ウクライナ戦争や中東地域の混乱など、緊張と混迷が深まる国際社会。そんな中にあって、欧米主導の世界秩序を破壊し新たな統治の形を生み出そうとする「試み」が確実に存在するようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ロシア・中国・イラン・北朝鮮をメインとする「戦争の枢軸」の動きを詳細に解説。我が国を含む自由主義陣営に、果たして打つ手はあるのでしょうか。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:戦争の枢軸は世界を恐怖に陥れることになるのか?‐中東、ユーラシア、アジア情勢の混迷

「戦争の枢軸」が敢えて作り出す混乱と恐怖。中ロが世界にもたらす負の連鎖

皆さん【XXの枢軸(Axis of XX)】と聞かれて何を想像されるでしょうか?

1930年後半に構築された日独伊の枢軸同盟でしょうか?

それとも9-11の同時多発テロ事件を受けて、当時のアメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ氏が用いたAxis of Evil(イラン、北朝鮮、イラク)でしょうか?

または、イスラエルとハマスの戦いを機に、再度、注目されたイラン主導の抵抗の枢軸(Axis of Resistance)でしょうか?

そのどれであったとしても共通するのは、【非民主主義体制であり、米英と対抗する国々・組織】を枢軸と欧米諸国とその仲間たちが呼んでいることです。

ここで気をつけないといけないのは、【誰の目から見て邪悪で抵抗する存在なのか】という見解・アングルの見極めです。

欧米諸国とその仲間たちから枢軸と呼ばれている国々や組織の側から見ると、枢軸という名称を使うかどうかは別として、欧米諸国とその仲間たちこそが邪悪であるという見方をします。

今回、このコーナーでお話ししたいのは“どちらが正しいか・悪いか”ではなく、現在、いくつもの大きな戦争が世界で起きている最中、欧米主導の国際秩序に対して楔を打ち込もうとしている新しい枢軸と言われている【戦争の枢軸(Axis of Wars)】が引き起こしかねない混乱についてです。

この戦争の枢軸の構成国は、【ロシア、中国、イラン、北朝鮮の4か国】がメインと言われていますが、現在、中東危機に世界の目が向けられている事態に乗じて、ロシアと中国が核となり、他地域でも強気な行動に走り、それが欧米主導のこれまでの国際秩序の在り方を激しく揺さぶり、混乱と恐怖を通じて、新しい統治の形を作ろうとしているのではないかという懸念が生まれています。

これは私もご招待いただいたイスラエルのシグナル・グループが先週に開催したオンライン会議で多くの参加者から寄せられた懸念を整理したものですが、実際の状況を分析してみると、確かにこれら戦争の枢軸の国々の間での戦時協力が高まっている姿が浮かび上がってきます。

例えば、ウクライナに侵攻し、その後もウクライナの東南部を一方的に編入し、クリミアを死守しつつ、ウクライナ全土への影響力拡大を狙うロシアに対して、イランは大量のドローン兵器を提供していることが分かっていますし、北朝鮮も、金正恩氏のロシア訪問後、100万発を超える砲弾と“弾道ミサイル”をロシアに提供して、ロシアによるウクライナ侵攻に加担しています。

世界中を火の海にする可能性が指摘される「戦争の枢軸」

中国については、現時点までは殺傷兵器をロシアに提供しているという事実はないようですが、武器弾薬の生産のための工作機械や電子部品をロシアに提供し、かつ無人機もロシアに提供しているという情報が寄せられています。

一応、表面的には習近平国家主席と政権はこれに加担しておらず、中国企業があくまでも“ビジネス”として行っている商業行為とのことですが、実際のところ、共産党政権の許可なくこのような大それたことをすることはできないだろうと考えられますので、中国もバランスを取りながらではありますが、独自の方法でロシアによるウクライナ侵攻を、時折、仲介役を申し出ているにも関わらず、後押ししている状況が覗えます。

ロシアは北朝鮮に対して核ミサイル・弾道ミサイルの開発支援を行っており、最近、ロシアの軍事技術者が派遣され、北朝鮮に常駐して指導しているという情報もあります。また今後、ロシアと北朝鮮の協力関係が深化していった場合、最新鋭戦闘機のSU35もロシアから北朝鮮に提供されるのではないかという分析も存在します。

そしてロシアはイランに対して戦略的パートナーシップ協定の下、北朝鮮に対するのと同じように軍事的な技術やノウハウを移転し、イランの軍事力の向上に多大な貢献をしているようですし、中国は同じく戦略的パートナーシップ協定の下、イランとの経済関係の強化と技術開発の協力を進めています。

この戦争の枢軸国が、今、混乱を極める国際社会において、同時並行的に行動を起こし、主導することで、戦争の連鎖が起きて、世界中を火の海にする可能性が指摘されています。

ロシアがウクライナとの戦争を進める中、中国は台湾への脅威をカモフラージュにして、南シナ海における支配権を強め、広めようとしています。そして北朝鮮はミサイル実験を異例の頻度で実施し、“核反撃訓練”と称して4月23日にも核弾頭搭載可能とされる短距離弾道ミサイル(超大型放射砲と呼んでいる)を東シナ海および日本海に向けて発射することで、アメリカと韓国、そして日本にプレッシャーをかけ、アジア地域に釘づけにし、アメリカの戦力とフォーカスを分散してアジアに引き付けています。

そしてイランは、ご存じの通り、イスラエルとの緊張を高めつつ、自らが主導する抵抗の枢軸をactivateして、従来通りの親イラン派抵抗組織による対イスラエル・同盟国攻撃に加え、エスカレーションを回避しつつ、1979年来初めてとなるイスラエルへの直接攻撃も行うことで、中東地域にアメリカを引き戻し、再度張り付けて戦力とフォーカスを分散させることに一役買っています。

