不正請求が明るみになったビッグモーターは、以前から自社のロゴ入りプレートをつけたまま公道を走行していたことや、自動車保険不正請求(水増し請求)の疑いなどで再び話題となっていました。そうした中で今回の不正請求に関してユーザー側への対応はどうなっているのでしょうか。

「客のタイヤにワザと穴あけ」「保険金水増し請求」と多数の疑惑… ついにビッグモーターが一部を認めた?

 現在、様々なメディアなどで取り上げられている中古車販売業者の「ビッグモーター」ですが、これまでも「客のタイヤにワザと穴あけ」や「保険金水増し請求」といった疑惑が多数存在しました。
 
 そうした中で今回明らかになった不正請求に関する内容ですが、肝心な「ユーザー側に対しての対応」はどうなっているのでしょうか。

 ビッグモーターに関しては約1年前の2022年6月下旬、買取したクルマに対して「書類に不備があった」とウソをついて客に60万円を返金させていた従業員が逮捕された報道もありました。

 2023年3月には熊本浜線店の指定工場(民間車検場)が国土交通省九州運輸局から指定取り消しの処分を受けており、同じく2月には道路運送車両法第94条違反として唐津店(佐賀県)が保安基準適合証等の交付停止という処分を受けています。

 最近では6月13日に宇都宮南店に対して同じく94条違反で「聴聞」を行うという公示が関東運輸局から出されています。

 また損害保険会社の業界団体となる一般社団法人 日本損害保険協会が2023年6月15日に定例会見を行い、そこで同協会の会長はビッグモーターに関する見解を示しています。

 こうした経緯をふまえて、2023年7月18日にビッグモーターは「当社板金部門における不適切な請求問題に関するお詫びとご報告」とのお知らせを発表しました。

 この報告の中には不正請求に関する調査報告書の公開や様々な再発防止策、そして全取締役に関する報酬の自主返上を実施することなどが記されています。

 独自に関係者に取材したところ、「現時点(3年分)でビッグモーターは損保各社への不正請求分50億円以上を賠償するでしょう。その前の2年分も合わせると調査費用含めて合計で100億円近くなる可能性もあります」との回答でした。

 なぜこのようなことになったのでしょうか。

 保険契約者の中にはビッグモーターでクルマを買ったり売ったり車検を受けたりの履歴はなく、全く関係ない方々も多く存在します。

 ビッグモーターの板金工場に入庫し、損保各社がビッグモーターに対して水増しされた保険金を支払うまでの流れを簡単に説明しておきます。

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 1.損保A社で車両保険を契約しているBさんが愛車運転中に事故を起こす

 2.Bさんは事故報告とロードサービスの手配のためA社事故受け付けセンターに電話。

 3.A社受け付け担当者CさんはBさんの事故受け付けを行うが、その際、Bさんとこのようなやり取りを行う。

 C「修理工場はお決まりですか?」
 B「いえ、特に決まっていません」
 C「では、弊社の提携工場(ビッグモーター板金工場) に入庫という形でよろしいでしょうか?」
 B「はい。ではお願いします」

 4.事故現場にA社手配の積載車が到着し、Bさんの事故車両はビッグモーターの板金工場に運ばれる。

 5.ビッグモーター板金工場からA社とBさんに修理金額の見積もりを出し、Bさんが保険を使って修理することを了承。
 A社もその金額を承知して修理を開始(この見積もりの時点で過大な水増し請求が行われることが多かった)

 6.Bさんの愛車はビッグモーター板金工場で修理が行われ、後日、A社からビッグモーター板金工場に修理代金が支払われる。
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 このような流れとなるため、それまでビッグモーターとは無縁のオーナーも保険会社からの紹介によってビッグモーター板金工場に入庫して修理を受けることになります。

 2022年夏頃まで各損保会社はビッグモーターを指定工場、提携工場などとして登録していました。

 入庫先が決まっていない保険契約者が事故を起こして事故受け付けセンターに連絡が入ると積極的にビッグモーターの工場を紹介。

 なぜ積極的だったかというと、入庫紹介1件につきビッグモーターから損保各社に自賠責保険5件(損保会社によって交換レートは異なる)などの契約がもらえるなど優遇措置があったからです。

 なお、不正請求が行われていたのは上記の4.です。実際にこの不正に関して関係者は以下のように明かしました。

「ビッグモーター側が出した見積もりは損保によってまた修理金額によって確認の仕方が異なっていました。

 損保ジャパン、三井住友、東京海上などは見積り金額や整合性によって写真で終わるか、立会になるかの判断でした。

 一定金額以上で全件立ち合いが必要になるケースもあれば、ビッグモーターが作った見積もりが何のチェックも入らずそのまま支払われる損保会社もありました」

車両保険を使えば翌年から3等級ダウン 保険料も上がる… ユーザー対応はどうなる?

 事故で車両保険を使ったことがある人なら分かると思いますが、車両保険を使って修理をすると翌年から3等級下がります。

 例えば今年は15等級だった契約者は12等級に下がります。

 そして保険料も高くなり、事故有係数期間を含めると完全に元の保険料に戻るまでに一般的には6年掛かることになるのです。

 ビッグモーターでこれまで修理をした人の中には等級ダウンによる保険料の値上がりなどを考えると、車両保険を使わずに修理したほうが良い軽微な修理で終わるケースがあったかもしれません。

 また、免責金額(5・10万円など)に達していない場合はそもそも保険支払いの対象外です。

 このような10万円-15万円以下の比較的軽微な損傷に関して、ビッグモーターはわざと損傷個所を拡大するなどして、見積もりを水増しして請求していたケースも多数あったとみられます。

 不正請求によって等級ダウンとなり、保険料が上がってしまった契約者もかなりいるでしょう。

 不正分を支払った損保各社も被害者かもしれませんが、ビッグモーターに「入庫誘導」されて修理を受けた保険契約者も被害者なのです。

 損保各社は不正水増し分をビッグモーター側に支払ったとしても、その分、自賠責保険や自動車保険の契約という、損保によっては年間100億円以上の見返りが得られていた実態があります。

 しかし、一般契約者には当然何の見返りもないばかりか、本来払わなくて済んだお金を支払うことになります。

 ビッグモーターは損保各社に不正分の返還を行うとしており、また、損保各社は不正請求の対象となった契約者に対して等級の復活や収めていた値上がり分の保険料を返還する動きを見せています。

 また現在、特別調査委員会による調査とは別ルートで、不正請求に関しての調査を進めています。

「テクニカルサポート部の人員によって過去3年間のすべての保険請求について調査をしていますが、全部終わるまでには数年かかる見込みです」(関係者)とのことで、全容が解明されるまでには相当な時間がかかることも予想されます。

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 なおビッグモーターは保険不正請求に関して問い合わせ窓口を開設しています。

 心当たりのある方は問い合わせをしてみてください。また契約している保険会社に問い合わせるという方法も良いでしょう。