平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。2月11日放送の第6回「二人の才女」では、道長から熱烈なアプローチを受けるまひろと、逆に道長に政治的な猛プッシュをかける詮子という、2人の「才女」の姿が描かれた(以下、ネタバレあり)。

■ 第6回「二人の才女」あらすじ

藤原道兼(玉置玲央)に母を殺された事実を、その弟・道長(柄本佑)に告げたまひろ(吉高由里子)。立場的にも心理的にも、道長と距離を置く道を選ぶことになる。

一方、道長は父・兼家(段田安則)から、兄の所業を忘れるよう命じられるとともに、自分たちが表の道を行くために道兼は泥をかぶる存在だとも告げられ、一族の闇深さを思い知る。

また、道長の姉で東宮の母・詮子(吉田羊)は、父とは違う権力を持つために道長を源雅信(益岡徹)の娘・倫子(黒木華)の婿にしようとする。しかし、道長はまひろへの好意を募らせ、禁断の恋も辞さない気持ちを込めた歌を送っていた。

■ まひろによる『源氏物語』執筆への伏線

第6回「二人の才女」というサブタイ、順当に考えると今回初対面を果たしたまひろとききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)のことと思えるが、実は文学ではないジャンルでもうひとりの「才女」がいた。のちに大きな権勢をふるい、道長の出世にも貢献する藤原詮子だ。今回は彼女らの運命の岐路とも言える状況が描かれた。

まずまひろの方だが、道長との身分の格差&母の仇の弟というW障害に見舞われたためか、この恋をあきらめようとする。しかし道長は逆に、漢詩の会に乗じて「宮中であなたのことを考えてます」という詩をサラリと詠み(それを読み上げるのがまひろの父・為時(岸谷五朗)というのがちょっと笑える)、ダメ押しで「会いたくて会いたくて震える(超意訳)」という和歌を送り、まひろの心を揺さぶってきた。

普通の女子なら、憎からず思っている御曹司から、これほど猛アタックされたら完全になびいてしまいそうだが、後世を生きる私たちは、この2人が最終的に結ばれないという結末を知っている。ということは、恋愛ドラマにありがちな「どうすれば結ばれるか?」の真逆をいく「どうやって結ばれなくなるか?」というのが問題になってくるわけだ。そしてその理由は、まひろの『源氏物語』執筆の大きな芯になりそうな予感がする。

さらに、『源氏物語』につながりそうなシーンがもうひとつ。すっかり2人の恋のキューピッドとなった、散楽師にして盗賊の直秀(毎熊克哉)に、大衆は笑いを求めているという「おかしきことこそめでたけれ」の精神を説かれたことだ。

長編小説で読者の興味をひき続けるには、フッと心を軽くするユーモアは確かに不可欠だし、『源氏物語』にもしっかりその要素はある。どうやらまひろは次回、散楽の台本で作家デビューを果たすようで、ここからどうやって道長の思いを振り切って文学の道を追究していくのか、残念でもあるが楽しみでもある。

■ 詮子・道長の姉弟、『鎌倉殿』の二の舞いには・・・

そしてもうひとりの詮子の方は、父の最大のライバル・源雅信を半ば脅すようにして自分の味方に引き入れるとともに、お気に入りの弟を雅信の娘婿にしようと画策。

この「道長をダシにして自分の地位を安定させる」という思惑が、あれほど嫌っていた父・兼家とまったく一緒というのには驚いた。海千山千の政治屋と同じ戦略を、政治に一歩踏み出したばかりの一女子が抱いていたわけなのだから・・・。

これだけで詮子が、先天的に非凡な政治センスを持っていたことがわかるし、東宮の母という立場だったことで、この時代の女性にはめずらしく、その辣腕をふるえたことは幸運だっただろう。2022年の大河『鎌倉殿の13人』の北条政子ばりに、やり手ぶりを見せてくれそうだ。

今は詮子に振り回されるだけの道長は次第に共犯関係のようになっていくだろうが、『鎌倉殿〜』の義時&政子姉弟の二の舞いにはならぬよう、あのラストに打ちのめされた身としては祈っておきたい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夜6時から、BSP4Kは昼12時15分からの放送。2月18日放送の第7回「おかしきことこそ」では、まひろが道長への思いを断ち切るための手段として、直秀たちが演じる散楽の台本を手掛けたことで起こる騒動などが描かれる。

文/吉永美和子