神戸のスタジオから「男の子たち」のはしゃぎ声が聞こえてくる──。

4月9日より「ラジオ関西」でスタートした、お笑いコンビ・黒帯(てらうち、大西進)がパーソナリティを担当するPodcast番組『黒帯のブロンドスポーツ脚研究会』。番組の中身は、「下ネタ」と「芸人ゴシップ(主に元所属事務所の松竹芸能、現所属事務所の吉本興業の芸人)」という2人が好きな話題で埋め尽くされていた。

2023年には笑いの殿堂「なんばグランド花月」で初単独公演をおこない、今回のPodcastは、マユリカや紅しょうが、ダブルヒガシという人気コンビに次ぐ抜擢。着々と注目を集めているが、メディアでの露出はまだ少ない。彼らは一体何者なのか?

取材・文/田辺ユウキ

■ 注目のラジオ制作者が期待を寄せる、黒帯の「ひどい話」

取材に訪れたこの日、収録開始早々「今井らいぱちなんか東京へ行っても仕事なんかないやろ」と先日までマンゲキ(大阪よしもと漫才劇場)に在籍していたピン芸人に毒づき、さらに元松竹芸人たちの過激な女性関係も暴露。しかし、単に仲間を売るようなマネはしない。自分たちもちゃんと泥を被る。そこが黒帯なりの「毒舌の美学」である。

さらに大西は収録中「1回目のやつ(放送)を聴いたけど、気持ち悪かったもんな。俺、めっちゃ『女』って言うし。もう戻れへんよ。男子(のリスナー)を引き込むしかない。俺らに任せた方が悪い」とPAのブースへ視線を向ける。

視線の先にいたのは、同番組を手がけるラジオ関西の神吉将也プロデューサーだ。昨今『マユリカのうなげろりん!!』『紅しょうがは好きズキ!』『はちくちダブルヒガシ』といった若手芸人をパーソナリティに迎えたPodcast番組でヒットを飛ばす、今もっとも注目のラジオ制作者である。

「もちろん放送局員としてNGラインは意識していますが、⿊帯さんにはひどい話も含めて本⾳を話してもらいたいんです」と神吉プロデューサー。前もって制限をかけることはなく、本人らしく話してもらうことを第一に考えているという。大西からの「とことんいくからな、神吉さん。(ラジオ関西に)出入りできへんようにするからな!」という挑発も、神吉プロデューサーはうれしそうに受け止めていた。

■ 「これまで劇場でも何回も怒られてきた」(てらうち)

収録を終えた黒帯に話を訊くと、てらうちは「まあ、怒ろうと思ったらナンボでも怒れるPodcastですからね。でもここまで行き切っていたら、みんな『もうええわ』ってなってくれるんじゃないですか。俺らはこれまで劇場でも何回も怒られてきましたから。昔、金属バットさんとのライブで、パーテーションを1枚吊るしただけで服を全部脱ぐとかもやってましたし。この番組もいつかどっかで怒られるんちゃいますか」と屈託なく笑う。

一方、大西も「今は『これもアカン、あれもアカン』とか言われるじゃないですか。でもしゃあないっすよ。だって僕ら、こういう人間なんで」と何かに迎合する様子はまったくない。

今やメジャー局が制作する幾多のラジオ番組、Podcast番組のなかでも、同番組の軸となる「エロ・グロ・ナンセンス」な内容は、かなり貴重なものではないか。てらうちは「スプラッター映画、ホラー映画、エロ系、サブカル系が好き」と、もともとアングラ寄りであると明かし、大西も「イヤな人間模様を見るのが好きなんです。誰かがケンカをしていたら、その理由を探りたくなる。あとエロ系ってトラブルも起きやすいじゃないですか」と危険な香りがする方へ吸い寄せられてしまうそうだ。

ただ、そういうヤバい話は腕や芸がなければ操れない。その点、黒帯は2023年まで6年連続で『M-1グランプリ』準々決勝へ進出しているほか、2023年には「なんばグランド花月」での初単独公演『黒帯って何がおもろいの?』も大成功を収めた実績を持つ。

てらうちも「俺らも一応プロではあるので、ラインはちゃんと考えながら下ネタとかを言ってますね。男性はもちろんですけど、女性もシチュエーションを整えたら下ネタって気軽に笑ってくれるし」と自負はある。加えて大西は「そもそも僕らはマイルド軍団なので。三浦マイルドさん自身が過激なことばかりやっていましたから」と、『R-1ぐらんぷり2013』(現『R-1グランプリ』)王者である「軍団長」から受けた影響も口にした。

■ 「野心が強すぎる芸人は楽しくなさそうで」(大西)

初回放送では、てらうちがピアッサーを持参してヘソにピアスの穴を開けるという思い切った行動にも出た。そのため「次はどんなことをしてくれるのか」と過激さのハードルが上がってしまった。てらうちは「今はフラットに戻すように、トーク重視の回をやっていますね」と一旦、場を均(なら)しているという。

それでも、自分たちが楽しいと思うこと、おもしろいと思うことには素直でいたいと話す。大西は「僕自身、芸人として変に大きな夢を見ていないんです。リアル思考なので、奇跡みたいなことを信じていないというか。もちろん自分なりに野心はあるし、今よりもっと良くなりたい。でも野心が強すぎる芸人とか見ていると、みんな眉間に皺を寄せていて何か楽しくなさそうなんですよね。それで潰れるパターンも多いじゃないですか。お笑いって誰かに頼まれてやる仕事ではないし、それなら自分で『好きなことをやってるな』と感じながらやりたいんです」と語る。

てらうちも「お笑いって、理想を求めたらキリがない。それを求めすぎてコンビとしておかしくなってしまうんやったら、そこまでのことはやりたくない。だって、めっちゃオモロいのに解散しちゃうコンビが多いじゃないですか。やっぱり『もったいない』と思うんです。だったら、俺らはお笑いで食えているし、楽しく生きれているから、『じゃあ次はもうちょっとだけ、その次ももうちょっとだけ』を繰りかえしながらずっと活動していきたいんですよね」と何事も自分たちのペースでやりたいと話す。

そんな2人だからこそ、この番組は「大事にしたいコンテンツなんです」と力を込める。番組の長寿化を狙いつつ、黒帯はこれからも怒られるかどうかのギリギリのところを攻めていく。

Podcast番組『黒帯のブロンドスポーツ脚研究会』は毎週火曜・夜11時ごろ配信中。