物議を醸すのも人気がある証拠

 多くのファンがいる人気マンガでは、すべての読者が満足できる終わり方は難しく、時に連載終了時に不満の声が挙がることがあります。そのなかには、「ハッピーエンド」で終わっているのに、最終回で賛否が割れてしまった作品もありました。

※この記事では『範馬刃牙』『バクマン。』『東京卍リベンジャーズ』のネタバレに触れています。

●『範馬刃牙』…「エア夜食」で「地上最強の親子喧嘩」決着ッ!

 人気格闘マンガ『刃牙』シリーズでは、第1部から、範馬刃牙が父である勇次郎に挑む親子の関係が描かれていました。シリーズは4部以降も続いていますが、長年の親子の因縁は第3部『範馬刃牙』の「地上最強の親子喧嘩」で決着がついており、その終わり方も「ハッピーエンド」と言える内容でした。しかし、その戦いの結果や描写に関して、ネット上では賛否が分かれたようです。

 ふたりの「地上最強の親子喧嘩」は激闘の末に、勇次郎のベアハッグで肋骨を砕かれた刃牙が起き上がれず、戦いは決着したかと思われました。しかし、倒れても闘志は衰えず、刃牙が意識だけで攻撃してくるのを感じた勇次郎は、何もない空間でも具材や調理工程が見えるほどのハイレベルなパントマイムによって、「エア味噌汁」を作り始めます。そしてふたりは、大観衆が見守るなか、「エア夜食」を始めたのです。

 そして、強さを「我がままを通す力」と定義していた勇次郎は、『範馬刃牙』最終話「さようなら」にて、「勇次郎を炊事場に立たせる」という我がままを通した刃牙に「地上最強」の称号を譲りました。しかし、勇次郎に鼓膜を破られていた刃牙は、父の言葉が聞こえないまま、「決着の際に見下ろしている者こそが勝利者」という勇次郎の言葉に則り、自らの負けを認めます。

 そして、互いに「最強」と「勝利」を手放した親子が、手を取り合う大団円の終幕となりました。ただ、格闘マンガである『刃牙』シリーズの締めとも言える最大の戦いがパントマイムで決着したことや、勇次郎が刃牙に地上最強を譲ったことに、「そんな性格じゃなかったのに」「刃牙があそこまで自分を鍛えたのに、勇次郎のダメージが少なすぎて悲しい」と、一部のファンが不満を抱いたようです。また、ふたりの戦いを間近で見ていた、地下闘技場主催者・徳川光成の末期癌が治っていたことに対しても、「ファンタジーすぎる」という不満意見がありました。

 クセの強い描写の多い『刃牙』シリーズのなかでも、この最終回は「一番びっくりした」「『刃牙』にしか許されない離れ業の終わり方」「最初意味不明だったけど、あの勇次郎が刃牙に料理を振舞うという点は感動的で今では好き」と、読者の記憶にこびりついているようです。

●『バクマン。』…ダブル主人公のはずが、片方が最終話に出てこなかった?

 人気マンガ『バクマン。』は、中学の同級生だった真城最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)のふたりが、作画と原作者としてコンビを組み、漫画家「亜城木夢叶」としての道を歩んでいく姿を描いた物語です。主人公のひとりであるサイコーは、物語の序盤で初恋の女性・亜豆美保と、「自分の作品がアニメ化され、そのヒロインを亜豆が演じる夢が叶ったら結婚する」という約束をしていました。

 そして、長年の努力が実って、最終回前の175話で見事に夢を叶えたサイコーは、最終話「夢と現実」で、叔父で漫画家だった故人・川口たろうの夢を叶えるため、亜豆をフェラーリで迎えに行きます。そして、ふたりの夢を誓い合った場面を再現するプロポーズの後、幸せなキスで結ばれ、物語は幕を閉じました。

 爽やかな最終話でしたが、一部で「高級車で彼女を迎えにくるサイコーが気持ち悪い」「最終回なのに相棒のシュージンが登場しなかった」「マンガより恋愛メインの話だったん?」という意見が挙がりました。サイコーが恋愛においても自分と叔父を重ねていることや、「亜城木夢叶」のふたりの物語だったはずなのに、シュージンが軽視されているように感じた読者もいたようです。

 長年のライバル漫画家・新妻エイジとのやり取りや、サイコーからのペンネームを考えてくれたシュージンの妻・香耶への感謝の言葉など、一般的な「最終回らしい」描写は175話で描かれていたため、「176話はボーナストラックみたいなもの」という意見もありました。

 また、最終話があまりにも「予定通り」に終わったため、物足りなさを感じたという声もあったようです。これは、作者の大場つぐみ先生と小畑健先生が、衝撃的なラストを迎えた『DEATH NOTE』のコンビだったことも影響したのかもしれません。

「ハッピーエンド過ぎる」のも問題?

●『東京卍リベンジャーズ』:ハッピーエンドにするために、「リベンジ」し過ぎちゃった?

『東京卍リベンジャーズ』31巻(講談社)

 アニメ化、実写映画化で盛り上がりを見せている人気ヤンキーマンガ『東京卍リベンジャーズ』は、2022年11月に「週刊少年マガジン」に最終話が掲載され、連載が終了しました。しかし、その駆け足すぎた最終話の内容に、ネット上では物議を醸したようです。

 10回目のタイムリープで、主人公・花垣武道は、「東京卍會」総長・佐野万次郎(マイキー)にかけられていた呪い「暴力性を増長させる黒い衝動」を解放させ、彼との一騎打ちの末に瀕死状態になります。しかし武道は、死の直前にさらに10年前の小学1年生時へと、11回目のタイムリープをしていました。そしてその時、武道から能力を譲り受けたマイキーも、同じ時代にタイムリープしていたのです。

 最終話前の277話にて、現代から20年前の佐野家でマイキーと合流した武道は、力を合わせ誰も不幸にならない結末に向けて走り始めます。稀咲を誘って「東京卍會」を創設し、「黒龍」と「天竺」を吸収した後、ふたりは最大勢力にした「東京卍會」を解散したのです。

 そして最終話「Revengers」では、「東京卍會」解散から11年後の武道と、ヒロイン・日向の結婚式が描かれました。結婚式に出席した千冬やドラケン、マイキーなどの主要メンバーたちの真っ当な道で成功している11年後の姿や近況も描かれ、物語は大団円で幕を閉じています。

 しかし、武道たちが10年前に戻ってからは、わずか2話で最終話になっており、「その過程が見たかった」「未回収の伏線や謎が残っている」「稀咲が日向に惚れてた件はどうなったん?」など、駆け足すぎる終わり方に不満の声が挙がりました。特に、考察を楽しみにしていた読者は、伏線や謎を残して終わったことで不満を抱いたようです。

 また、それまで死んだキャラがみんな復活したことにも、「これまでの話が台無しになった」と憤る意見がありました。悲しい結末をたどるキャラが多く、「みんな幸せになって欲しい」というファンの意見もあった作品でしたが、実際に物語の最後でそうなってしまうと、また別の問題も生まれてしまうようです。