カリスマ実業者である永守重信さん。彼が語った「会社がおかしくなる6つの要因」が大変興味深い内容であるとして、今回、メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』で紹介しています。対談相手はウシオ電機・牛尾治朗氏です。

会社がおかしくなる6つの要因

世界的な精密小型モータの開発で知られる日本電産(現ニデック)。同社を牽引してきたのが、言わずと知れたカリスマ・永守重信会長です。

その仕事に賭ける情熱や人生論について、月刊『致知』2011年10月号に掲載のウシオ電機・牛尾治朗氏との対談から改めて振り返ってみました。永守会長が語る「会社がおかしくなる6つの要因」は、経営者でなくとも身につまされます。

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〈牛尾〉
永守さんは西田幾多郎の、

「人は人吾は吾なりとにかくに 吾が行く道を吾は行くなり」

という言葉が好きだそうですね。そういう永守さんの経営人生を象徴するものの一つが、日本電産本社の一階奥に設置しておられるプレハブ建屋だと思うのです。

今度御社に伺う時にぜひ一度拝見したいと思っているのですが、創業当時に作業場として使っていたものだそうですね。

〈永守〉
はい。あれをご覧になった方の反応は半分半分に分かれるのです。涙を流さんばかりに感動される方と、本社ビルの一番いい場所になんであんな汚いものを置くのだという方がいらっしゃって、おもしろいですよ。

私としては、創業期のあの厳しい時期を乗り越えてきたからこそ、ここまでこられたわけでね。辛い時にそこへ行くと、あの時の苦しさに比べたらこんなものは大したことはないなと思い直して、また元気を取り戻せるのです。

新入社員にも入社時に必ず見せますし、落ち込んでいる幹部がいたら、ちょっと見てこいと言うのです。

〈牛尾〉
いまのお話を伺って頭に浮かぶのは「惜福」という言葉です。これは安岡正篤さんから教わった言葉で、訪れた福を使い果たさずに、将来のために惜しんで取っておきなさいという教えなのですが、永守さんの考え方はこれに通ずるものがあると思います。

下積みの時代に泊まった安宿に、成功してからも時々泊まりに行くといった話をよく聞きますが、惜福を実践するには、そういうように苦境にあった時のことを忘れない工夫をすることが大事です。

〈永守〉
非常に大事なことですね。

一番怖いのは、後から入ってくる幹部が昔の苦労を経験していないために、一流企業に入ってきたような感覚で振る舞うことです。そういう人たちには口で言っても伝わりませんから、プレハブ建屋を見せるのが一番いいのですよ。

そこは建物だけではなしに、当初からの記録もたくさん残っていて、私自身が現場で懸命に仕事をする様子も残っている。それを見ると皆ハッとするのです。逆に、それを見ても感激しない人は、最初から採用しないほうがいいです。

やっぱり考え方が一致していないと今後のグローバルな戦いは勝てません。ただ頭がいいとか、経験が豊富だとかいうだけではダメで、本当にその会社が好きだという人が集まってこないとしらけてしまいますね。

〈牛尾〉
本当にそうですね。

〈永守〉
だから私は採用担当者に言うのです。

最近は一流大学からどんどん入社してくるようになったけれども気をつけろよと。一番大事なのは、日本電産という会社が好きだという人間、よく働くこの会社で自分も一緒に頑張りたいという人間が集まってくることだと。

一所懸命働くところから始まった会社なのに、ただ有名で給料も高いから入りたいとか、役員として入ってきて威張り散らすような気持ちでやられると、会社なんてあっという間に沈んでいくのですね。

〈牛尾〉
おっしゃるとおりです。

〈永守〉
だいたい会社がおかしくなる要因を6つ挙げよと言われたら、一番はマンネリでしょう。それから油断、そして驕り。人間はすぐこういう躓きをするのですが、この段階はまだ元に戻せるのです。

その次が妥協。震災がきたのだからしょうがない、円高だからしょうがないと妥協する。これはもうさらに落ち込みますね。次は怠慢です。頑張っても怠けても給料は一緒じゃないかとかね。

そして最後は諦めです。そんなこと言ったってできません、という考えがはびこってきた時は末期症状ですね。

最初の3つはそんな大敵ではないけれども、後の3つに陥ったらもう取り返しがつきません。

〈牛尾〉
特に会社が順調な時が危険ですね。他社よりも昇給率もいいし、収益もいいし、いいところに入れてよかったですね、と人から言われるようになると、だんだん自分を見失ってくるんです。

(本記事は月刊『致知』2011年10月号 特集「人物を創る」より記事の一部を抜粋・再編集したものです)

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