ル・マン24時間レースを主催する西フランス自動車クラブ(ACO)のピエール・フィヨン会長は、2028年の水素を燃料としたプロトタイプクラスに少なくとも1台が参戦し、翌年以降は「2〜3台、あるいはそれ以上」になると予想。10年後には複数メーカーが総合勝利を争うようになるとの考えを語った。

 そして、カーボンニュートラルな燃料を使用するマシンのために設けられたレギュレーションには、大きな期待が寄せられているとフィヨン会長は明かした。

「我々は2018年から水素に取り組んでいて、メーカーからの関心は本物だ」

 フィヨン会長はmotorsport.comに対してそう語った。

「当初は我々だけのアイデアだったが、今は勢いがある」

 水素プロトタイプをハイパーカークラスに統合する当初の計画は2024年の導入予定だったが、そこからは1年ずつ計画が延期されていった。

 フィヨン会長は、レギュレーションが2027年に導入されることを認めたが、代替燃料で走るプロトタイプが登場するのはほぼ間違いなく2028年になると認めた。

 トヨタは昨年のGR HY Racing Concept発表時に、水素エンジン搭載のコンセプトマシンでル・マンに参戦する意向を表明しており、水素クラスに参戦する最初のメーカーとなる可能性が高いと考えられている。

 アルピーヌは、トヨタと同様に水素エンジンをレースマシンと市販車の両方で応用することを検討しており、世界耐久選手権(WEC)スパ戦で“走る実験室”と自らが呼ぶ水素エンジン搭載のアルペングロウHy4を発表。デモ走行も行なった。

 両メーカーとも、ル・マンに水素マシンを投入する時期については明言しておらず、現時点ではレギュレーション自体が存在していないことを指摘した。

 トヨタはこの技術の先駆者として、日本のスーパー耐久シリーズのST-Qクラスに水素エンジン搭載のカローラを投入。世界ラリー選手権(WRC)でも水素エンジン搭載のGRヤリスH2を試験的に走らせた。

 ただ、TOYOTA GAZOO Racing Europeでディレクターを務めるロブ・ルーペンは、2027年までにル・マンに水素マシンを用意するのは「非常に困難」だと認めた。

 一方アルピーヌは、まだ水素技術を用いてレースプログラムを実施していないが、モータースポーツ部門のブルーノ・ファミン副代表は、2027年までに水素マシンを準備できる可能性を示唆した。

「我々は2027年までにと願っているが、2026年でも2027年でも2028年でも構わない」とファミン副代表はmotorsport.comに語った。

「重要なのは、FIAの支援を受けたACOがル・マンに水素技術を導入することを強く推進していることで、我々としてもそれに納得している」

 トヨタやアルピーヌ以外にも、多くのメーカーが水素技術に興味を示しており、FIAの関連ワーキンググループには少なくとも8社が参加している。

 フィヨン会長は「ほとんどのメーカーがハイパーカーに関心を持っている」と語り、水素エンジンではなく水素燃料電池を搭載するマシンを搭載するレギュレーションがまず導入されるだろうと説明した。

「何が最良の技術かを決めるのは我々の役目ではない」とフィヨン会長は語った。

 そして水素マシンがル・マンの総合優勝を争えるようにすることが、ACOの考えだとフィヨン会長は強調した。

「メーカーはただ水素クラスに参入することに興味はない」とフィヨン会長は言う。

「新しい技術であり、完全に競争力を持つには1〜2年かかるだろう。しかしレギュレーションは水素マシンが勝てるように設計されている」

 フィヨン会長は、6月のル・マンで水素に関する重要な発表があることを明らかにした。

 ACOはまた、MissionH24の旗印のもと、GreenGTと共同開発した第3世代の水素燃料電池プロトタイプのショーカーを発表する。

 H24EVOと呼ばれるこのマシンは、来年早々にテストを開始し、前モデルと同様にヨーロッパ・ル・マン・シリーズ(ELMS)のミシュラン・ル・マン・カップに参戦する予定だ。