上げていくと、ここまでいけるということを確認できたんです」

「当然制約条件が違うので、量産車にそのまま使うことができませんが、フォーミュラEをやることで頂点を把握できると、理想となる点が描けるわけです。そこに向けてどう差を縮めていくのかというところが、ポイントになってくると思います」

 西川エンジニア曰く、フォーミュラEに挑むことで、電気自動車はまだまだ進歩できると確信したという。

「正直な感覚を言うと、現時点では描いた頂点からは、まだまだ大きく離れています」

 そう西川エンジニアは言う。

「世の中にある色々なクルマをデータベースにして、自社の商品と比較するということを当然やります。その中にフォーミュラEの点を打ち込むと、圧倒的に離れたところにプロットされるんです」

「もちそん、使っている材料がとても高価だとか、そういう話もあります。量産すれば安くなるモノと、そうではないモノがあります。モーターやインバータには、レアメタルや半導体など、世界的な供給量とのバランスという部分も当然ありますから、そういうものは大量生産できるようになっても、安くはならないかもしれませんけどね」

 ではフォーミュラEのどんな点が、市販のEVと離れているのか? そう尋ねると、西川エンジニアは次のように説明した。

「個人的な感覚で言えば、効率ですね」

「言い換えると、同じバッテリーを使って、どれだけ走れるかということです。航続距離を伸ばそうとすると、バッテリーの容量をどれだけ増やすかということになると思います。でも同じバッテリーでも、効率を上げることで航続距離をドンと伸ばすことができるんです」

 日産は電気自動車の開発・販売に力を入れており、最近ではこの分野でホンダと協業する方向で検討することを明らかにしたばかりである。そこに、フォーミュラEで培われた知見が活かされるのかもしれない。

 なおフォーミュラEのバッテリーは現在ワンメイク。この開発を自由化すべきという声もあるが、西川エンジニアは今のまま共通バッテリーでも、やるべきことは数多くあると語る。

「これは個人の意見になってしまいますが、私は共通の方が良いと思っています。バッテリーの開発を自由化してしまうと、そのバッテリーだけで勝敗が決まってしまうことになるはずです」