衝撃最終回の誕生秘話

 衝撃的なストーリーや「人間にとっての正義とは何か?」を問うテーマなど、制作から半世紀近く経った今でも、アニメファンの中に強い印象を刻みつけているロボットアニメ『無敵超人ザンボット3』。

 1977年の秋から半年、全23本、それまでの下請け制作会社と制作現場を脱却し、新生のオリジナル制作会社として設立された「株式会社日本サンライズ」が、初めて世に送り出したのが『ザンボット』です。

 腕白な中学一年生「神勝平(じん・かっぺい)」の住む平和な港町に、突如、謎の怪物「メカブースト」が出現。それは「ガイゾック」と名乗る宇宙人が操る地球人殲滅用のロボットでした。立ち向かったのは、かつてガイゾックに滅ぼされた星から密かに地球にやってきた宇宙人の末裔「神ファミリー」、神家、神北家、神江家、それぞれの子供たちが操る巨大スーパーロボットのザンボット。しかし、巨大なロボットが戦うことで、町には多大な被害が生じ、彼らは住民たちの非難の的に。命を懸けて守っている人々から罵倒される矛盾に憤りながらも、彼らは、地球が自分たちのルーツの星のようにならないために必死に戦い続け……。

 設定画や1シーンだけを見ると、一見『ザンボット』は元気一杯のロボットアニメに思えますが、そこに描かれるのは「人間」が抱えている「自分本位」と「自己犠牲」という、相矛盾したテーマです。

 そんな物語の根幹を極端に表したのが、俗に「ザンボットのトラウマ」などと言われる、知らぬ間に体に爆弾を埋め込まれた人々の「人間爆弾」という悲惨なエピソードであり、住民や国から理不尽な扱いを受けながらも、自らの命を懸けて戦ってゆく神ファミリーの姿でした。

 孫たちを助けるために、宇宙船ごと敵に突っ込んでゆく祖父や祖母、父。弟の楯となる兄、さらには、ザンボットで一緒に戦ってきた、いとこ二人、愛犬までが犠牲になります。そこまでして、どうしてお前たちは地球人を守るのか?…… 実は宇宙人が作った数あるコンピュータのひとつでしかなかった敵が勝平に問うのです。

 当時、この制作現場スタッフのひとりだった私が言うのも妙ですが、こうして改めて文字にしてみると、本当に凄い物語だったのだと再認識させられます。

 しかし実際の制作現場は様々な事情であまり良い状態ではなく、特に作画に関しては「頼むから忘れてください」と言いたくなるような場面が山盛りです。それでも、最終話に近づくに従って力のあるスタッフが少しずつ協力して下さるようになり、21〜23話は、なんとかそこそこのクオリティーにこぎ着けました。

 特に、最終話の原画を担当して下さった佐々門芳信さんは、サンライズの作画陣の中ではダントツに仕事が速く、当時の作画環境のなか、丸々1話分の原画を安定したクオリティーを保ちつつ、二週間で終わらせてしまえるので、制作仲間の間では「夜中に手が10本になるに違いない」などと言われていたほどです。

 最終話、普段は別のスタジオの仕事がメインの、その佐々門さんが原画を担当して下さったのですが、なんと、とっくに作業に入っていた前の話数よりも早く原画が上がりました。そこで、さらにその手前の話数の分まで引き受けて下さったという、まさに「神の降臨」でした。

 おかげで最終話は動画以降にも時間がとれ、凝った画面づくりが可能になりました。たとえば、主人公が乗る「ザンボエース」が、初めて敵の正体、巨大な脳味噌のような人工頭脳の前に立ち尽くすシーン。画面中央に描かれているこの脳は、わずかにゆっくりと明滅しています。

 実は、背景の描かれた画用紙の裏から水をつけ、脳の部分だけ時間をかけて少しずつ繊維をはがすことで紙を薄くし、裏から当てたライトを明滅させて撮影しています。

 また、この脳には隙間のような部分が描かれているのですが、ここも「マスク処理」という撮影技法を使って光らせるなど、異星人の「すごさ」を見せるための工夫が各所に盛り込まれています。

 そのほか、地上に落下した勝平に走り寄る人々の遠景を、出来る限り細かく彩色し直したり、作画さんの遊びで富野監督もその中に含まれていたりと、じっくりと画面をみると様々な発見が出来るはずです。

 こうした凝った演出をしたのが、10年ほど前に急逝された演出家の広川和之さんでした。サンライズ作品の他、1980年6月から1981年1月にかけて、東京12チャンネル(当時)他で放送された『宇宙戦士バルディオス』などでも監督をされており、一部では「制作泣かせ」と言われる厳しい面もあったようですが、彼の脇で特殊ペイントや作画作業を補佐した身としては、頼りがいのあるアニキのような方でしたし、彼なくして、あの最終話は無かったと私は思っています。

『ザンボット』を最後までご覧になったことのある方はご記憶でしょうか。最終話ラストカット。光の中に少しずつ消えてゆく勝平。あそこの動画とペイントは、広川さんのご指名で実は私が担当しました。それだけはちょっと自慢させてくださいね。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。