ムリに映像化を望まないファンも多い?

 2024年も、たくさんの人気マンガがTVアニメ化されます。ところで、「どうしてこのマンガはTVアニメ化されないの?」と、不思議に思う作品はありませんか? 何か「ムリ」な理由があるはずです。

「マンガがTVアニメ化される条件」は、いくつかあるそうです。これは一例ですが……

・コミック初版が10万部以上売り上げている

 人気があるのでアニメ化すれば、視聴率やグッズの売上げが見込めます。

・原作にストックがある

 TVアニメは1クール(3か月)30分、12話前後が普通です。アニメは進行が早いので、コミック8〜10巻ほどが必要とされています。ゆえに、月刊誌のマンガはハードルが高くなります。

・原作者や出版社が前向き

 そもそも、原作者側の了解がないと話が進みません。逆に、以前アニメ化された作品の出来に不満があり、「アニメ化はこりごり」という原作者は断るそうです。

 では、「どうしてこのマンガはアニメ化されないの?」と思う人気作品をいくつか挙げて、その「ムリな理由」を推察します。ちなみに、マンガは休載中も含めて、「連載中」の作品を中心にしています。

●『バガボンド』(作:井上雄彦/「モーニング」)

 剣豪・宮本武蔵の人生を描いた大ヒット作です。1988年から連載されコミックは37巻までですが、2015年から休載中となっています。もちろんアニメ化を望む声もありますが、ファンのあいだでも難しいと言われています。

 理由は、性描写や残虐なシーンが多々あることです。そして、剣の道、精神、心の葛藤という内面を描く作品なので、アニメでは毎週山場になりそうなアクションが続かないことも挙げられます。そして一番の理由は、「井上先生の画力のレベルが高すぎてアニメで表現するのはムリだろう」ということです。

●『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』(作画:長田悠幸 原作:町田一八/「月刊コミックガンガン」)

『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』は2013年10月に連載を開始し、コミックは現在21巻まで出ています。物語は……見た目が「地味」な高校英語教師・本田紫織が27歳の誕生日に、伝説のギターリスト「ジミ・ヘンドリクス」の霊に取り憑かれ、「27歳が終わる日までに音楽で伝説を残さなければ死ぬ」と言い渡されます。そして、紫織は学園の生徒たちと軽音部を立ち上げ、伝説を達成するため音楽活動を始める……という内容です。

 なぜアニメ化が「ムリ」なのか? 作品の性質上、絶対に劇中で音楽を流すことになりますが、「『紫織=ジミヘン』が作る新曲や演奏が、あの『ジミヘン』を超えるなんてムリ!」という点が大きいでしょう。他にも、演奏シーンの迫力や、雰囲気を表現するのが難しいことに加え、セリフが少ないので映像化に向いていない、とも言われています。作画担当の長田悠幸先生も、自身のX(旧:Twitter)で、作品について「実写化不可能!アニメ化困難!これぞ紙の成せる技!」と語っていました。

人気は高いけど「モラル的にムリ?」

●『タコピーの原罪』(作:タイザン5/「ジャンプ+」)

『るなしい』1巻(講談社)

 2021年12月から2022年3月まで連載された『タコピーの原罪』は、コミックは上下巻で短い作品です。短い期間でしたが、ジャンプ+で1日の閲覧数が初めて200万回を超えるほどのヒット作で、早い段階でアニメ化がささやかれました。

 しかし、全16話という短さで終了しているため、TVでは1クールも難しいでしょう。そして、メインが小学生で、いじめ、虐待、親の不倫、殺人などダークで重いシーンが飛び出すため、モラル的にも「ムリ」がありそうです。マンガは連載終了から、2〜3年経過すると映像化されにくい傾向がありますが、本作はどうなるのでしょうか。

●『るなしい』(作:意思強ナツ子/「小説現代」)

『るなしい』は、文藝春秋「週刊文春エンタ マンガ賞! 最高賞(2022年上半期)」を受賞している人気マンガです。2021年3月から連載中でコミックはまだ3巻しか出ていませんが、早々にTVアニメ化は困難と言われています。

 主人公は女子高校生「るな」で、彼女は祖母が営む医学鍼灸院で行われている信者ビジネスで、「火神の子」として要を担っていました。るなは宗教上の理由で恋愛を禁じられていますが、ある男子を好きになり告白するも失恋、振った相手を陥れようとたくらみます。

 内容がサスペンスなのはともかく、「テーマが宗教なのでムリ」と言われているようです。しかも、マンガの第1話冒頭は、るなが刑務所内にいるシーンから物語が巻き戻されてスタートしており、「犯罪」が絡んでいることが明白です。今後の展開次第で、もしかしたらTVアニメ化はあるかもしれませんが、厳しいと思います。

 特に地上波は、どんな番組でもモラルが問われ、アニメも例外ではありません。また、アニメの特性的に原作マンガのハードルを越えられそうもない、という作品もあるわけです。「アニメ化はムリ」とされる作品を、ほかにもいくつか挙げてみます。

●『よつばと!』(作:あずまきよひこ/「月刊コミック電撃大王」不定期連載中)

原作者のあずま先生が、公式ブログで「キャラクターの日常の演技描写がアニメだと難しい」という旨の理由を述べています。

●『ライドンキング』(作:馬場康誌/「月刊少年シリウス」)

 海外でも人気のマンガですが、主人公のモデルが「ロシアの大統領」というのが一目瞭然なため、少なくともウクライナとの戦争が終わりでもしない限り「ムリ」でしょう。

●『パラレルパラダイス』(作:岡本玲/「週刊ヤングマガジン」)

 作品の設定で「女性は男に触れるだけで発情し、唯一の男である主人公と性行為をする」という性的なシーンが、物語にも大きく絡んでいるので「ムリ」でしょう。

 どうしても映像化したいなら、TVアニメ意外の選択肢もあります。実写ドラマ化や映画化、R指定での映画化、近年はNetflixなどの配信サービスで、ドラマシリーズや映画が作られることも多いです。これらの場合、物語は原作のなかの1エピソードに絞ったり、設定は同じでも内容を変えたオリジナルにしたりするという方法も考えられます。アニメよりも、実写向きのマンガもたくさんありますよね。

 もちろん、原作マンガの世界観を壊されたくないので映像化を望まないファンもいますから、何でもかんでも映像化すれば良いというものではありません。皆さんが思い浮かぶ、「TVアニメ化して欲しいけどムリそうなマンガ」は何でしょうか?

※記事の一部を修正しました。(2024年1月10日 15:29)