このようにしてロシアのウクライナ侵攻と並行して、中東紛争、そしてアジア危機(北朝鮮のミサイル実験と発射に加え、中国による南シナ海での強硬な威嚇行為の連鎖)というように、違った地域で起きている緊張・危機に対して同時に油を注ぎ、緊張を一気に高めることで、これらの紛争・緊張が互いに反応・反響しあい、動きがそれぞれ加速して強度が増すという負の連鎖を引き起こすのではないかと懸念されます。

何としても防がなければならないロシアの勝利と中東全面戦争

今、この脅威に対抗するためにアメリカ軍を軸に、日米韓の軍事協力やAUKUSの強化、そしてアメリカとフィリピンのミサイル配備訓練を含む高度の軍事演習などをアジアで行って中国による脅威に対峙していますが、アメリカは現在、派兵はしていなくても、ウクライナ戦争にどっぷりと浸かっていますし、戦略的同盟国であるイスラエルの後ろ盾として中東危機にもコミットしており、多方面での対応を強いられています。

2010年代に入るころまでは“世界の警察官”として7つの海すべてをカバーし、同時に2つ以上の紛争に対応できる体制を敷いていた米軍ですが、オバマ政権以降、大きな方針転換を行い、2010年代後半以降、1つの大紛争に対処する能力しか持てなくなっています。

NATOやAUKUSなどを含む米軍主導型の同盟関係サイドは、早期にアメリカ・アジア・欧州の同盟国間で、同時進行型の大紛争に対する対応策を構築して確立する必要が喫緊の課題として挙げられます。

もし、協議に手間取り、綱引きを行った結果、その場対応に陥ってしまった場合、欧州各国とアジア諸国、そして中東各国も、戦争の連鎖の前に慌てふためき、結果として、アジアと欧州がアメリカの戦力を奪い合うという、同盟内での内紛が勃発する危険性が現実のものに替わってしまいます。

そのためにはロシアによる勝利と、中東地域における全面戦争を何としても防がなくてはならないのですが、どちらのフロントもあまり有利な望ましい状況とは思えません。

ロシア・ウクライナ側のフロントにおいては、先述の通り、608億ドルの緊急支援予算が米議会を通過して1週間から2週間ぐらいの間に、武器弾薬の第1陣がウクライナに届けられるはずですが、そこにはゼレンスキー大統領が要求する重火器や長射程のミサイルなどが含まれるかどうかは未定で、5月から6月に予想されるロシアからの大規模攻勢に対抗するためのタイミングに間に合うかどうか微妙です。

またウクライナ軍の戦略では、5月から6月に起こると言われているロシアによる大規模攻撃を耐え、2025年春までには対ロ反転攻勢に出たいと考えているようですが、これらもすべて欧米からの支援頼みであり、以前、NATOが合意した武器生産に対する支援などがそのタイミングまでに間に合うかどうかも不透明だと言われているため、捕らぬ狸の皮算用にならないかとても心配です。

ロシア政府のペスコフ大統領報道官は「ウクライナはさらに荒廃し、キーウ政権の愚かな行動のために、さらに多くの犠牲がウクライナにもたらされることになる」と警告していますが、ロシア側では戦時経済体制がすでに安定的に稼働し、武器弾薬の生産体制と、戦争の枢軸国との戦時協力体制が確立していることから、すでに5月から6月の大規模攻撃に加え、数段階に分けてウクライナを徹底的に叩くための作戦と体制を整えているようだとの情報もあります。

一部で囁かれる戦術核の使用については、個人的には、いろいろな状況に照らし合わせて非常に非現実的であると考えていますが、実際にはすでに臨戦態勢には入っているようで、十分、核兵器による脅しは効いているように思います。

心配なのは、ロシア政府内・議会内の強硬派の勢力と発言力が増しており、2030年までのマンデートを獲得したプーチン大統領も、強硬派の意見を取り入れがちであると言われていることから、強硬派からの要求のガス抜きのための使用は否定できないのではないかと懸念しています。

「相手に止めを刺すのは自国」の信念が強いイスラエルとイラン

そのロシアは、アジアサイドの攪乱のために、北朝鮮に対して核兵器開発の指南をし、外交的なチャンネルもフルに活用して北朝鮮の時間稼ぎに手を貸していますし、中国とは(北朝鮮の核開発には難色を示しつつも黙認)互いの背中を守り合う態勢で、中国による南シナ海方面と太平洋方面での強硬な動きを後ろからサポートして、アジア太平洋(インド太平洋)地域における緊張の高まりを促進させる働きをしているようです。

そして中東地域においては、イランを先頭に立て、イスラエルとの緊張関係を煽りつつも、レッドラインを越えないように細心の注意を払ってイラン政府に忠告しつつ、中国は経済面を、ロシアは軍事面をサポートする形で強力な抵抗体制を支えています。

イスラエルとイランの緊張については、お互いにミサイルを報復攻撃の形式で打ち合ったことで、現時点では手打ちしていますが、イランには親イランの抵抗組織の集合体である抵抗の枢軸(Axis of Resistance)(シリア、レバノン、ヒズボラ、フーシ派など)を通じた間接的なイスラエルへの攻撃をいつでも加えられるという脅威をちらつかせることで、イスラエル軍のフォーカスを分散させ、イスラエルを支援するアメリカ軍と英国軍のフォーカスも分散させています。

イスラエルもイランも互いに“相手に止めを刺すのは自国でないといけない”という信念が強く、緊張が高まり沸点を超えると我慢(自制)の箍が外れる可能性があります――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年4月26日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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