3月20、21日に韓国で初めて行われたメジャーリーグベースボール(MLB)開幕シリーズ。両日ともに超満員の入となりましたが、なぜMLBはソウルをシーズン開幕の地に選んだのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、その裏事情を解説。さらに人気が伸び悩む野球の「消滅危機」の救世主となりうる「ベースボール5」という、欧州やアフリカを中心に広がりを見せる新しい形の野球を紹介しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

「野球消滅」から「再興」へ ベースボール2.0 MLB2024韓国ソウルシリーズ開幕 野球復活への道筋

メジャーリーグの国際化の新たな取り組みがスタートする。MLBは3月20日、韓国ソウルの高尺スカイドームで、サンティエゴ・パドレス−ロサンゼルス・ドジャースの開幕カードをスタート。

開幕戦にはパドレスのダルビッシュ有投手が先発、2戦目にはドジャースの投手として山本由伸が指名され、巨額契約を勝ち取った大谷翔平選手とともに、試合を彩る。

メジャーリーグの国際展開は、今回が初めてではない。1990年代以降、競技の普及や選手発掘をもくろみ海外展開を加速。

90年に米国・カナダ以外では初の公式戦となったメキシコを皮切りに、米自治領プエルトリコやオーストラリアでも試合を行ってきた。東京でも2000年に初めて公式戦を開催。来年も開催が検討されている。

MLBは、莫大な放映権料収入に支えられ、22年の総収益は108億ドル(約1兆6,000億円)にまで拡大。一方、米国内で球場に足を運ぶ人の数は伸び悩む。

22年の有料入場者数は6,445万6,658人。コロナ禍の感染拡大の影響で入場制限があった20〜21年を除くと、1998年以降で最小にまで落ち込んだ。

一方、日本のプロ野球(NPB)の2022年の公式戦の入場者数は計2,107万1,180人。12球団各143試合のNPBと、MLB30球団162試合という数値を比べればNPBとMLBの入場者数は、1試合あたりでみてもそう変わりない。

高校球児数3,600人。MLBも懸念する韓国の野球事情

今回、メジャーリーグが海外展開とともに背負う任務は、「韓国の野球再興」だ。

約3,600人。これは韓国で高校野球をプレーする人の人数だ(*1)。対して日本の硬式野球部員は14万3,867人だった。

現状、韓国のプロ野球は「小数精鋭のエリート主義」という側面が強い。韓国の高校野球児はほぼすべてプロ野球を目指すという(*2)。

スポーツは大学進学や兵役免除の手段という側面も強い。競技としての裾野の広がりも不十分で、

「大枚をはたいて試合を見てくれるような“コア層”は生まれにくい」(*3)(名城大・鈴村裕輔准教授)

というのが実情だ。

17日にスカイドームで行われたドジャース−キウム(韓国プロ野球チーム)の試合は約1万8,000人の収容人数に対し、観客や1万4,600人といやや空席が目立った。

優秀な選手の供給源である韓国の事情は、MLBも懸念するところ。韓国は過去、アジアでは日本に次ぐ強豪国としてメジャーリーガーも多く輩出してきた。MLB側も熱心なのもうなずける。

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野球 国際化の現在地

MLBの国際化戦略は決して順調とは言えなかった。MLBは、初め、中国市場へ進出。2008年の北京夏季オリンピックを機に、中国で野球を広めるための熱心な取り組みを開始したものの、野球の人気は伸び悩む。

対照的に同じ時期にNBAで中国出身の姚明選手が活躍し、バスケットボールの人気が高まっていく。

その後、MLBは欧州に目を向け、イタリアを含む各地でアカデミーを設立し、才能の発掘と新たな市場の開拓に取り組む。

そして2019年には、英ロンドンでメジャーリーグの公式戦が初めて開催。イギリスは野球のルーツとも言えるクリケットの発祥地であるため、野球の普及に期待が寄せられる。

近年では、中東にも注目が集まり、2022年7月には中東初のプロ野球リーグ「ベースボール・ユナイテッド」が始動。このリーグは、UAEとドバイを中心に湾岸諸国で試合を行う。

一方、日本の野球界はアフリカに目を向けている。例えば、ケニアでは昨年8月に高校野球大会が開催。

また、慶応義塾大学野球部出身で、国際協力機構(JICA)の職員だった友成晋也氏は、ガーナ、タンザニア、南スーダンの3カ国で野球普及のための活動に取り組んでいる(*4)。

5人制野球 「ベースボール5」注目

野球の国際化で注目されているのが「ベースボール5」という新しい形の5人制野球。

このゲームは、2017年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)によって考案され、特に若者や野球になじみの少ない地域での普及を目的としている。

伝統的な野球のルールに基づいているものの、フィールドが野球の内野よりも小さな21メートル四方であり、より短時間で試合が進むことが特徴。5イニングの場合、平均して約30分で完了する。

男女混合のチームで行い、それぞれ2人以上がフィールドに立つことがルールとなっている。そして投手がおらず、打者が自分で、ゴムでできたボールをトスして打つというスタイル(*5)。

ベースボール5は世界的にも広がりを見せており、ヨーロッパやアフリカを中心に70カ国以上で楽しまれている。

2022年にはメキシコで初のワールドカップが開催され、2026年にはセネガルのダカールで行われるユースオリンピックにも採用されることが決定した。

ベースボール5の普及によって、野球への関心が再び高まり、「野球消滅」という危機を乗り越え、野球人気が「再興」するか。こちらにも注目だ。

■引用・参考文献

(*1)鈴村裕輔「韓国で初の公式戦を行う大リーグの思惑…背景に高校球児わずか『約3600人』の惨状」日刊ゲンダイ 2024年2月28日

(*2)大島裕史「『プロ野球第一』『大学進学のための全国大会』日本とは似て非なる韓国の高校野球事情」高校野球ドットコム 2019年9月6日

(*3)木村祐太「大リーグ 世界展開に汗 きょう韓国で初の開幕戦」日本経済新聞 2024年3月20日

(*4)神田さやか「『球児の夏』アフリカでも ケニアで甲子園初開催 慶大野球部もバックアップへ」産経新聞 2023年8月21日

(*5)大宮慎次朗「野球の新形態『ベースボール5』 甲子園出場チームが取り組む理由」朝日新聞デジタル 2024年3月18日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年3月24日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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