JRグループ6社の定期券利用が新型コロナウイルス禍前の8〜9割程度にとどまり、本格回復へ足踏みを続けている。在宅勤務の定着などが背景にあるとみられ、通勤通学のラッシュ時間帯の減便や終電の前倒しといった措置の取りやめは難しい状況だ。

 各社の2023年4〜12月(JR北海道は4〜10月)の輸送人数と距離をかけ合わせた「旅客輸送量」は計1869億人キロで、2019年同期を12.3%下回った。このうち定期利用は16.7%減少。コロナ禍前後で定期利用の水準を比較すると、JR東日本が81.0%と最低で、最も高くてもJR九州の91.2%だった。

 JR東は、首都圏18路線で2021年春に繰り上げた終電時間を維持したままだ。変更を求める声にも「利用状況はコロナ前には戻っていない。夜間作業の時間を確保し、安全性とサービスの向上を図ることが目的だ」と説明する。

 一方、東京と蘇我(千葉市)を結ぶ京葉線では、2024年3月のダイヤ改正で快速の減便方針を打ち出したものの、沿線自治体からの猛抗議で一部修正に追い込まれた。

 利便性向上を求める声は各地で広がっている。熊本市の鹿児島線富合駅を通勤で使う70代男性は「列車は2両と3両の編成があり、朝の2両は明らかに混んでいる」と顔をしかめる。

 JR九州の内部資料によると、急病人によるダイヤの乱れが2023年4〜12月に109件発生し、朝のラッシュ時に集中していた。ある運転士は「病人救護の遅延はコロナ前より多くなった」と実感を語る。「車両数が回復した乗客数に見合っておらず、車内環境が悪くなっているのではないか」と指摘する。

 同社は経営効率化の面からも減便や車両削減を進める。2023年春時点で全普通列車の1日の累計走行距離は4年前に比べ6.0%減少。2023年8月の保有車両は5カ月前より8.9%少なかった。

 福岡県と県内の沿線自治体は昨年以降、乗り換え列車の接続改善や増便をJR九州に要請してきた。ただ、2024年3月16日からの新ダイヤでも大幅な変更はなく、行政側には「ゼロ回答」に近いと映る。

 「通勤需要がコロナ前の100%に戻ることはない」とJR九州の古宮洋二(ふるみや・ようじ)社長。鉄道会社の経営は当面手探りとなりそうだ。