2024年のF1オーストリアGPは、衝撃の結末となった。優勝を争っていたレッドブルのマックス・フェルスタッペンとマクラーレンのランド・ノリスがコース上でまさかの接触。ノリスはリタイアを強いられ、フェルスタッペンは後退して5位でフィニッシュするのが精一杯だった。

 レース前半は、フェルスタッペンが他を圧倒するペースで走った。ほとんどのマシンが新品のミディアムタイヤを履いてスタートに臨んだが、フェルスタッペンのペースはライバルを凌駕しており、ノリスとの差を確実に開いていった。

 その結果、1回目のピットストップを行なう前の時点で、フェルスタッペンとノリスとの差は約6秒にまで開いた。

 各車1回目のタイヤ交換で、ふたりはハードタイヤに履き替えた。この第2スティント序盤も、最初のスティントほどではないものの、フェルスタッペンが優勢で進んでいき、両者の差は8秒ほどまで広がった。

 しかし35周目頃から、様子が一変する。それまで1分9秒5前後で推移していたペースがいきなり落ち、その後ずるずるとペースダウンしていったのだ。

F1オーストリアGPレースペース推移

 このグラフは、F1オーストリアGP決勝での上位勢のラップタイム推移を表したものである。赤丸で囲った部分で、フェルスタッペンのペースが突如落ちているのが明確に見て取れるだろう。

 この頃フェルスタッペンは「何が起きているか分からないよ! このタイヤは突然悪くなったんだ」と無線で訴えている。

 フェルスタッペンのペースは、2回目のピットイン直前(50周目)には1分10秒7まで落ちている。ただのデグラデーション(タイヤの性能劣化)と言われればそれまでだが、それまでペースが安定していたことを考えれば、フェルスタッペンが言うように何かがあったのだろう。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表、そして同チームのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、雲の影響で路面温度が下がったことで、ハードタイヤをうまく使えなかったのではないかと推測しているが、真の原因調査が待たれるところだ。

 ただそれでも、ノリスのペースもそれほど優れていたわけではなかったので、フェルスタッペンは7秒のリードを保つことができた。普通なら、そのまま勝つことができただろう。

 ただ誤算があった。それが2回目のピットストップでの作業ミスだ。左リヤタイヤの交換に手間取り、4秒をロス。それもあり、ノリスに真後ろにまで迫られてしまったのだ。しかもノリスは新品のミディアムタイヤが残っていたのに対し、フェルスタッペンには予選で使った中古のミディアムタイヤしか残っていなかった。

 タイヤのアドバンテージがなく、しかもノリスに真後ろまで迫られてしまったフェルスタッペンは、防戦一方。前述のようにふたりは接触し、終戦を迎えることになってしまった。

 前出のホーナー代表はマルコ博士は、決勝に新品ハードタイヤ2セットを温存する戦略が正しくなかったかもしれないと語っている。そのためフェルスタッペンは、最終スティントで残っていた新品ハードタイヤ最後の1セットを使わず、使用済みのミディアムタイヤを選択したわけだ。

 しかしハードタイヤは本当に、レース終盤のコンディションで使いにくいタイヤだったのだろうか? 他のドライバーのペースを見ると、あながちそうとも言い切れないように思える。

 フェルスタッペンとノリスが脱落したことで、漁夫の利で勝利を掴んだメルセデスのジョージ・ラッセルは、実はミディアム→ミディアム→ハードと繋ぐタイヤ選択だった。上位勢のドライバーの中でこの順番でタイヤを履き繋いだのは、このラッセルのみであった。

 フェルスタッペンのように「ハードタイヤは使いにくい」ということならば、最終スティントでポジションを落としても不思議ではないはずだ。しかしラッセルのペースは安定(グラフ青丸の部分)。ミディアムタイヤを履き、大きなデグラデーションの傾向(グラフ緑丸の部分)を示したノリスのチームメイト、オスカー・ピアストリとは対照的だった。ちなみにミディアムタイヤを履いた第1&第2スティントのラッセルは、いずれも激しいデグラデーションの傾向を示していた。

 もちろん、マシンの特性の違いという側面もあろう。しかし、ラッセルのペース推移を考えると、第2スティントでフェルスタッペンが履いたハードタイヤに、何らかの異常が生じたと考えたくなる、そんな傾向が見てとれる。