昆布やウニの産地として知られる北海道・利尻島で、神奈川県から移住した松永仁来(にらい)さん(36)が野菜の水耕栽培に取り組んでいる。利尻町や利尻富士町によると、気候の厳しさなどから専業の野菜農家はいなかったが、松永さんは屋内生産に可能性を見いだし、栄養豊かな湧き水も活用。「農業を島の産業に育てたい」と話す。(共同通信=星井智樹)

 北海道本土の北端、宗谷岬から南西約60キロの日本海に浮かぶ利尻島。面積約182平方キロ、1月末現在の人口は約4千人で、中心に利尻山(1721メートル)がそびえる。

 利尻島は耕作に向いた平たんな土地が少なく、気温の低さや強風の影響から農業で収益を上げるのは難しいとされてきた。野菜は主に島外から運ばれているが、フェリーは冬を中心にしばしば欠航。運航会社は燃料費の高騰などを受けて「運賃の値上げも検討する必要がある」と話すなど、新鮮な野菜の安定供給には課題が多い。

 松永さんは東京都保谷市(現西東京市)生まれ。大学院を修了後、横浜市の建設会社に就職したが、北海道や離島の暮らしに興味を持ち退職。暮らしていた川崎市から札幌市を経て2019年に利尻町へ移住した。

 町役場に勤めたが、新鮮な野菜が手に入りにくいと感じ、役場を辞めて2023年4月、建設会社の元同僚と水耕栽培事業を始めた。

 水に植物の根を張らせる方法で、畑作に比べ小さなスペースで栽培できる上、屋内だと環境を制御して一年中安定して収穫できる。使用するのは利尻山に降った雨水や雪が湧き出した水で、野菜の成長に必要なミネラルなどが豊富という。

 通常より電気代が多くかかるが、空き家を無償で譲り受けるなどしてコストを削減。無農薬のため洗わずに食べられ、根を付けたまま出荷することで鮮度を長く保つことができるのも特長だ。

 これまでリーフレタスや小松菜などを月15〜20キロ収穫し、「NIRAI(ニライ)」の事業者名で販売。子どもたちから「もっと食べたい」とせがまれるなど、島内で好評という。当面は島での販売に注力するが、ゆくゆくは島外への出荷も見据える。「他の住民も巻き込んで、漁業に並ぶ規模にしたい」と語る。