イチゴの旬は冬?それとも春?

 真っ赤な見た目と甘酸っぱさが魅力の「イチゴ」。春にイチゴ狩りを楽しむ人も多いのではないでしょうか。世界各国で人気のイチゴですが、日本は生食での消費量が世界有数。栽培品種も多く、新品種が続々と誕生しています。この記事では、そんな「イチゴ」についてクローズアップしたいと思います。

 クリスマスが近づくとイチゴを見かけるようになることから、イチゴの旬は冬というイメージが定着しています。これはクリスマスケーキなどでイチゴの需要が高まり、ハウス栽培の普及や品種改良が進んだため。

▲可憐なイチゴの花。花が落ちて1カ月後くらいに実が熟します。

実は、イチゴは初夏の季語。本来の露地栽培の旬は春から初夏で、春先に小さくて愛らしい白い花を咲かせます。ですので、ハウス栽培のイチゴの旬は冬から春、露地栽培のイチゴの旬は春から初夏となります。現在は流通しているイチゴの約9割がハウス栽培で、日本の栽培技術は世界トップクラスを誇ります。

▲白系イチゴをはじめ、近年のイチゴ界の品種の多様性は目覚ましい!

『とちおとめ』(栃木)や『あまおう』(福岡)をはじめ、各地に多彩な品種があり、その数はなんと約300種類とも。現在も品種改良が進んでいて、生産量は少ないものの夏から秋に収穫期を迎える国産イチゴの品種も誕生。旬を長く楽しめるようになっています。

▲表面の小さな粒が本当の果実。その果実に栄養や水を運ぶ白い筋が中心から1粒1粒に向かって伸びています。

イチゴの甘酸っぱい果肉は、本当の果実じゃない?

 実は、私たちがイチゴの実だと思って食べているジューシーで甘酸っぱい部分は、正しくは果実ではありません。花床(かしょう)と呼ばれる茎の先端が膨らんだ偽果(ぎか)です。イチゴの本当の果実は、表面の小さなツブツブ。痩果(そうか)と呼ばれる果肉のない果実で、イチゴ1個に200〜300粒の痩果が集まり、その1粒1粒の中に種子が入っています。

 なお、イチゴを切った断面をよく見ると白い筋が何本も伸びているのが分かります。この白い筋は維管束(いかんそく)と呼び、表面の痩果(ツブツブ)に栄養や水を運ぶための役割を果たしています。イチゴの実だと思って食べていた部分は、たくさんの小さな果実を育てるための大きなゆりかごのようなものだったのですね。

※花床は花托(かたく)と表記されることもあります。本記事では食品学の文献と農林水産省の資料をもとに記載しました。

▲イチゴが草の実であることを実感できるイチゴ狩り。出かけてみては?

イチゴって実は野菜なの?

 ところで、意外なことにイチゴは農林水産省の統計や事業では「野菜」に分類されています。イチゴ狩りを体験したことがある人はご存知かと思いますが、イチゴはミカンやモモのような木の実(木本性・もくほんせい)ではありません。草の実(草本性・そうほんせい)であるため野菜に分類され、実際は果物と同じように食べられていることから「果実的野菜」とも呼ばれています。イチゴ以外にも果実的野菜としておなじみなのがスイカやメロン、バナナなどです。

 ちなみに、栄養士のバイブルである日本食品成分表ではイチゴは「果実類」に分類されています。イチゴは果物中でもビタミンCが豊富。詳しい栄養価の特徴については、続編を参考にしていただけたら幸いです。

※参考文献:杉田浩一ほか監修『新版 日本食品大事典』医歯薬出版株式会社,2017、久保田紀久枝・森光康次郎編『食品学-食品成分と機能性-』東京化学同人,2017、板木利隆監修『新・野菜の便利帳 おいしい編』高橋書店,2016、白島早奈英・板木利隆監修『もっとからだにおいしい野菜の便利帳』高橋書店,2009、農林水産省webサイト

(野村ゆき)