F1では現在、タイヤサプライヤーのピレリがC1〜C5という計5種類のコンパウンドの中から各レースウィークごとに3種類を選択し、各チームがこれを使うことになる。そのコンパウンド選択が適切であれば、その内の2種類を使うことが義務付けられる決勝レースはよりスリリングなものとなる。

 例えば先日行なわれた第5戦中国GP、そして第4戦日本GPを振り返ってみると、ピット戦略は2ストップが主流となった。そのため各車の戦略はバラエティに富み、戦略違いのマシン同士がコース上で出会い、オーバーテイクが盛んに見られるなど、見せ場があった。

 F1の抱える問題点のひとつは、このようなマルチストップ戦略を演出できるタイヤコンパウンドの組み合わせを、毎レース実現できるわけではないということだ。その大きな理由と言えるのは、5種類のタイヤコンパウンドから3種類を指定するという幅の狭さだ。

 その結果、場合によっては持ち込まれたコンパウンドのうち1種類が「使えない」コンパウンドだと判断されてしまい、決勝レースで各車が同じような戦略を採るようになってしまったり、長持ちし過ぎるハードタイヤでレースの大半を走るような展開になったりと、エキサイティングな要素が削がれてしまうのだ。

 その点はピレリとしても十分に理解をしている。F1が2ストップのレースを目標のひとつに掲げているから尚更だ。しかしながら、毎回2ストップ作戦が主流になることを保証するような方法を見出すのは、容易なことではないだろう。

 ピレリでF1部門とカーレース部門の責任者を務めるマリオ・イゾラは、それを実現させるためには、今季のF1が全24戦であることになぞらえて「3×24種類のコンパウンドが必要」とジョークを飛ばす。実際はそこまで極端な話ではないにしても、計5種類のコンパウンドが全ての開催地にうまく適合するようにすることは一筋縄ではいかないとイゾラも認める。

 イゾラによると、最近ストリートサーキットでのレースが増加していることも状況を複雑にしているという。例えばモナコやシンガポールのようなサーキットで理想的に機能するタイヤが、タイヤへの負荷の大きいシルバーストンやスパでもうまく機能するかと言われれば、そうではないからだ。

 そこでイゾラが提案するのは、通常のパーマネントサーキットのレースで2ストップが主流になるような仕様のタイヤを基本軸にしつつ、ストリートサーキットでのレース用にソフト寄りのタイヤコンパウンドを開発するという手法だ。

「最近はどんどんストリートサーキットがカレンダーに増えている。ストリートサーキットというのは大抵、ソフトなタイヤが求められる」

 イゾラはそう語る。

「だからソフト側にもう1種類(タイヤコンパウンドを)増やすか、将来的にレンジ(作動温度領域)をもう少しソフト側にずらしていくかだ」

「我々は2025年に向けて、レンジをソフト寄りにするために、より摩擦力の高いタイヤを用意することを検討している」

「理想的には6つ(のコンパウンド)が必要だろう。ただ、それは全てのレースを2ストップで戦略のバラけるレースにするためではなく、過半数をそういったレースにするためだ。全てというのは難しい」

 イゾラは、仮にレースごとに専用のオーダーメイドタイヤを作ることが許されたとしたら、モナコは他とは全くの別物のタイヤになるだろうと話す。F1が開催されるあらゆるサーキットに適合したタイヤコンパウンドづくりをしなければならないという、ピレリが直面する課題の難しさを物語るコメントとも言える。

 したがって2ストッパー以上が確実になるレースを演出するのは困難なのだが、何も不可能というわけではない。実現のための最も合理的な策は、タイヤコンパウンドの種類を全5種類から増やすということだ。そうすることで、ピレリはストリートサーキットやタイヤ負荷の大きいサーキットに特化した温度レンジのタイヤを登録できるようになるのだ。

 しかしながら、その上でもうひとつネックとなってくるのが、モナコやシンガポール、ラスベガスといった非常設サーキットではグランプリウィークエンド以外で走行することができないため、そのサーキットに合わせたタイヤ開発をする上では推測に頼らざるを得ない部分も出てきてしまうのだ。

「そこ(ストリートコース)ではテストができないので、どうやってタイヤを開発するのかが問題になる」とイゾラは言う。

「我々はストリートサーキットのシミュレーションができるような場所探しに苦労している。モナコのようにタイヤへの負荷が小さいサーキットは市街地だし、シンガポールやバクーに『ピレリがテストをするから市街地を封鎖してくれ』なんて言えないからね!」

「まあ、頼む分にはタダだが、許可が下りるとは思えない。だから違う方法を探しているんだ」

 もし、モナコGPやシンガポールGPの翌日までコースを閉鎖し、居残りのタイヤテストを実施することができたら……? さすがに夢物語かもしれないが、実現すればシーズンを通しての大きな利益を得られるかもしれない。